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誰だって犯罪者になりうるんだから、社会はもっと寛容であるべきなんじゃなかろうか。



職親プロジェクトの連絡会議の様子(撮影:うさみのりや)
職親プロジェクトの連絡会議の様子(撮影:うさみのりや) 写真一覧

一般刑法犯の再犯率は43.8%と過去最悪


人は多かれ少なかれ、間違いを必ず犯すものだ。だから過ちを犯した人に立ち直るチャンスをどれだけ与えられるか、ということは社会の寛容さを表す一つの指標になりうるように思う。

では我が国はどうなのかということを見てみると、平成24年度犯罪白書によると一般刑法犯の再犯率は43.8%と過去最悪を記録し15年連続で悪化しているそうだ。その大きな原因の一つに、多くの受刑者が出所後に戻るところが無く、就業の機会も与えられず、経済的に困窮して「生きるために」再び犯罪に手を染めざるを得なくなる、という悪循環の構造がある。そういう意味では我が国は決して寛容な社会とは言えなさそうだ。

そんな非寛容な我が国の中で、刑務所や少年院の出所者に就労の機会を一定期間提供し、仕事ぶりをみて正規雇用まで繋げる「職親(しょくしん)プロジェクト」という奇特なプロジェクトが進められているということで、さる5月28日大阪の難波で開かれた同プロジェクトの会合に参加して来た。

これまでも出所者に就労機会を提供することで社会復帰を支援しようとする取り組みは多々あったが、この職親プロジェクトの特徴は、「仕事と住まいのない出所者の再犯率が高い」ということを踏まえて、出所者が社員寮や更生保護施設などで暮らせる環境を整えることと、出所者を受け入れる会社が社名を公表してオープンな形で社会復帰を支援するという2点にある。

完全に身ぎれいな人間なんていないわけで、かくいう私も少し前まで官僚というお堅い職業についていたのだけれど、実は中学時代は何度か補導された経験もある。幸いその当時は、警察が事件化せずに学校へ連絡するのみで、先生からゲンコツを貰う程度ですんだ。もちろん両親からは大目玉を食らったが、今振り返ると周りの人が私に対して自力で更正するチャンスをくれたということなんだろう。それから当分そのことはすっかり忘れていたのだが、官僚を志望するようになり、官庁を面接で回ったとき「あの時の話を面接官が知っているかもしれない」と急に不安になったことがあった。結果としては無事経済産業省で働く機会をもらえたわけだが、実際に服役を経験した人は、あの時私が感じた不安とは比べものにならない程大きな不安と日々戦っているのだろう。

あるハローワークに聞いたところ、受刑歴を明らかにしてしまうと就職は極めて難しいので、「履歴書には絶対書かないように」と指導をしているそうだ。とは言ってもネット社会になって、少し検索すれば直ぐに犯罪歴は明るみになってしまうので、出所者の就職環境は非常に厳しくなっているようだ。そういう中で、企業側からオープンに出所者を受け入れることを表明するこの取り組みは非常に価値がある。出所者としても、自分の犯罪歴が周りに知られることは嫌だろうが、逆に隠していることがなくなる分後ろめたさや「犯罪歴がバレたらどうしよう」という将来に対する不安がなくなり、長期的には良い環境になるだろう。

プロジェクトはまだ動き出したばかりで、現在参加企業7社(千房、一門会、牛心、信濃路、カンサイ建装工業、プラス思考、プログレッシブ)が受刑者に対してプロジェクトの参加を募集している段階なのだが、面白いのはここでも雇用のミスマッチが生じている点で、有名な企業には応募が殺到し、中小企業には応募がほとんどない、というところだ。始めは「そんな選べる立場なのか??」と思ったのだけれど、説明を聞くと納得がいった。刑務所や少年院では外部接触の機会が限定されるため、外の情報も手に入らず、刑務所内で会社説明会を行うことも困難なので、こういったミスマッチはむしろ拡大する傾向にあるようだ

そういう中で問われるのが実際に日々受刑者と顔を合わせる行政側の力量で、担当する法務省矯正局側も個人情報が分からないように加工して受刑者の情報を開示するなど最大限の便宜は図っているのだが、やはり根本的な制度上の問題が存在するようだった。刑務所は法律上あくまで受刑者を収容し矯正する施設とされているため、受刑者の就労に向けて働きかけることは原則許されていないそうで、どうしても出来ることが限定されてしまうそうだ。

経営者としてもこのような取り組みに手を挙げることは相当な覚悟が必要で、実際プロジェクトのリーダー的存在で職親プロジェクトが始まる以前から出所者の受け入れを進めている(株)千房の中井社長は「社長である自らが身元引受人になり、従業者にも取り組みの意義を入念に説いて、まさにプロジェクトの名前の通り『出所者の職の親になる』覚悟を持った上で受け入れを進めている。それでも上手く行かないことはある。」と述べていらっしゃった。しばらく真面目に働いていたが、会計をごまかして着服していた出所者などもいたそうだ。社長としては責任問題だろう。

犯罪者と普通の人は本当に紙一重


これだけの覚悟を持った経営者が集まり小さいながらも漸く火が灯ったのだから、行政側としてもそれを後押しするような形で、特区制度の活用を促したり、受刑者の個人情報の活用指針を整備したり、選任の担当職員を割り当てたり、といった機動的な動きを是非見せてほしい。こうした制度的障壁を乗り切る為には政治家のリーダーシップが望まれる不可欠なので、法務相の谷垣さんにはこうして職親プロジェクトのメンバーと一緒に写真を撮るだけではなく、その人柄にあった堅実で一歩踏み込んだ支援を期待したいところだ。

会議の最後にある経営者の方がスピーチをしたのだが、それがとても心に残った。少し前に新店舗の開店に向け人材を募集したところ、専門技能を有する上非常に物腰柔らかい人物が応募して来たので早速採用を決め「良い人材が採れた」と胸を撫で下ろしていたそうだ。その数日後家族での夕食の際に何気なくテレビをつけてみたら、採用した人物に関して「昨日、親子で口論になった際に、親を刺し殺してしまった」というニュースが流れていたそうだ。次の日に、その人物の妹から「兄が長期入院したので、仕事の話は無かったことにしていただきたい。申し訳ない。」との連絡が来て、その時に、「世の中何があるか分からない。犯罪者と普通の人は本当に紙一重なんだ。」と痛感し、職親プロジェクトへの参加を決断したとのことだった。

少し私自身の話をすると、経済産業省に勤務していた時代は安定した環境にいたので「自分が犯罪を犯すことなんてあり得ない」と思っていたが、退職して自分一人で稼がなければならなくなったばかりのころは何をやっても上手く行かず、口座にわずか8万円しか残らない状態になったことがあった。その時にはこのままお金がなくなったら、食い逃げでもするしか無いのか、なんて言うことを真剣に考えたこともあった。会社組織の中にいると分からないが、どん底というのは思ったよりも身近にあるし、どん底になると人の判断はおかしくなってしまう。「人はいつ犯罪者になってもおかしくない」そういう前提をもっと社会は共有すべきなんじゃないかと思う。

そうすれば社会がより寛容になって、職親プロジェクトのような取り組みも広がっていくんじゃなかろうか。そんなことを考えながら、折角なので記念にプロジェクトに参加している千房さんでお好み焼きを美味しく頂いて、帰りました。

(取材協力:日本財団)

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