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虐待や育児放棄の問題、そして子どもの福祉全体に光をあてよう



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理解が進まない乳児院や児童養護施設の実態


「乳幼児は有権者じゃないから、政治家は無関心なんだ。国民の関心だって低く、誤解も多い。」
これは、『赤ちゃんの福祉と特別養子縁組』に関するパネルディスカッションでの発言です。
「乳児院や児童養護施設について多くの国民は無知で、建設する際には少年院のようなものだと思われ、地元で反対運動が起きることが多い。」

このような発言を、自信を持って否定できる人はどれだけいますでしょうか?乳児院とは何か、そして児童養護施設とは何か、正確に説明できる人は少ないと思います 。

辞書(大辞泉)によると、乳児院とは家庭で保育を受けられない乳児の養育を目的とする施設であり、児童養護施設とは乳児を除く保護者のいない児童や虐待されている児童などを入所させて養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設です。 木村拓哉さん主演のドラマ『エンジン』で児童養護施設が舞台になるなど、ドラマでたまに取り上げられることがあっても、実際の乳児院や児童養護施設について知っている人は少ないはずです。

育児放棄というと、赤ちゃんがトイレなどに遺棄された事件や、赤ちゃんポストに関するニュースが頭に浮かぶ方が多いかと思います。

※赤ちゃんポストとは?
新生児・乳児の養育を放棄したい親が、病院などに匿名で子を託すための設備。多くは、小さな扉から屋内の保育器などに子を入れる仕組みで、利用があると、センサーが作動し係員に知らせる。託された子は乳児院や児童養護施設に引き取られる。子の養育に行き詰まった親による 虐待や育児放棄を防ぐ目的で、それに至る前の親に「逃げ道」を与えるための設備だが、法的な問題点も指摘されている。2000年、ドイツ のハンブルクが初の例で、日本では平成19年(2007年) 熊本の慈恵病院が最初に設置。《大辞泉より》


ところが、それらはいずれも「ニュースの中の出来事」であり、他人事の域を出ないというのが正直なところではないでしょうか?しかし、次の「現実」を知っても、皆さんは無関心でいられますでしょうか?
・乳児院には約3000人の乳幼児が保護されており、そのうち約半数は親元に帰る見込みがなく施設での生活を続けている。
・0歳児の虐待による死亡事件は2010年度で23件もあった。
・児童養護施設には約30000人が在所しており、そのうち約半数は虐待のため実の親から離れて生活をせざるを得なくなった児童である。
 本コラムでは、これらの課題について考えてみます。

施設よりも里親や養子縁組の拡大を


5月24日、『すべての赤ちゃんに愛情と家庭を~虐待死から赤ちゃんを救い、子どものパーマネンシーを育む特別養子縁組とは~』と題する日本財団主催のシンポジウムに参加してきました。『諸外国の養子縁組の現状報告』及び『すべての赤ちゃんが愛情深く育てられるために』という現状報告、『赤ちゃんの脳の発達に及ぼす愛着形成について』及び『子どもを虐待から救うために』という基調講演、そして件の『赤ちゃんの福祉と特別養子縁組』がテーマのパネルディスカッションが行われました。

このパネルディスカッションには、子どもの福祉に取り組んでいる行政と民間が共に参加し、お互いの率直な意見が交換されました。行政側の代表(生け贄?)として厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課(併任)総務課虐待防止対策室の方がみえていたのですが、予想通り、「行政はいらない」とか「乳児院や児童養護施設をなくし、特別養子縁組を原則とすべきだ」といった、行政にとって耳が痛いであろう発言が飛び交っていました。

どの業界にも、熱い想いを持って積極的に活動している民間と、頭が固くて腰が重い行政が対立するという構図が少なからず存在するのです。しかし、今回のパネルディスカッションが興味深かったのは、決して批判だけが飛び交うようなギスギスとした雰囲気ではなく、行政の方も「行政はいらないと言われてしまいましたが・・・汗」と柔らかく応じるなど、終始ほんわかとした雰囲気で、建設的な議論が行われていた点です。

乳児院や児童養護施設をどんなに少人数化しようとも、1対1で「無限に愛されること」を体験することができない以上、子どもたちのことを真に考えれば、施設ではなく、里親や養子縁組により家庭で育てられるべきだというのが、民間による主張の中心でした。 現場の最前線で活動している方々の発言には熱さと重みがあり、私も「なるほど・・・」と聞き入っていました。

愛知県の児童相談所では、「子どもは施設より家庭で」という考えに基づき、0歳児の特別養子縁組を仲立ちする取り組みに力を入れており、それは「愛知方式」として注目されています。行政としては画期的な取り組みで歓迎すべきですが、やはり行政は施設を前提に考えてしまうのか、なかなか全国に広がっていないというのが実情のようです。 頭が固く腰が重い行政を横目に、多くの民間団体が里親や養子縁組を拡大させるために活動しています。

そういった方々の「社会のすべての子どもたちを愛する気持ち」には頭が下がります。しかし、とかく批判されがちな行政の中にも、熱い想いを持っている人もいるということを忘れてはいけません。今回のパネルディスカッションに参加された行政の方は、批判に対しては真摯に受け止めた上で、「施設は施設で大切な役割がある。また、里子・養子になった後にも行政としてフォローする役割があるはずで、そのために行政としても頑張っていきたい」と発言されていました。行政に頭が固くて腰が重い側面があるのは事実ですが、行政は行政なりの想いを持って、真面目に職務に取り組んでいる方もいるというのも、これまた事実なのです。

どの業界もそうですが、行政と民間がすれ違ってしまったり、民間同士でも対立してしまうことがよくあります。しかし、誰もがその人なりの想いを持ってその業界に携わっているのであり、それをマイナスの方向に持っていってしまうことは、本当にもったいないことです。真に業界全体のことを考えれば、行政と民間が、そして民間同士が協力し合うことが大切だと思います。

今回のパネルディスカッションでは、ある民間団体代表者の発言に対して、違う民間団体の方から、「これまであなたを誤解していた。これからは力を合わせよう」といった趣旨の発言がありました。行政と民間とが建設的な意見交換ができ、また、民間同士の結束を強めることができた今回のパネルディスカッションの意義は大変大きいと思います。

ディスカッションの最後には、子どもの福祉のために法律や行政の考え方を変えていく必要があること、しかし今のままでも民間でできることはたくさんあること、そして言葉だけで終わらせることなく実際に行動して結果を出していくべきであることが確認され、非常に良い雰囲気で終了しました。

欧米では「赤ちゃん養子縁組」が常識?

写真提供:日本財団
以下、基調講演でも多くのことを学びましたので、その一部をご紹介します。

まず、『赤ちゃんの脳の発達に影響を及ぼす愛着形成について』という基調講演では、人生最初の一貫した愛情のある人間関係によって、子どもの脳の正常な発達が可能になること、特に出生から3ヶ月の間に結ばれる母子間の愛着の絆が、それ以後に結ばれる愛着の絆と比べ物にならないほど深いものであることが、科学的に実証できていることを知りました。

何故出生から3ヶ月という期間が大切かというと、生まれたばかりの新生児は、空腹・眠気など、体の不快感ばかりを抱いており、それを取り除いてくれる保護者に安心感・安全感と快感を味わうのであり、その快感と哺乳・入浴・抱擁・保護者の優しい声・アイコンタクトなどが脳の作用で結び付き、よって保護者への依存性=愛着を深めるからとのことでした。

このため、欧米では「赤ちゃん養子縁組」が常識であるそうです。 科学の面からも、出生後すぐに一貫した愛情のある人間関係の形成が重要であること、つまり、出生後早い段階で里親や養子縁組により家庭で養育されることが重要であることが実証されていることは、大きな意味を持つと思います。

次に、『子どもを虐待から救うために』という基調講演では、次のことを知りました。
・虐待の通報件数は年間5万件超。
・病院・学校・共同住宅からの通報が少ない。通報があっても、救出・保護が遅れる事案が多い。虐待死の見逃しが多い。居所不明児童が1000人にも上る。
・誰にも知られない被虐待児が極めて多数存在し、トラウマに苦しみながら、治療がまったくなされていない。本来愛されるはずの親から虐待を受けた子どもは心に深刻な影響を受け、自尊感情が低くなり、自分のことを大事に思えず、また他者に攻撃的になり、犯罪や無謀な行為に走ってしまうことがある。
・保護された被虐待児が劣悪な環境で生活し、トラウマの治療などがほとんどなされていない。
そして、次のような対策が必要であるとのことです。
・病院・学校・共同住宅からの通報を促す制度を整備すべき。すべての学校にソーシャルワーカーを配置することも一案。
・警察が虐待事案の発見・保護・検挙活動にもっと積極的に取り組むべき。 虐待死を見逃すことのないよう、子どもの死因検証制度の整備。
・児童相談所の一時保護を積極的に行うこと、安易に危険な家庭に戻さないことの義務付け。
・トラウマの治療・カウンセリングの公費負担。
・虐待親へのカウンセリング受講・指導受け入れ義務化。

 今回のシンポジウムを通して、虐待や育児放棄を受けた子どもたちの現状と、これから私たちがすべき課題がはっきりと分かりました。今、解決すべき問題が正に私たちの目の前にあり、それを解決するための方法もはっきりしています。それならば今、みんなで「行動」あるのみです。

以下、今回のシンポジウムに関わった団体のホームページをご紹介します。 本コラムではご紹介できないほど様々な取り組みを各団体が行っていますので、詳細は各ホームページにてご確認下さい。

公益財団法人日本財団
公益社団法人誕生学協会
厚生労働省
認定NPO法人CAPNA
NPO法人タイガーマスク基金
認定NPO法人フローレンス
一般社団法人アクロスジャパン
一般社団法人命をつなぐゆりかご
社団法人日本家庭生活研究協会
一般社団法人Stand for mothers
NPO法人Fine
財団法人国際平和協会
Ustream Asia株式会社

今回ご紹介した団体以外にも、本当に多くの団体が子どもの福祉のために活動しています。民間にこれだけの活力があることを頼もしく思うと共に、これらの力が融合してもっと大きな力になることを期待し、また、そこに行政が適切に関わり、全体として更に大きな力になることを祈念しております。

本コラムが、読者の皆様が虐待や育児放棄という問題、そして子どもの福祉全体について関心を高めて頂ける一助になることを願い、筆をおかせて頂きます。

(取材協力:日本財団)

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