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外国人教員を連れてきても、日本の大学の「国際的評価」は上がらない

アベノミクスで支持率もうなぎ登り、(ペギー・ヌーナン相当不在の)日本のレーガン[1]こと安倍首相が、「日本の大学」ではなく「世界の大学」を目指して大学改革をするつもりらしい。

本人のスピーチから引用すると...

まず隗より始めよ。国立の8大学で、今後3年間の内に、1500人程度を、世界中の優秀な研究者に置き換えます。これにより、外国人教員を倍増させます。

大学の経営の在り方も、世界のグローバル・スタンダードにあわせなければなりません。年俸制の導入や、教員の家族が英語で生活できる環境の整備など、経営改革も進めてまいります。

国の運営費交付金などの分配についても、「グローバル」に見直しを行い、大学の改革努力を後押ししていきます。

外国人教員の積極採用や、優秀な留学生の獲得、海外大学との連携、そして、英語による授業のみで卒業が可能な学位課程の充実、TOEFLの卒業要件化など、グローバル化を断行しようとする大学を、質・量ともに充実させます。制度面でも、予算面でも、重点的に支援します。

今後10年で、世界大学ランキングトップ100に10校ランクインを目指します。同時に、グローバルリーダーを育成できる高等学校も、作ってまいります。

という感じに、日本の大学のグローバル化に邁進するらしい。そして、この「国立の8大学で、今後3年間の内に、1500人程度を、世界中の優秀な研究者に置き換え」るという部分が、当然のごとく物議を醸している

まあほぼ単一民族の日本の国民からしてみたら、驚くのも当然だろう。そしてアカデミアにいる日本人たちからすれば、ただでさえアカデミックポストが減っているのに更に減らすとか勘弁してくれよってところではないだろうか。

ぼくはアカデミアの人間ではないし、そもそも教育問題にあまり興味がないが、安倍首相の言っていること(あるいは言わされていること)が結構トンチンカンなので、少しコメントしておく。

結論から言うと、外国人教員を1500人連れてきても、日本の大学の「国際的評価」は上がらない。

Wikipediaでいろいろ調べてみたところ、世界大学ランキングトップ100といっても色々と種類があるようだ。その中でも"Times Higher Education World University Rankings"というランキングの手法はすぐ見つかったので、ここに翻訳してコピペする。(ちなみに"Times Higher Education World University Rankings"1位・2位は、安倍首相のランキングの1位・2位と合致するので、おそらくこれのことじゃないかと推測している。)

ぱっと見てすぐ分かるのが、「サーベイによる研究評価」と「サーベイによる授業評価」、そして「論文の標準化された引用インパクト」の3つだけで15+19.5+32.5=67%、つまりスコアの3分の2以上が確定してしまうということだ。ひるがえって「1500人外国人研究者ぶっこみ計画」によって即時達成される「外国籍スタッフと国内スタッフの比率」、そしてあべっちが頑張ると言っている「生徒の国際化」で達成されるであろう「外国籍生徒と国内性との比率」は、2つあわせても5%でしかない。ハナから頑張るところを間違えているのだ。

ところでここにあるサーベイだが、授業にしても研究にしても、評価の客観性・公正さなどを考慮すると、大学の部外者の意見が大きな比重を占めるはずだ。彼らがどんな基準で授業や研究を採点するのかわからないが、教員や生徒に非日本国籍の人間が増えたからといって、急に研究や授業の質が向上するとは思えないし、もしそれでサーベイの評点があがるのだとしたら、そんな表皮的な基準に振り回される日本の研究者と学生は可哀そうである。

そして一番大きな比重を占めている論文のインパクトだが、これこそ国籍がどこであるかよりも、どれだけ優秀な研究者を集められるかだろう。もちろん優秀な研究者が日本国外にたくさんいるのは分かっているが、その何人が、日本が招聘しうる1500人に含まれるのだろうか。彼らは往々にして手厚い環境でのびのびと研究をさせてもらっており、わざわざ極東の、言葉の通じない、原発でどれだけ汚染されているかもわからない国にくる理由は全くないと言っていい。[2]そんな無謀なプロジェクトにエネルギーを浪費するよりも、大好きな日本食と、言葉が通じる安心感に後ろ髪をひかれ、海外からの熱いラブコールを断り続けている優秀な日本人研究者の待遇を改善したほうが、日本の大学の「国際的評価」は上がるのではなかろうか。

とにかく、日本人教員を外国人教員と何人置き換えても、日本の大学の「国際的評価」は上がるとは信じ難い。


これを言ってしまうと元も子もないのだが、世界大学ランキングなんていうくだらないものに振り回されている[3]時点で、安倍首相の大学改革は先が暗い。さっきから「国際的評価」にカギ括弧をつけているのは、評価基準として無意味だからだ。

安倍首相は、スピーチの中で、外国人研究者の招聘の他にも、留学を促すとか英語力の向上などを提唱しているが、そんな意識がハイな話をしなくても、日本の大学の改善点は一杯ある。就職難もあいまって、大学3年生の途中から学生がロクに授業も出ずに就活に奔走する問題とか。そもそも授業を真面目に聞いている学生が少ないとか。修士や博士を取ることが就職にプラスに働かない怪異な現象とか。どれも対外のグローバルな課題ではなくて、国内の、よりシビアな問題だ。安倍首相が本当に「まず隗より始めよ」と思っているのだったら、海の向こうを臨む前に足元を見るべきだろう。

自民党的にも、首相的にも「誰でもわかった気になれる達成目標」が欲しいのだろうが、そんなものに振り回されているほど今の日本に余裕はあるのだろうか。


  1. これは冗談だけど、誰かもっとまともなスピーチ書いてやれよ。それが無理だとして、少なくとも事実関係の確認くらいしてやってほしい。「トップ1・2は、カリフォルニア工科大学、スタンフォード大学です。ピンときた方もおられるでしょう。そう、シリコンバレーです。」とか言っているけど、カリフォルニア工科大学があるのはパサディナという町で、どう頑張ってシリコンバレーの定義を過大解釈しても車で4時間は離れているぞ。

  2. 断っておくが、ぼくは外国人の教員や生徒を増やすことには賛成である。もっと日本の大学が多国籍化すれば、平気でガイジンという(サイテーな)表現を使うエリートは減るだろうし、日本人の閉鎖的精神も和らぐだろう。ただ、こういった取り組みをする大前提として、日本という社会が長期間在住する外国人にとって住みやすい社会になることが前提で、その社会的基盤と意識の整備もせずに、向こう3年で1500人も外国人の研究者を招聘したところで、2、3年で日本を離れてしまうのが目に見えている。

  3. 世界大学ランキングの皮肉なところは、トップ10にランクされている大学や、それらを有する国は、自分たちがトップになるのが当然だと思っており、ランキングを政策の目標に立てるなんてことは絶対にしない。首相が「今後10年で、世界大学ランキングトップ100に10校ランクインを目指し」ている間は、日本は大学教育に於いては発展途上国なのだ。ランキングなんてついてくる結果であって、目標であってはならない。

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