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より高いレベルの「災害救助犬」育成のために、業界は一致団結を



被災地でも活躍した「スーパーワン」


多くの尊い命を奪った東日本大震災。
その災害現場において、倒壊家屋や土砂などに埋もれた人を助けるために、走り回っていた頼もしい存在がいました。それは、スーパーマンならぬ「スーパーワン」、災害救助犬です。

警察犬や盲導犬は有名ですが、「災害救助犬」というのは初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか?災害救助犬とは、災害現場などで倒壊家屋や土砂に埋もれている人を、人間の数千から数万倍と言われる嗅覚によって迅速に発見するために訓練された犬です。

通常の人間には反応せず、障害物に阻まれて隠れていたり、倒れていたり、うずくまっている人間に対して、吠えるなどのアラート行動を示します。犬種はジャーマン・シェパードやラブラドール・レトリバーといった、スタミナがあり高低さのある場所でも捜索可能な大型犬が多いのですが、ミニチュア・ダックスフンドなどの小型犬も、大型犬では入り込めない隙間に入って捜索するなどの活躍をしています。

そしてこの度、NPO法人救助犬訓練士協会(RDTA)は、「八ヶ岳国際救助犬育成センター」を長野県諏訪郡富士見町にオープンさせ、その竣工・開所式に参加してきました。同センターは旧酪農施設と牧場を改修して訓練施設にしたものであり、大自然に囲まれ、犬も人間も快適に訓練できる場所です。

岩やコンクリートの塊、丸太やタイヤなどを積み上げて災害現場を再現し、深さ3メートルもの土管や大型コンテナ等も設置された訓練場、訓練士の指示に従う服従訓練などを行うための平坦なスペース、旧牛舎を活用した屋内訓練場などを備えた本格的な訓練施設であり、世界に通用する救助犬の育成が期待されています。また、国際救助犬連盟(IRO)が定めた規格を満たしており、近い将来に国際試験を開催することを目指しています。

これまでは、災害現場に近い環境で訓練できる本格的な常設の施設がなく、臨時のものを手間とお金を掛けて設営したり、ビルの解体現場などを借りて訓練をしていました。それが、多くの方々の想いと力が結集し、同センターのオープンに漕ぎ着けたのです。

日本ではまだまだ浸透していない「災害救助犬という頼もしい存在」


式の後には、ドイツの救助犬育成の第一人者であるアルフォンス・フィーゼラー氏による救助犬育成セミナーも行われ、多くの救助犬(及び救助犬見習い)とハンドラー(飼い主)が参加していました。

最初は人間が隠れていないエリアに救助犬を走らせて反応しないことを確認し、次は人間が隠れているエリアに走らせ、見事人間を発見し吠えることができるかなどを試していました。

フィーゼラー氏は、ハンドラーの指示の仕方やタイミング、そして救助犬が人間を発見した時の褒め方やタイミングなど、事細かく指導をされていました。その様子を、救助犬訓練士協会と一昨年に出動訓練の相互協定を結んだ台湾高雄市消防局や他の救助犬団体の方々など、多くの人が見学しており、関心の高さが見て取れました。世界では当たり前の災害救助犬という頼もしい存在も、日本ではまだまだ浸透していません。

東日本大震災では約100匹の災害救助犬が活躍しましたが、国内から出動したのは約40匹で、海外から派遣された約60匹を下回っています。日本で災害救助犬として認定されている犬はたくさんいるのですが、必ずしも国際試験に合格した国際基準の災害救助犬ではなく、各団体独自の基準で認定されているため、実際に災害現場で活躍できるのはごく少数というのが実態なのです。

国際救助犬連盟加盟団体である救助犬訓練士協会は、日本においても国際基準の災害救助犬を増やすことを目指しており、東日本大震災の時に同協会から派遣された救助犬により、宮城県で津波に襲われた老夫婦の発見・救助に成功しています。国際基準の災害救助犬の育成が可能な、国内初の本格的な常設訓練場のオープンは、大きな一歩です。

どの業界もそうですが、災害救助犬の業界にも同じような名称の団体が複数あり、運営方針などに違いがあります。あくまで世界基準の災害救助犬の育成を目指す救助犬訓練士協会の方針は、他団体からは好ましく思われないかもしれません。しかし、短い政治経験の身でもはっきり分かることは、色々な団体がいがみ合うのではなく、協力しながらお互いに高め合うことが、業界全体にとってプラスになるということです。そのようなケースを何度も実際に見てきました。

その点、今回の式とセミナーには他の団体の方々も参加していたため、災害救助犬により被災者を救いたいという想いを共有する同志として、より高いレベルの災害救助犬を育成するために、業界が一致団結していくことを願っています。

課題は「行政からの支援」と「自衛隊・警察などとの連携」


最後に、式・セレモニーに参加していた方々から色々なお話を聞くことができ、災害救助犬に関する課題をいくつか知ることができましたので、その内の2つをここに書かせて頂きます。

まず第一に、日本では災害救助犬に対する理解が大いに不足しており、行政による支援が不足しています。災害救助犬発祥の地とされるスイスでは陸軍が育成しているなど、欧米では災害の際に災害救助犬は不可欠な存在になっています。

「身体障害者補助犬法」という法律によって定められている盲導犬と異なり、災害救助犬には法的な枠組みがなく、行政からの補助金もありません。災害救助犬の育成・出動は民間のボランティアによって支えられているのです。「災害対策に力を入れる」という言葉はよく聞きますが、それを言葉だけに終わらせることなく、災害救助犬という真に必要な分野にこそ行政がお金を支出すべきだと思います。

数十年に一度しか起きない大震災のために災害救助犬を公費で育成する余裕などないという意見もあるそうですが、日本だけではなくアジア全体でみれば、台湾・インドネシア・中国など、数年に一度は大震災が発生しているのであり、そこに災害救助犬を派遣するニーズがあります。日本が世界基準の災害救助犬の育成・派遣に力を入れ、日本のみならずアジア、そして世界で災害が発生したときに、真っ先に災害救助犬を派遣すること、また、常時は災害救助犬の育成のノウハウを他国に助言・指導することこそ、地震大国日本としての世界への貢献の在り方ではないでしょうか?国会や地方議会での議論が深まっていくことを期待しています。ちなみに、腰が重い行政の代わりに八ヶ岳国際救助犬育成センターの設立を助成した日本財団は、さすがお目が高いと思いました。

第二に、災害救助犬団体と自衛隊・警察・消防などとの連携をもっと深めることが必要です。救助犬訓練士協会の方々は、東日本大震災後すぐに被災地に入りました。震災後72時間というのが生死を分けるラインとされているため、1秒でも早く捜索を開始したかったのですが、自衛隊・警察・消防などとの迅速な連携ができず、暫く待機せざるを得なかったという時間的ロスがあったそうです。

また、災害救助犬が一番活躍できるのは、津波によって根こそぎ持っていかれてしまった地域ではなく、倒壊家屋が多い地域であり、そのような地域をいち早く選定して捜索を開始するためには、地元行政との連携が不可欠なのです。

以上、今回私が見聞きしてきたことを皆さんにお伝えさせて頂きました。 これを読んで頂いた皆さんが、災害救助犬に対する理解を少しでも深めて下さり、日本の災害救助犬がますます活躍できる環境作りが進展していくことを心より願い、筆をおかせて頂きます。

(取材協力:日本財団)

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