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成長戦略は規制緩和を中心にすべきだ - 原田泰

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3つの矢の現状

黒い日銀、すなわち、黒田東彦総裁下の日銀の「異次元緩和」によって、アベノミクスの第1の矢、大胆な金融緩和は実現された。一部のエコノミストが使った異次元緩和という言葉が黒い日銀の緩和政策の名称となったが、日本では異次元でも、世界的に見れば異次元でもなんでもない。アメリカの中央銀行であるFRBの行った金融緩和政策を、これから日本でも採用しようというものにすぎない。この緩和政策は2015年までの金融政策を決定したものなので、これでアベノミクスの第1の矢、大胆な金融緩和は実現され、今後はその効果を見ていくことになる。リフレ派の主張が正しいかどうかは、これから分かる。

第2の矢の財政政策については、政府が無理やりお金を使えば、そのときは需要が増えるだろうが、次の年には需要は消え失せ、持続的な効果はなく、借金だけが残るというのがほとんどエコノミストのコンセンサスだろう。これでは賛否両論の議論にならないので、第3の矢の成長戦略が注目されることになる。

金融政策と財政政策については、その効果に賛否があるとしても、何をするのかは明確である。ところが、成長戦略の特徴は、何をするのかも、誰がするのかも明確でないことにある。

成長戦略は何を出発点として議論したら良いのか

第1の矢は日銀が、第2の矢は国土交通省(公共事業予算を持っている役所は他にもあるが、大部分は国土交通省のものである)が財務省の予算配分の下で放つわけだが、第3の矢は誰が放つのかもはっきりしない。

成長戦略と関係のある会議は、経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議と3つあるが、産業競争力会議では、規制緩和を大胆に進めたいという竹中平蔵慶応大学教授を中心とする民間議員と、緩和に反対する規制官庁とが綱引きをしているという。規制緩和は3つの会議とも議論しているが、当然に対象も方法も異なっている。さらに、諮問会議では、行き過ぎた規制緩和を批判しているベンチャー企業育成家の原丈二氏の提言を受けて、「日本型資本主義」を考える専門調査会を立ち上げている。これは行き過ぎた規制緩和は止めようというメッセージだ(朝日新聞、2013年4月24日朝刊)。これでは、もちろん、何を放つのかも明らかではない。

このなかで、安倍晋三総理は、4月19日に「成長戦略スピーチ」を行い、成長戦略のキーワードとして、挑戦(チャレンジ)、海外展開(オープン)、創造(イノベーション)の3つの言葉をあげた。

その中身として、挑戦は、人材、資金、土地を、生産性の高い分野にシフトすることだと説明している。具体的には、成長産業への再就職を支援する助成金の拡充、女性労働を活用するための待機児童ゼロへの環境整備である。海外展開は、TPPと医療機器の海外への売り込みである。創造は、再生医療の実用化のための規制緩和促進、医療研究開発の司令塔(日本版NIH国立衛生研究所)の創設などである(2013年4月20日朝刊各紙、安倍総理の「成長戦略スピーチ」http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0419speech.html)。

総理が自ら述べたことは実現するのであろう。支持率の高い総理が公言したことを役所もまた他の自民党の政治家も覆すことはできない。もちろん、実現可能性を考えた上での発言だ。成長戦略は、これを出発点として議論すべきだろう。

チャレンジは効果的

成長産業への再就職を支援する助成金の拡充は、クビにしなければ助成するという雇用調整助成金を削って生み出すものである。雇用調整助成金は、衰退産業に労働者を留めることになりかねないので、同じ補助金を出すなら、新しい産業に移る労働者を助成した方が良い。保育所の待機児童ゼロを5年間で実現するという政策は(もちろん、すぐヤレという人も多いだろうが)、女性の労働参加率を高め、労働力を増やす政策である。

構造改革が好きな人が多いが、大きな効果のある構造改革を見出すことは難しい。だからこそ、先述のように、3つの会議が侃々諤々の議論をして大したことは決まらないという状況になっているわけだ。大騒ぎをしてなんとか参加にこぎつけたTPPですら、GDPを3.2兆円、比率で0.6%を拡大するだけである(内閣官房「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」2013年3月15日)。10兆円という試算もあるが、政府の試算としなかったのは、追求されたときにうまく説明できない部分があるからだろう。さらに、アメリカの自動車関税の早期引き下げが難しいようであることから、3.2兆円の利益を得ることも難しいかもしれない。

それに対して、女性の労働参加の促進は、労働力が増えるのだから、必ずGDPを増大させる効果がある。わたしの試算によれば、日本の女性の労働参加率が英米独仏の平均になれば、日本の労働者数は9.1%増加する。間違いなくGDPを大きく増やす方策である。女性の能力を高めて、女性と男性の賃金格差が英米独仏の平均になれば、労働力が増大することと合わせて、GDPは12.8%、金額でいえば60兆円以上増大する。労働力を活用することの効果はきわめて大きいのである。

ついでながら、これはアベノミクスの第1の矢、大胆な金融緩和の効果が大きい理由でもある。バブル以前、日本の失業率は2.5%であった(バブル期の終わりには2%にまで低下した)。これが日本の正常な失業率である。ところが、バブル崩壊後、5.5%にまで上昇した。現在は4%余りであるが、雇用調整助成金で無理やり下げている分があるので、実質的には5%であろう。大胆な金融緩和とは、デフレによって5%になってしまった失業率を元の2.5%にまで下げるという政策である。失業率が2.5%ポイントも下がれば、それだけでGDPは大きく増えるだろう。これは雇用拡大をともなう政策が大きな効果を持つということである。

ただし、現在のままの制度で保育所の定員を増やすには巨額の補助金が必要になる。規制緩和で保育所のコストを下げるとともに、保育所の料金を上げて需要を減らすべきである。民主党政権時代の児童手当の増額に応じて保育所の料金を引き上げれば良かったが、今からでは難しいだろう。



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