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デザインの力で、「福祉車両」をメッセージ媒介にできるのか?



皆さんは、福祉車両について、どんなイメージを持っているでしょうか?

多くの人は、「福祉車両」と言われても、ピンと来ないでしょう。なぜなら、外観からは普通の車両と大きな違いがないからです。

福祉車両には、大きく分類して二つのものがあります。一つは、介護を楽にすることを目的としたもので、車椅子や足の不自由な方の乗り降りを楽にするための機能が付いたもの。二つ目は、通常の運転方法(ハンドルやシフトチェンジを腕で、アクセルとブレーキを足で操作する)では運転が困難人のために、手だけでアクセルやブレーキも操作できるなど、運転補助装置を加えたものがあります。

どちらも介護者もしくは運転者にあわせて、従来の車両を改造しているため、外観からは、違いがわかりづらいのです。そのため、多くの人は、自分や親族などが介護が必要にならない限り、「福祉車両」という存在に気がつきません。

課題認識は、可視化されることから始まる


後者の運転者自身が、自分の身体の状態にあわせた運転方法が選べる形式の福祉車両は、一般の車に溶け込んで、個々人が楽しむもの。だからこそ、福祉車両だと認識させることよりも社会に溶け込んでいるほうが望ましいでしょう。

一方で、前者の介護を目的とした福祉車両。特に、個人所有ではなく自治体や各種NPO団体などが所有する福祉車両には、「可視化」することが大きなメッセージになるはずです。地域にいる介護を必要とする方、介護事業に従事している人の存在を意識してもらうことに繋がるからです。

上記のような問題認識を持ちながら、4月26日行われた日本財団の福祉車両お披露目式に参加していきました。事前に配布されたリリースには「~若者が、福祉を考えるきかっけに~ アパレルブランド“ベネトン”デザインの福祉車両、誕生」というタイトルだったため、デザインによってどんな「問題の可視化を社会に投げかけるのか?」を期待して、会場へ向かいました。

日本財団の福祉車両配備事業とは?


“「誰もが不自由なく地域で暮らせる社会の実現」を目指し、高齢者や障害者の移動や就労支援に用いられる福祉車両の配備事業”

1994年度から、昨年度までに累計31,234台を助成金を出すことで配備してきているとのことでした。日本財団のサイト上の福祉車両事業の紹介には以下のようなゴールとミッションが掲げられています。

“ゴール
私たちは、障害の有無や年齢にかかわらず、すべての人々が地域で豊かに暮らせる社会を目指します!

ミッション
•「介護を受けるなら、住みなれた我が家がいい」(在宅サービス)
•「仲間たちに会えるから、毎日さみしくない」(通所サービス)
•「いろんな人にありがとうって声をかけてもらえて、まちの中で働くって楽しい」(就労支援)
といった、障害者や高齢者の声に、福祉車両の配備を通して、応えていきます。

ミッションに従って、在宅支援型(訪問介護や訪問看護のため、ヘルパーや看護師が利用)や通所支援型(福祉施設を利用する方の送迎)というものだけではなく、就労支援型(障害者の就労に活用)といったものまでラインナップしてありました。

2013年は、今回発表されるベネトングループの「FABRICA(ファブリカ)」による新デザインの車両を2000台配備する計画とのことでした。
1999年から現在まで利用されている車両デザイン
1999年から現在まで利用されている車両デザイン

ベネトン社の理念を伝えるメッセージ表現


アパレルブランドのベネトン自体が、「社会から憎悪と憎しみをなくす」という理念を持っている会社です。広告キャンペーンやメディアコミュニケーションなどを仕事としてやってきた私にとっては、ベネトン社の社会に提言する企業広告の存在はお手本であり、憧れです。

特に、オリビエロ・トスカーニ氏による企業広告は、物議を醸し出す企業広告として非常にインパクトのあるものでした。出稿量で勝負するのではなく、インパクトとメッセージ性によって出稿量が少なくても、社会にメッセージを伝える手法は見事でした。

写真は1994年の広告で、ユーゴスラビア内戦によって亡くなったボスニアの兵士が来ていた服装です。このショッキングなグラフィックによって、戦争という自分とは遠く離れてたニュースを、一人の個人が殺し合いによって亡くなったという文脈で自分たちの問題として考えざるをえない表現を行いました。

最近の「UNHATE(アンヘイト)」と題されたキャンペーンでも、社会から憎悪をなくすための社会メッセージを発信しています。


2011年に発表されたキャンペーンで、各国首脳や指導者がキスをしているように見えるように合成することで、「憎悪を乗り越えて平和な世界を作ろう」というメッセージを発信しています。

今回の福祉車両のデザインを無償提供したのは、ベネトン社のグループである「FABRICA(ファブリカ)」です。
“1994年に創業者ルチアーノ・ベネトンの提案により企業文化活動の一環として誕生したコミュニケーション リサーチセンター。ラテン語で「ワークショップ」を意味し、「実践による取り組み」と「双方向コミュニケーション」を軸に映画・デザイン・音楽・出版など様々のセクションを介して世界各国から選抜された若い才能の育成を目指す。”

私にとっては、季刊誌である「COLORS」を出版元として、認知していました。

説明が長くなってしまいましたが、ベネトン社が今まで取り組んできた事例を鑑みると、今回の日本財団の福祉車両デザインがどんなものになるのか、期待が膨らんでしまうのです。

「WORKING TOGETHER」というデザイン


前置きが長くなりましたが、今回発表されたデザインは以下のようなものでした。

写真:左が日本財団会長の笹川陽平氏。右がベネトンジャパン代表取締役のパスカル・センコフ氏
写真:左が日本財団会長の笹川陽平氏。右がベネトンジャパン代表取締役のパスカル・センコフ氏

デザインテーマは「WORKING TOGETHER」とのこと。デザインコンセプトの説明は以下のとおりでした。
“福祉事業車両の配備をする団体と、その車両を使って地域社会に合わせた介護に従事する人。どちらも「地域社会を良くしたい」。そこで働いてみたら、同じマインドを感じることができるはず。その彼らに加えて、サポートを受ける人も一緒になって「WORKING TOGETHER」。

両手を上げたカラフルな人々が幸せを抱きしめ、車を包みます。「社会とともに活動する」日本財団のカラフルなシェアマークの車が地域社会に幸せを運び、広げます。「社会とともに活動する」人々はカラフルなシェアマークをソロに向かって手をつないで、あなたの待ちに笑顔を連れてきます。”

今回の福祉車両デザインだけでメッセージが伝わるかのか?


今回の日本財団とベネトン社が共同で行った、福祉車両デザインリニュアルプロジェクトの目的が達成できたのかを考察してみたいと思います。

日本財団が伝えたかった「福祉車両の配備を通じて、より多くの人に福祉環境の正しい理解を深め、心理的距離を縮めること、特に若い世代の人たちの福祉への意識改革を提案する」という目的がありました。

それを福祉車両を配備するという媒介にして、今回のグラフィックデザインで伝わったのでしょうか?

デザインコンセプトを説明されれば、社会とともに活動するという意図は伝わりますが、このデザインを見て「何を意味しているのだろうか?」ということを自然に考え始めるでしょうか?ベネトン社の広告キャンペーンのように・・・。

私が、ベネトン社の企業メッセージの手腕に期待しすぎていたせいがあるかもしれません。広告という媒体と、実際の車両となった場合に制約の違いがあったかもしれません。しかし、それでも毎年2000台の台数で社会にメッセージを伝えられる絶好の機会を得たものとして、このグラフィックデザインだけでは、目的は達成できなかったのではないかと言わざるを得ません。

足りないのはコミュニケーションデザイン


もともとデザインだけで、提言するには難しい課題でした。福祉車両がある意味、福祉車両が活躍する背景、従事している人がいることの意味を考える「きっかけ」もあわせて設計する必要があったのではないでしょうか?

例えば、この福祉車両のバックウインドウ部分をのぞき込むと、バックウインドウ部分に年老いた自分の姿が映し出されることで、自分ごととしてヒリヒリと感じられるような痛みが与えることもできたと思います。(コストを無視した議論ですが・・・)

もしくは、生活者が福祉車両に対して「ありがとう」を伝えるなんらかのアクションを促す仕掛けをデザインで行うことはできたかもしれません。この福祉車両の写真を撮影して投稿することで、日本財団から該当団体への募金が行われる仕組みがあったとしたら、写真撮影と投稿を促す車両デザインをファブリカに依頼すべきだったかもしれません。投稿することで、その車両に関わる人々の活動を紹介することができると、さらに理解を促すことができるでしょう。

このように、多くの人が直視していない課題を認識してもらうためには、グラフィックデザインだけではななく、コミュニケーションまで含めた提案が必要な時代です。せっかくの素晴らしい取り組みだからこそ、もっと多くの人に知ってもらう工夫ができればと本気で思っています。

僭越ながら、私がこうしてこの記事を書くこと自体が、日本財団の福祉車両事業について、皆さんが考えるきっかけになればと思っています。

(取材協力:日本財団)

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