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【書評】「戦後史の正体」一読の価値あり。鵜呑みをしなければ。

遅ればせながら昨年夏に発刊された孫崎享氏の「戦後史の正体」(創元社)を読んだ。普通より大きい帯封には「本書は、これまでほとんど語られることのなかった〈米国からの圧力〉を軸に、日本の戦後史を読み解いたものだからです。こういう視点から書かれた本は、いままでありませんでしたし、おそらくこれからもないでしょう。「米国の意向」について論じることは、日本の言論界ではタブーだったからです」(著者)とある。

米国の政治地政学的な政策を政治経済を考える視点の一つにしている私にとって幾つか共感するところはある。例えば「はじめに」の中にでてくる「米国の対日政策な、世界戦略の変化によって変わります」というのは、当たり前の周知の事実。国家が自国の利益を拡大するため、時に「謀略」を仕掛け、時に「圧力」をかけ、時に「妥協」するのは歴史の常であり、訳もなく(あるいは感情的な理由で)他国を優遇すると考えるのはお人好し過ぎる、だろう。

さて著者は日米関係について戦後の政治家を3つに分類する。第一が「自主派」、第二が「対米追随派」で第三が「一部抵抗派」だ。「自主派」には重光葵、鳩山一郎、佐藤栄作、鳩山由紀夫らの名前があがり、「追随派」には吉田茂、池田勇人、小泉純一郎の名前があがり、「一部抵抗派」には鈴木善幸や福田康夫の名前があがる。

著者の外交官という職歴ならではのエピソードが披露され、中々興味深い本なのだが、気をつけないといけないことは、「歴史上の事実」や「広く正しいと判断されていること」と「著者の独断的判断」が同レベルで記述され、批判的に読まないと「めくらまし」にハマる可能性があることだ。敢えて悪く言うと普通の料理の中にゲテモノ料理が混じっているという感じだ。

ごく一例を紹介しよう。例えば第二章「冷戦の始まり」の中の「1950年6月、北朝鮮軍が韓国に攻め入りました」という段落ではじまる段落は「歴史的事実」の説明なのだが、第五章「自民党と経済成長の時代」の中の「BIS規制」の中の次のような記述は事実だろうか?

・・こうして日本の銀行はBIS規制を守ろうとした結果、みずからの経営の悪化と、日本経済の悪化をまねくことになったのです。この結果はボルカー議長のもとの計画に織りこみずみだったはずです。このように米国は日本の利益を意図的に奪うこともするのです

多少解説を加えると、著者は「高騰した日本の土地を担保にした日本の銀行の貸付能力に、凄まじいものがあったからです。米国はそれに不安を感じ、対抗手段を考えたのです」と書いているが、果たしてこれは真実だろうか?たしかに1980年代の後半日本の銀行は高格付による安い資金調達を武器にアメリカの貸出市場に入っていった。だがその当時日本の銀行が攻め込めたのはノンリコースの不動産担保融資案件で主幹事になる程度で、大手企業向けのコーポレート貸付で主幹事になることはなかった。邦銀は主幹事となった米銀のディールに参加していたのである。幹事となった米銀はリターンオンアセットベースでは結構美味しい商売をしていたのである。大都市の不動産物件の買い占めなどに不快感を示すアメリカ人はいただろうが、それをビジネスチャンスと考えるアメリカ人もいたし、所詮一過性の現象にすぎないと達観したアメリカ人も多かったのではないだろうか?というのが私の意見だ。

BIS規制は国際的なルールだから、日本の銀行を律する規律は欧米の銀行に及ぶ。日本バッシングという面だけではなく、金融機関の健全性維持という点を論じないと本質を見落とす。BIS規制(バーゼル1)は銀行の含み益の最大45%を自己資本にカウントすることを認めていた。つまり取引先の株式を中心に株式を保有する日本の銀行は一定のノリシロを持っていた。そのノリシロが失われるのはバブル崩壊により株式の含み益が減少したことによる。そしてその後の長引いた不良債権処理まで見ると、BIS規制が金融機関の健全化に果たした役割を大きいと私は考えている。そして著者・孫崎享氏のようにBISは米国が日本の利益を奪うツールだったと断じる単純化された図式をそのまま容認できるとは考えない。

また著者は日米関係における「追随派」に厳しい姿勢をとるが、追随派がなぜ追随を戦略としたか?という点に踏み込みが欠けている。追随派は自己の保身や勢力拡大のみに追随したのだろうか?私は違うと考えている。むしろ米国追随路線を取ることで、国防費を抑え、その分予算をインフラ投資に回すことで経済成長を図った、と見るべきである。その判断が正しい経綸であったかどうかは議論されなければならないが。

ということでこの本は客観的事実と著者の独断的判断が混在するので、そこをより分けて読む人には興味深い本だが、より分けて読まない人は毒にあたる可能性がある本だ、というのが私の結論である。

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