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集合知は正しいのか~旅のとりまとめサイト・Tripadvisorを例に(上)

「あたり!」情報が多いTripadviser?



現在、ポルトガル・ナザレに滞在している。僕は海外に滞在する際、必ずTripadvisorという、旅行のとりまとめサイトを利用している。このサイトは世界各地の観光地の情報が、寄せ書きと、他の旅サイトのとりまとめによって網羅されている。たとえばホテル情報については、各ホテル予約サイト(agoda、expedia、hotels.comなど)のレビューが転載されている。またレストランなどについても、多くの投稿があり、これらレビューに評価が加えられることによって、それぞれにランキングが表示されている。

そして、このランキングがスゴイ。きわめて正確なのだ。もうすでに利用し始めて8年ほどになるが、とにかくここで上位にランキングされているホテルやレストランを利用すると、まずハズレがない。そして、今回もナザレで、上位ランキングのホテルに宿泊し、上位ランキングのレストランを食べ歩いているのだが(上位=高額というわけではない)、とにかく片っ端から「アタリ」に当たるのだ。これは、驚くに値する。

集合知の必然的結果?



こういった「とりまとめサイト」の正確性については、メディア論では「集合知」ということばで表現されている。これについてはジェームス・スロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』(角川文庫、2009)に掲載されている議論が有名だ。何かについて議論をしていると、当初はそれぞれが勝手なことを言っているのだけれど、多くの人がこの議論に加わるうちに、だんだんと正確な情報になっていくというのがこの考えで、これを利用して作られているのが例えばウィキペディアであったり、価格.comであったり、食べログであったり、クックパッドになる。つまり、インターネット上に人々がどんどんとレビューを書き込むことで、次第に評価が正確になっていくというわけだ。そしてTripadvisorもまた、この集合知を利用したもののひとつと言える。

ただし、ここでひとつ引っかかるところがある。今あげた集合知を利用したサイトは、その正確性にバラつきがあるように思えるのだ。たとえば食べログは結構、当たらない(とりわけラーメン)、クックパッドは人気上位の料理を作ってみたところであまりおいしくないということがしばしば起こる。またWikipediaも時々、やたらと偏った情報がある。ところがTripadvisor(そして価格.com)は、これらに比べると正確性が高い、つまりバラツキがないように思えるのだ。

これらにはいずれも膨大な数の人間が書き込みをしている。ということはどれも正確性については大差はないはずなのだが。僕の実感が正しいとするならば(ちなみに、これは僕の仲間の間での見解もこの正確性のバラツキについてはほぼ同意見だ)、集合知=人が情報を集めれば集めるほど正確になるというスロウィッキーの仮説はちょっとおかしいのではないか?という疑問が浮かんでくる。そうであるとするならば、集合知の正確性に、なぜバラツキが出てくるのか。

クックパッドの投稿者は若い専業主婦が中心



僕は、このバラツキが起こるのが、ここにレビュー(あるいはレシピ)を投稿する人々の属性が大きく影響しているためと考える。つまり、正確性というのは普遍的な正確性ではなく、その領域に関心を持つ同好の士という集団の中での正確性=客観性なのだ。この典型はクックパッドだろう。クックパッドは一般人の考えたレシピが投稿されジャンルごとにレシピが網羅されるとともに、その評価がランキングされる。で、この上位のものを作ってみると、前述したようにはっきり言ってあまりおいしいものにはならない。もちろんマズイと言うことはないのだけれど、高級レストランで堪能する味のそれとははるかに乖離したものだ。いいかえれば庶民の味。いや、それだけじゃあ、ない。どれもこれも作ってみると、何となくお子様向けの「味のはっきりした、奥行きのないもの」になるのだ。

こうなってしまうのは、おそらくこれを投稿するのが30代くらいの主婦であるという属性に基づくからだろう。彼女たちはファーストフード、ファミレス、そして家庭では冷凍食品やインスタント食品で育った世代。こういった食べ物の味がベースになっているとともに、外食も生活の一部として定着しているので、料理をつくのもお手軽に済ませたいと考える。その結果、味はこういったレディメイド的な味覚に基づいたもの、料理を作る際にはサッと作れるものが好まれるのだ。で、クックパッドのレシピに共通するのが、これらを踏まえたものになる。こういった属性を持つ投稿者たちがレシピを投稿すれば、必然的に味は「簡単にできるファミレス的料理」がズラッと並ぶことになるし、そういった料理をサイトの閲覧者たちも歓迎するようになる(言い換えれば本格的な料理を志向する人間にとってクックパッドは全く役立たずのサイトということになる)。 こう考えると、集合知というものは前述したように、まずその集合知を構成している人々の属性を踏まえる必要があるのだ。

Tripadvisorの正確性はバックパッカーの嗜好に依存する



さて、ではTripadvisorはなぜ正確なのか?厳密に言うとこれは正確とは言えず、クックパッド同様、これに投稿する人々の属性に基づいているだけということになる。じゃあ、なぜ僕はTripadvisorを正確と判断したのか。それは、要するに僕が、このTripadvisorを構成する集合知の属性を共有した人間だからということになる。つまり、旅行者。ただし、一般の旅行者とは、ちょっとだけ違った。

Tripadvisorの情報をチェックしホテルやレストランをチョイスするのはどのような属性を持った人間か。これを一言で表現すれば、それは「バックパッカー的な旅をする人々」ということになる。つまり、パックツアーなどで旅行会社の添乗員に連れられて所定の場所で食事をするのではなく、自ら情報収集をし、これらの施設を選択していこうとする心性の持ち主たちだ。当然、お仕着せの旅をしているのではなく、とにかく自分たちの好みに合わせてホテルやレストランを選ぼうとする。そういった人間たちが自らの経験に基づいて情報をTripadvisorに書き込んでいけば、必然的に情報に対する主体性、欲望、そして情報収集能力が高いゆえ(バックパッキングというのはかなり高度な情報行動を要求する。ちゃんとやらないとトラブルに巻き込まれてしまうのだから、まああたりまえなのだが。で、こういった条件によってバックパッカーはスクリーニングされるし、Tripadvisorの投稿者もまたスクリーニングされる)、評価の基準も高くなっていく。それが結果として、自律的に旅行する旅行者たちにとって有用な情報=集合知を形成するようになっているのだ。そして、Tripadvisorでは、世界中の旅行者たちがここにレビューを書き込んでいくので、その数は膨大になり、数が多ければ多いほど「バックパッカー的旅行者にとっての情報の正確性」が高まるという事態を結果するのである。まあ、いいかえればちょっとスノッブな情報ということにもなるのだけれど。ちなみに、これらの施設に対する吟味やチェックの仕方はハンパではないので、海外に出かけられたときにはTripadvisorが評価するランク一位のレストランに立ち寄ってみるとよいだろう。ほぼ間違いなく大当たりになる(ちなみに日本国内盤はまだ×。情報量が少ないのでまだ集合知が機能していない)。

というわけで、Tripadvisorは素晴らしいサイトなのだが……実はここに大きな落とし穴も潜んでいることも指摘しておかなければならない。そして、それはスロウィッキーが気づかなかった「集合知が備える必然的結果」でもあるのだが。具体的には、今回は指摘しなかった食べログとWikipediaの情報の不正確性がそれに該当するのだけれど。それは何か?(続く)

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