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オスカー・ピストリウス(Oscar Pistorius)選手の事件報道に見る捜査機関のリーク問題(2)

昨日の「オスカー・ピストリウス(Oscar Pistorius)選手の事件報道に見る捜査機関のリーク問題」という記事はライブドアのBLOGOSというウェブサイトにおいて、「メディア」セクションの一面に取り上げられたことも相まってか、かなりの読者の方に、問題意識を持ってもらえたのではないかと思っている。

新たに弁護人による保釈請求に係る審理における主張内容や弁護団等の結成に関する情報が報道されたことを受けて、私は、現時点において、この事件は、冤罪の可能性がある程度見込まれる事件ではないかとの心証を持ちつつある

もっとも、かかる心証も、現段階で報道されている情報を前提として、警察がリークする情報内容の矛盾等や弁護人の主張内容を一見してのものであるから、今後の展開次第では、当然変わることが前提である。

ただ、この事件は、捜査機関の情報管理のあり方、捜査機関による一方的なリーク情報の検証のあり方、マスメディアの報道のあり方、事実認定のあり方等を考える上で非常に参考となる事件であるから、なぜ私がこの事件につい冤罪の可能性もある程度見込まれると現段階で思うようになっているのか補足的に説明したい

今まで具体的な犯行状況に関する情報はほとんど明確には報じられていなかったが、保釈審理における弁護人の主張と検察官の主張から、その概要が多少見えてきた。

その記事内容は次のとおりである。気になる部分は太字に筆者がしている。

14日の事件後、2回目の出廷となる保釈査問会にピストリウス被告は、黒のスーツ、ブルーのシャツ、グレーのネクタイといった服装で現れた。スティンカンプさんの名前が挙がるたびに泣き崩れ、前科はないかという質問に答える際には声が震え、裁判官に大きな声でと言われ、答え直す場面もあった。  

審理では、ピストリウス被告の恋人だったモデルのスティンカンプさんが殺された経緯について、検察側と弁護側の主張に強烈な食い違いがみられた。  

検察側は、プレトリアにある自邸で被告が銃をとり、義足を着用して7メートルほど歩き、鍵のかかったバスルームの扉の反対側からスティンカンプさんへ向けて4発発砲し、うち3発がおびえたスティンカンプさんに当たり、致死傷を負わせたと述べた。ゲリー・ネル(Gerrie Nel)検事は「彼女はどこへも行き場がなかった。何の武器も持たない無実の女性を被告は撃ち殺した」とし、バレンタインデーに起きた殺人は「計画的だった」と主張した。    

また被告がスティンカンプさんを侵入者と誤ったという弁護側の主張に反論するため、スティンカンプさんは13日の夜に宿泊するための荷物を持ってピストリウス邸に来ていたと述べた。  

一方、著名弁護士らが集まるピストリウス被告の弁護団は、殺害は計画的だったとする検察側の主張を否定した。

弁護団の1人、バリー・ルー(Barry Roux)氏は「この件は殺人でさえないと我々は申し立てた。一切の譲歩はない」と述べた。  ルー弁護士は、被告がバスルームにいた人物を侵入者だと思ったと述べ、計画された殺人とは言えないと主張した。さらに被告はスティンカンプさんを助けようとしてバスルームの扉を壊したとも語った。  

弁護団は、ピストリウス被告の保釈を求めるとみられているが、当局はこれを却下すると明言している。  

すでにピストリウス被告は3月から5月に行われるオーストラリア、ブラジル、英国、米国での競技会出場を取りやめている。  

同日、スティンカンプさんの故郷、ポートエリザベス(Port Elizabeth)では、身内だけでスティンカンプさんの葬儀が行われた。棺は白い花で覆われ、悲しむ参列者に見送られながら火葬場の礼拝堂に運び込まれた。  

スティンカンプさんの遺族は、ピストリウス被告に対する恨みはなく、ただ死の真相をはっきり知りたいと述べた。叔父のマイケル・スティンカンプ(Michael Steenkamp)さんはAFPの取材に対し「私たち家族に敵意とか憎しみのようなものはないが疑問があり、それは解決していくと思っている」と語った。  

競技以外の面では軽はずみな行動で時に私生活に問題もあったピストリウス被告を支援するチームは、有名弁護士らによる強力な弁護団の他に、医療専門家、広報専門家から構成されている。  

英大衆紙サン(The Sun)の元編集者で、顧客には英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズ(British Airways、BA)やサッカークラブのチェルシーFC(Chelsea FC)、マンチェスター・ユナイテッド(Manchester United)といった錚々たる名前が並ぶPR専門家スチュアート・ヒギンズ(Stuart Higgins)氏が、ピストリウス被告の広報を引き継いでいる。  また弁護人の1人、ケニー・オールドウェージ(Kenny Oldwage)氏は2010年にネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)元大統領のひ孫が死亡した交通事故で運転者の弁護を請け負い、無罪を勝ち取った経歴がある。【翻訳編集】 AFPBB News

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130219-00000044-jij_afp-int

さて、このニュース報道から、いくつかの事実が分かり始めた。

1つ目は、被害者が浴室において、ドアの外側から発砲を受け、4発中3発が被弾し、それが死因となっている可能性が強いということである。

2つ目は、浴室のドアが壊れていたということである。

3つ目は、被害者遺族は現時点で、被告人であるピストリアス選手に対する強い処罰感情を示しておらず、むしろ、殺人だとした場合に、被害者が殺されなければならなかった理由について何らかの確信を持っていなさそうだということである。

この他の点については、弁護人と検察官との主張の間に争いがありそうで、確定的な情報がないので、現時点では、言及を避けておく。

そこで、これらの事実を前提として考えると、報道されていた血のついたバットの存在はどういう理解になるのであろうか

おそらく、ピストリウス選手及びその弁護人は、「血のついたバットが存在する理由について、浴室の物音に気付き強盗だと誤認して、発砲した後、被告人が、誤射の可能性に気がつき、被告人は浴室のドアを壊して、被害者救出するために、バットを使用した。救出の措置をするために無我夢中だったところ、バットは血の流れた床に落とし、そこで大量の血液が付着したという主張を展開していくのではなかろうか。

仮にかかる主張をした場合、この主張それ自体は、ある程度合理性がある主張のように思える

他方、捜査機関側は、バットについては、犯行に使われた可能性や被害者が防御に使用した可能性に言及するリークをしてきた。

しかしながら、前者については、審理においては3発の被弾が死因であるということを前提とした議論がなされていたようであるから、その立証は難しくなっているのではないだろうか。

また、後者についてみると、そもそも、銃口を向けられて被害者が防御にバットを使用するという主張には、とっさの行動だったとしても疑問を挟む余地があると感じる。

つまり、銃口を向けられてとっさにバットを被害者が持ったということはありえなくはないが、浴室にバットがあるのであるから、バットを持ちつつ、被害者が浴室に逃げ込むという行動をとったことになるが、果たして、被告人が被害者の姿を見えない状態で撃ち、強盗と間違えたとの言い逃れができる都合の良い状況を被害者自信がが作るように計画性をもって仕向けることを、被告人が実行しえたのかという強い疑問が生じるのである。

また、現時点の報道では、被告人にバットによる防御傷があったという話も出ていない

結局のところ、検察官が計画殺人という罪状で起訴している以上、検察官にとっての決め手となるものは、被告人が計画性があると言えるような強い動機の立証である。

しかしながら、この動機が現時点でも判然としていないということは重大な点であろう。

この点、驚いてしまうのは、一部報道が事実だとすれば、検察官は、動機につき、「動機については『(女性を)殺したい。それだけだ』と述べた。」というのである。

これが本当だとすると、検察官には、動機の立証手段を持ち合わせていないことになる

そして、捜査機関が開示しているのは、ピストリウス選手があたかも危険人物だったかのような情報ばかりで、何ら犯意を推認可能とする間接事実も報じられてないのである。

私は、ここに、本件における捜査機関側の筋の悪さがあると感じるし、この点は重大であるから、捜査機関側から報じられる情報に接する上では、見落としてはいけない点であると思うのである

ところで、検察官は、被害者であるスティンカンプさんが13日の夜に宿泊するための荷物を持ってピストリウス邸に来ていたと主張し、誤認のはずがないと主張しているようであるが、これも、決め手を欠く。

宿泊するために来ていたというだけでは、誤認の主張を覆すことにはならない。

立証責任を有する検察官としては、宿泊準備をして被害者が来ていたことを被告人が認識しており、被告人において、被害者を強盗と間違える余地がないことを立証しなければならないのであるから、今後の報道では、その立証ができるのかも注視していかなければならない。

さらに、被害者の遺族の反応も重要である。

被害者遺族が、被告人の犯行動機に何らかの察しがついていれば、処罰感情を示すのが自然であるが、被害者遺族が、現時点でも、そうした感情を示さないのは、やはり、犯行動機に察しが付いておらず、戸惑っていることの表れとみるのが自然であろう。

ところで、先日の記事で私は、殺意の認定における重要な客観的な要素として、3つ目に、「犯行中又は犯行後の被告人の言動」ということを紹介した。

この点も、本件では、ピストリウス選手に有利と思われる情報もちらほら見受けられる

例えば、一部報道では、被告人は、犯行直後友人に、電話をしており、その状況が報じられている。

英紙「サン」は、射殺後にピストリウス被告が友人に「俺のババ(ベイビー)を殺してしまった」と泣きながら電話してきたと報じた。  

親友のジャスティン・ディバリスさんに連絡があったとされるのは、救急サービスに連絡が来る前の14日午前3時55分ごろ。警察到着後も泣き続けており、「彼は『事故だった。僕はリーバを撃ってしまった』と話していた」と明かしている

これは極めて重要な犯行直後の被告人の言動である。

かかる言動は、被告人が被害者を強盗と誤信し、撃ってしまったという趣旨に捉えることができる言動であるから、殺意の認定においては消極的な事情、つまり、被告人に有利な事情となる可能性がある

そして、その後も、被告人は、警察に協力的な姿勢をしてしており、アルコールや薬物テストも受けているというのであり、さらには、公判廷で、被告人が終始、泣きじゃくっているという言動も、演技として切り捨てるだけの動機が認められない現時点においては、計画殺人犯が取りうる行動とはなかなか捉えにくいのである。

さらに、被害者との二股交際が噂され、被告人の動機に成りえるとして報じられた人物は、被告人が被害者を殺意を持って殺害したとすることに、否定的なコメントを次のようにしているようである。

また地元紙ではラグビー南ア代表SHフランソワ・ホーハート(24)と、スティンカンプさんが「親密だった」とも伝えている。

数年来、2人の共通の友人だったというホーハートは、過去にも有名スポーツ選手の前妻との熱愛でゴシップ誌をにぎわすなど、名うてのプレーボーイ。過去には2人の交際が報じられたこともあるが、こうした関係を否定したうえで「痛ましい。(スティンカンプさんの死は)彼のせいではない」とコメントしているという。

以上のような状況からすると、私は、現時点では、ピストリウス選手に対する計画殺人の起訴事実は、冤罪となる可能性がある程度あるのではないかという心証を抱きつつある

そして、無罪請負人といえるような優秀な弁護士や専門家が支援をしているのは、単に金銭的報酬を得る目的というよりは、彼らがある程度の強い無罪の勝算を見込んでいるからではないだろうか

今後も公判廷の状況を注視していきたい。

なお、本件を我が国の刑法に当てはめて考えると、誤想過剰防衛の論点も出てくるなかなか勉強には良い題材になるかもしれないが、果たして、南アフリカの刑法にもそういう綿密な議論があるのか気になるところでもある。

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