記事

原発事故と調査報道を考える 奥山俊宏(朝日新聞記者)×藍原寛子

1/3
藍原寛子

原発震災後、メディアの報道が大きな関心を集めている。福島県内外で避難者の取材をするなかで、国や東電、行政そしてマスメディアに対して、「震災について十分な情報を提供してくれなかった」と疑問をもったという声を何度も聞いた。本来、メディアは住民、読者や視聴者の側に立ち、報道によって十分な情報を提供し、それによって人々のより良い行動の選択へ大きな役割を果たすことを期待される。そのメディアへも不満が募ったことは、今後も起こりうるであろう複合災害や原発事故の報道について大きな宿題を残した。

そこで、原発事故当時、東京電力の記者会見を取材、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、共同執筆)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書)を上梓した記者の奥山俊宏さんに原発事故と調査報道について聞いた。奥山さんは社会部や特別報道チーム、特別報道部などで調査報道をつづけてきた。東大工学部原子力工学科で原子力を学び、朝日新聞入社後も福島支局時代に原発を取材した。メディアのなかでも原発と調査報道の両方の数少ないエキスパートだ。
(聞き手・構成/藍原寛子)

■情報の非対称性はあったのか ―― テレビ会議の検証

―― 東電のテレビ会議の記録が昨年から報道機関に開示されています。奥山さんは3人の同僚を含む取材チームで『検証 東電テレビ会議』を上梓されましたが、この録画記録に注目した理由を教えてください。

東電のテレビ会議の映像は、その存在が分かって以降、資料価値がかなり高いもので、いつかは見てみたいと思っていました。東電の社内で何が話し合われたのかを知ることは、どのように事故が拡大していったのか、東電がそれにどう対処したのか、つまり、事故の核心を知るために、とても重要なことだと思いました。同時に、「東電はウソをついたのではないか」「東電が持っていた情報と、国民が知らされた情報に違いがあったのではないか」という疑問を検証するのに役立つだろうとも思いました。

ぼく自身、震災の2カ月半後の2011年5月31日の政府・東京電力統合対策室合同記者会見で直接、東電や細野さん(当時は総理大臣補佐官)に「ぜひ公開していただきたい」とお願いし、細野さんは「事態が落ち着いた段階で皆さんに御説明するということは当然あり得べしだと思う」と返答しました。不十分とはいえ、それがやっと実現したのが昨年8月のことでした。

―― 今回の原発事故では、東電や政府が持っている情報と、国民が得た情報のあいだに格差、「情報の非対称性」があって、それは大きな問題だと指摘されることがありました。情報の非対称性について明らかにすることは、大きな災害や事故の際に、事故原因者が被災者に対してどう情報を提供するかという課題を明確にするでしょう。情報の非対称性の有無について、テレビ会議で分かったことはありますか。

東電自身が原子炉の内部の状況について見誤っていた、状況を把握できていなかった、ということがテレビ会議でのやりとりで裏づけられました。テレビ会議を見ると、東電の人たちは「圧力容器の底は抜けていない」という前提で、内部で話をしています。「格納容器は健全だ」という前提で話し合っています。つまり、「格納容器は健全です」と発表したのは、ウソをついたのではなく、本当にそう思っていた、ということがよく分かります。

ちょっと恐ろしいことですが、情報の非対称性は、世間で言われているほどには、大きくはなかったと感じました。速やかに発表すべきことを速やかに発表しない、発表に消極的、発表し渋っていた、というような実態もテレビ会議でよく分かりましたが、事故の核心、事態推移の核心について意図的なウソをついた、というところは、今はまだ精査中ですが、今のところ見あたりません。

東電による事態の評価については、「過小評価の事例」「過大評価の事例」「意図的にウソをついた事例」があったことが今となっては分かっています【表参照、奥山氏まとめ】。これが「過小評価の事例」ばかりで、「過大評価の事例」がなかったのだとすれば、それは、東電が意図的にウソをついたことを裏づける状況証拠になりますが、実態としては、そうではなかったことが分かります。

 4

―― 報道機関の原発事故報道について「大本営発表報道だった」「パニックを恐れて情報統制した」「報道機関は東電と一緒になって隠していたのではないか」という批判があります。その指摘についてはどのようにお考えですか。

東電に取材が集中したのは、東電が事故を起こした当事者だからです。東電がもっとも事実に接近できる立場だったからです。

「報道機関が情報統制に手を貸した」とか、「報道機関が東電と一緒になって隠した」とかいうのも、あり得ない話だと思います。ぼく自身、社内でそんなことはまったく見聞きしていません。3月15日から16日にかけての各紙の一面を見れば、それは裏づけられます。

情報統制どころか、各紙ともむしろ、あおるくらいの調子で書いています。たとえば、3月15日の読売新聞夕刊の一面トップの見出しは「超高濃度放射能が拡散 4号機 年間限度の400倍 官房長官『身体に影響の数値』」ですから。

―― 放射線量などは的確に住民に知らされていた?

ぼくがいた東電本店では、福島第一原発や福島第二原発の敷地のなかの放射線量が公表されていました。それらのうち大きな値は新聞で報じられました。福島第一原発の敷地内には一般の人はいないので、10キロ離れた場所の線量であるという点で第二原発の線量を目安に推移を見ていましたが、それらの値はインターネット上で公開されていました。宮城県の女川原発や茨城県の東海第二原発で線量が上がったことは報道で知り、「そんな遠くまで放射性物質が飛んでいったのか」と感じた覚えがあります。それらの情報は公表はされていましたが、「的確に知らされていた」といえるかというと、そこに問題があった、ということだと思います。

―― あの当時、放射線量の発表を知っても、その線量の数字の意味を個人個人が理解して判断し、行動できたかというと、ほとんどの人はできませんでしたよね。

そうなんだろうと思います。線量が仮に毎時100マイクロシーベルトだというときにどう行動するべきか。人によって状況によって異なると思います。逃げるべきか、それとも、とどまるべきか。福島第一原発事故では、避難の途中に亡くなった人がいました。国が一律に避難を押しつけるべきものなのかどうか。年齢や健康状態、生活環境、価値観などなどを総合して個々人ごとに判断できればいいのでしょうが、それは理想論かもしれません。

―― では、政府が出した避難指示というのは、やり過ぎだったのでしょうか。

政府が出したのは当初、原子炉がこの先どうなるか分からない段階での「念のため」の予防的な避難指示でした。原子炉の格納容器が爆発するような事態に備えたのだと思います。実際には、格納容器からその中身の一部が漏れましたが、格納容器が爆発してその中身の大部分が外部にぶちまけられるということはありませんでした。格納容器の爆発がなかったことをもって、後知恵で「もっときめ細やかに避難あるいは屋内退避を指示するべきだった」と言うことができますが、それがあの局面で正しいかどうか。

あわせて読みたい

「福島第一原発事故」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    獣医学部めぐり総理が自爆発言

    郷原信郎

  2. 2

    人の訃報を話して安堵する人々

    山本直人

  3. 3

    野田佳彦、中国ではいまも極悪人

    NEWSポストセブン

  4. 4

    星野源になれない男たちの嫉妬

    幻冬舎plus

  5. 5

    「死」に向かう日本の実写映画

    吉川圭三

  6. 6

    維新の会 除名で勢力拡大は困難?

    早川忠孝

  7. 7

    ATMだけで成功 セブン銀行の戦略

    PRESIDENT Online

  8. 8

    豊田氏暴言の「有権者」に疑問

    赤木智弘

  9. 9

    婚活中のズレた37歳女に非難殺到

    キャリコネニュース

  10. 10

    なぜ各新聞で内閣支持率が違うか

    NEWSポストセブン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。