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富山市は「第二の夕張市」となるか――「コンパクトシティ」を目指して暴走する国土交通省と富山市長

 
北海道の中央部に位置にす夕張市は「炭鉱の町」として栄えた。だが、その後「石炭から石油」へのエネルギー政策の転換などを受けて炭鉱は次々と閉山されたため、夕張市は新たに「炭鉱から観光へ」を掲げて、スキー場やテーマパークなどを次々と開設する「リゾート」化路線に邁進した。その結末は、多くの人の知るところである。施設建設に伴う累積赤字が重くのしかかって市の財政を圧迫し、2007年に財政再建団体に指定されて、夕張市は事実上、財政破綻した。夕張市はブレーキとアクセルの踏み間違えてしまったのである。

さて、富山市は「第二の夕張市」となるか。結論を先に言えば、今のところは、まだそこまでは深刻ではない。だが、早目に警笛を鳴らして、国土交通省と富山市長が推進している「コンパクトシティ」政策に対して異議を申し立てること、安全に正しくブレーキを踏むように促すことは、些細なことながら、必要であると僕は考える。(僕が過去に書いた「コンパクトシティ」批判に関しては、「「コンパクトシティ」の創設は税金の無駄遣いである――自民党の補正予算案(2012年度)を批判す」(2012年12月29日)の記事を参照。)

「コンパクトシティ」とは、都市のスプロール化(郊外化)を抑制して、都市の中心部に様々な施設をコンパクトに集中させた街のことである。メリットは、自動車がなくても暮らせる街になることと、それに伴ってインフラの維持費や更新費が削減できることであると言われている。自動車を運転できない若者や高齢者(交通弱者)が暮らしやすい街であるとも言われている。また、多くの場合、「コンパクトシティ」は都市計画家のピーター・カルソープによって提唱された「公共交通指向型開発」と結び付けられて、路線バスやライトレールを敷設する等によって公共性の高い交通機関の利便性の向上が目指されている。デメリットは、割愛する(山ほどある)。

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富山市は現在、その「コンパクトシティ」政策を推進している。ちなみに、国土交通省と富山市の関係は、分かりやすく言えば、秋元康と大島優子の関係である。前田敦子は青森市である。富山市は2006年に「富山ライトレール」を開業、2007年には富山市の中心市街地に「グランドプラザ」(上図)、「グランドプラザ前駅」、「総曲輪フェリオ」などを矢継ぎ早に開業した。更に、北陸新幹線・富山駅も建設中である(2014年開業予定)。

そのため、「コンパクトシティ」政策の実施以降の富山市の財政は厳しい状況に陥っている。予算に占める地方債の割合は年々増加の一途をたどっている。富山市の地方債は都市別ランキングの中核市の中ではワースト4位である(中核市は全国で41市ある。政令指定都市などは含まない。ちなみに、青森市はワースト3位)。富山市の市民一人当たりの借金は約58万円である(中核市の平均的な一人当たりの借金は約39万円)。また、実質公債費比率も年々増加の一途をたどっている。富山市の実質公債費比率は2007年度で11.7%、2011年度で13.9%。ちなみに、18%以上になると、地方債発行に国や都道府県の許可が必要になる。富山市の実質公債費比率は、大体、毎年0.5%ずつ増えているので、7年後の2020年に18%以上になる計算だ。

また、「コンパクトシティ」政策を推進している富山市の森雅志市長は、今年の1月15日から始まった市長協議で、「財源は厳しいがしっかりとメリハリを利かせた予算編成をしていきたい」と方針を述べて、富山市の財政が厳しい状況にあることは認めている。(「富山市市長協議始まる 新年度予算財源不足93億円」(チューリップテレビ、2013年1月15日)の記事参照。)

ま、もちろん、現在の「コンパクトシティ」政策は未来へ向けた投資であって、富山市の財政は30年後には劇的にV字回復する!という可能性もゼロではない。そこまで僕は全否定しない。だが、「コンパクトシティ」政策が半ば進行した現在の状況をみると、富山市の「コンパクトシティ」政策が成功しているとは僕には全く思えないのである。富山市の森市長が暴走しているようにすら見える。例えば、2012年に作成された森市長のプレゼン資料の「コンパクトシティ戦略による 富山市型都市経営の構築」(※PDFファイル)の12頁には、「平成19年にグランドプラザオープン、中心市街地の歩行者数が着実に増加(H18→H23 56.2%増)」と書かれている(下図)。これが事実であるならば、富山市の中心市街地活性化に成功しているとは言えるだろう。だが、これは事実であって事実ではない。これはどういうことなのか。その前に青森市の話をしよう。

青森市は富山市と同様に「コンパクトシティ」政策を進めている都市である。青森市は「コンパクトシティ」界の前田敦子である。青森市は富山市に先駆けて2001年(平成13年)に青森駅前の「しんまち商店街」の商店街入口付近に商業施設「アウガ」を建設した。「アウガ」は「コンパクトシティ」政策の成功例として国土交通省と御用学者らが絶賛した。そして、その時、青森市は「アウガ」の成功を示す証拠として歩行者数(歩行者通行量)の調査結果を使った。その調査結果によると、「アウガ」周辺の歩行者数は大幅に増加していた。大成功である。この調査結果は日本中を駆け巡って国土交通省が推進する「コンパクトシティ」政策にお墨付きを与える資料となった。さて、これは事実だろうか。確かに「アウガ」周辺の歩行者数は大幅に増加した。だが、歩行者数が増加したのはそこだけだった。「アウガ」周辺だけが増加した。そして肝心要の「しんまち商店街」の歩行者数は減少した。「アウガ」が「しんまち商店街」へ向かう歩行者の足を堰き止めた可能性すらある。これを成功と呼べるだろうか。

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前述の富山市の森市長のプレゼン資料の「コンパクトシティ戦略による 富山市型都市経営の構築」(※PDFファイル)の12頁には、「平成19年にグランドプラザオープン、中心市街地の歩行者数が着実に増加(H18→H23 56.2%増)」とある。これは事実だろうか。事実と言えば事実である。だが、これは青森市の「アウガ」の時と全く同じなのだ。下図は、富山市の2011年(平成23年)の「富山市中心市街地活性化基本計画(第1期) 事後評価(中間報告)(※PDFファイル)である。これを見ると、「グランドプラザ」が開業した2006年(平成19年)以降の富山市の中心市街地の歩行者数(歩行者通行量)は減少し続けていることが分かる。つまり、「グランドプラザ」周辺の歩行者数だけが増加したのである。富山市の中心市街地全体では歩行者数は減少している。青森市と同じである。「コンパクトシティ」政策はうまく行っていないのである。

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よって、富山市の森市長のプレゼン資料は、事実であって事実ではない。ウソではないが限りなくウソに近い記述である。注意して読む必要がある。ちなみに、青森市の「アウガ」は、多額の借金を抱えて2008年に経営破綻している。

最後に、2006年に開業した「富山ライトレール」について。「富山ライトレール」は実質的には赤字である。富山市の森市長が我先と発表している経常利益は確かに黒字なのだけど、じつはそこには富山市から補助金(税金)が注ぎ込まれているのである。補助金を入れて黒字になっているのであって、補助金がなければ赤字である。ただ一方で、富山市の森市長のプレゼン資料が示しているように「富山ライトレール」の乗車人数は増加している。鉄道は公共性が高いので赤字でも多くの市民に利用されているならば、それでも構わないのかも知れない。その判断は富山市民が決めればいい。赤字は良くないと考えるか、赤字でも公共性があれば良しとするかは価値観の問題である。それを決めるのは民主主義の手続き(民意)である。もちろん、その判断で富山市の借金が年々増加の一途をたどっているという現実も忘れずに考慮に入れなければならない。

次の富山市長選挙は2013年4月14日である。3ヶ月後である。「コンパクトシティ」政策を推進している現職の森市長を選ぶか、それとも対抗馬となる人物を選ぶかは富山市民(有権者)の良識にかかっている。また更に、この選挙は国土交通省が推進している「コンパクトシティ」政策の行く末を左右することにもなるだろう。なぜなら、富山市は「コンパクトシティ」界の大島優子であるからだ。ちなみに、「コンパクトシティ」政策を推進した青森市の佐々木誠造市長(元)は、2009年に行われた青森市長選で、新人の鹿内博市長(現)に大差で敗れている。この選挙では、佐々木誠造市長(元)が推進した「コンパクトシティ」政策や経営破綻した「アウガ」の運営責任なども争点となったようである。いずれにせよ、国土交通省が推進している「コンパクトシティ」政策は危うい。早めにブレーキを踏むべきである。富山市が「第二の夕張市」になる前に。

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