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セックスワーク・サミット2012・風俗嬢の『社会復帰』は可能か? ―― 風俗嬢の『社会復帰支援』の可能性を考える

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セックスワークは悲惨かつ劣悪な「裏社会」という通俗的なイメージをもとに「社会復帰の必要性」を問われることが多い。しかしセックスワーカーは本当に、社会復帰を望んでいるのか。社会はセックスワーカーが復帰するに値する社会なのか。

「セックスワークの社会化」をキーワードに開催されているセックスワーク・サミット2012。当事者の声が聞こえづらいなかで、外部の支援者・代弁者は何ができるのか。支援現場のリアリティや課題、展望を語りあった。

(構成/シノドス編集部・金子昂)

 
■風俗嬢の「社会復帰」は可能か

赤谷 皆さんこんにちは。セックスワーク・サミット2012にご参加いただきありがとうございます。本日司会を務めさせていただきます、編集ライターの赤谷まりえです。本日は「風俗嬢の『社会復帰』は可能か? ―― 風俗嬢の『社会復帰支援』の可能性を考える」というテーマで、セックスワーカーの「社会復帰」について考えていきたいと思います。

主催のホワイトハンズが掲げる、本日の会の趣旨説明を申し上げます。

性風俗の世界に従事する大半の女性は、さまざまな事情で家庭や学校といった「表社会」からはじき出された結果、セックスワークという悲惨かつ劣悪な「裏社会」のもとで自らの体を切り売りし、継続性と将来性の乏しい働き方をしていると考えられがちです。

そういった通俗的なイメージから「救済しなくてはいけない」「社会復帰せよ」と、ありがちな救済論が出てくるわけですが、救済論的発想および現状認識は本当に正しいのでしょうか。セックスワーカーは「反社会」という社会にいるほうが、居心地のよさを感じているのではないでしょうか。

非常に不安定、かつ刹那的なかたちではありますが、性風俗や売買春は精神的、経済的な「救済システム」になっている側面は否めません。社会に絶望した人間に「社会に復帰せよ」と語るのであれば、その「救済システム」に変わるオルタナティブなシステムをわたしたちの社会が用意する必要があります。はたしてそれは可能なのでしょうか。そして、この問いはどのように考えるべきなのでしょう。

本日は、支援現場のリアリティや課題展望を語っていただきたく思い、夜の世界で働く女性を支援する2つの団体の方に来ていただきました。風俗嬢の社会復帰は可能か、そもそも社会復帰すべきか否か、そしてわたしたちが向かうべきセックスワーク3.0の世界 ―― セックスワークの社会化を実現するためのヒントを、皆さんと考えていきたいと思っています。

説明が長くなりましたが、最初に主催者のあいさつとして、一般社団法人ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾さん、お願いします。

坂爪 こんにちは、ホワイトハンズ代表理事の坂爪です。

セックスワーク・サミットは、これからのセックスワーク(性風俗労働、売春労働)のあり方、進むべき方向性を議論するサミットです。サミットのキーワードは、「セックスワークの社会化」。社会化とは、分かりやすく言えば、「日常生活のなかで、誰もが当たり前に利用でき、働くことのできる仕事にする」という意味です。

セックスワークを「関わった人の大半が不幸になる」「一生消えないスティグマ(負の烙印)になる」世界から、「関わった人すべてが幸せになる」「そもそもスティグマにならない」世界に変えるための仕組みを、セックスワークの当事者・支援者を交えて徹底的に議論します。

本サミットでは、飛田新地やソープランドといった昔ながらの本番系サービスの世界を「セックスワーク1.0」、1980年代以降に増加した、店舗型ヘルスやデリヘルなどの非本番系サービスの世界を「セックスワーク2.0」、重度身体障害者への射精介助などの、健全で社会性のある性サービスの世界を「セックスワーク3.0」と定義しています。

参考;坂爪真吾「『障害者の性』問題を通して、新しい『性の公共』」を考える http://synodos.livedoor.biz/archives/1997019.html


さて、セックスワーク・サミット2012は、4月の福岡・中洲から始まりまして、新宿・歌舞伎町、札幌、京都といった、全国各地で開催してまいりました。本日の歌舞伎町2回目が、年内最後の会となります。

全国各地をまわって、わたしがもっとも強く感じたことは「当事者の不在」です。こうしたサミットを開催しても、会場に来て下さるのは、ソープやハコヘルなどで働き、それなりに稼ぐことのできている一部のエリートワーカーのみで、大多数を占めるデリヘル嬢やホテヘル嬢、ピンサロ嬢は、まず来てくれません。

では、どのような方が来て下さるのかというと、「セックスワーカーを代弁したい」「支援したい」と思っている人が、主に参加してくださっている、というのが現状です。

セックスワークに関する議論の特徴として、風俗店や、そこで働く風俗嬢の実態が見えづらいがゆえに、代弁者がイメージ先行で議論してしまっている点があげられます。とはいえ、代弁者による議論が、必ずしも悪であるとは言えません。

セックスワーカーは、そもそも、自分が当事者であると思っていないことが多く、当事者意識を持っていないために、夜の世界の労働環境を整える、という発想が、なかなかでてこないんです。であるならば、内部の当事者ではなく、外部の支援者・代弁者が、問題を少しでも良い方向に引っ張っていくことが、セックスワークの問題系を解決していく上での、現実的な解だと思います。

本日は、短い時間ではありますが、風俗嬢の「社会復帰支援」の現場で活躍されているゲストの方のお話を聞いて、実態の見えづらいセックスワークの世界をどのように理解し、どのように当事者を支援していけばよいかを、考えたいと思っています。それでは、最初にガールズケア代表、株式会社オフィスキング取締役である中山美里さんにお話いただきたいと思います。中山さん、よろしくお願いします。

■ウェブサイト・ガールズケアとは

中山 こんにちは、中山美里です。まずは自己紹介をします。

わたしは16歳から夜遊びを始めて、援助交際やヌードショーを行うクラブで働いているうちに、なぜかライターになっていました。いまは編集プロダクション・オフィスキングを、元男優の夫と経営しています。夫婦ともに夜の世界にどっぷり浸かって生きているわけです。

ガールズケアは、ライターをしているあいだに出会った20歳くらいの女の子がきっかけで立ち上げました。とても可愛い女の子なのですが、小学生のときに壮絶ないじめにあって精神的に参ってしまい、北海道にある本番もできるピンサロに中学生のころから働いていたようです。その後お店で「東京でAV女優になれば、タレントや女優になれる」とスカウトされたことをきっかけに上京したものの、もちろんタレントにも女優にもなれず、超狭い風俗店の寮に10万払って生活を送ることになりました。それでも彼女はまだアイドルになれると信じて働いています。

彼女はアスペルガーのような症状も見られましたし、鬱傾向もありました。知能的な問題があるのかもしれません。健康保険も銀行口座も持っていないし、そもそも健康保険の存在も知らなければ、銀行がなにをする場所なのかもわかっていませんでした。彼女に必要なのは、行政の支援であり、生活保護であり、生活を立て直すために親身に相談を受けてくれる人でしょう。

彼女は稀なケースではありません。その後、同じような女の子とたくさん出会ってきました。彼女たちのために出来るかぎりのことはしたいけれど、わたしにも生活がありますから限界があります。そこで彼女たちと繋がりながら情報を発信していくコミュニティを設けようと思い、風俗嬢やAV女優、キャバ嬢などに役立つ記事を掲載するウェブマガジン・ガールズケアを見切り発車で始めました。

GIRLS CARE;http://www.girlscare.org/


見切り発車ですから、トラブルつづきで大変です。最初、風俗で働いている女の子に「ITに興味があってプログラムも書けるしイラストレーターも使える」と言われたのでサイトの開設をお願いしたらパソコンを持ってないと言い出して(笑)。「うわー、信用できねー!」と思いつつもパソコンを貸してみたら、ちゃんとロゴを作ってくれました。ただし、彼女はその後、わたしのパソコンと共にいなくなってしまって。「これはハードルが高いなあ」と思いながら、なんとかつづけていこうとしているのが現状です。

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                          中山美里氏

■目標は繋がりあうこと

さて、風俗嬢の社会復帰は可能か、そして復帰とは何かということですが、一概に言えないというのがわたしの考えです。風俗嬢にも個人的な背景がたくさんあります。なぜこの世界で働くようになったのか、働きたくて働いているのか、それとも嫌々やっているのか。要因はさまざまです。

社会復帰が必要なのかどうかわからない人もいますし、復帰することで負担が増えてしまう場合だってあるでしょう。ですから、ガールズケアは社会復帰を目標にしているのではなく、風俗嬢同士が繋がりあって発信していくことを目標に活動をつづけています。

議題をいただいているので、いくつかお答えしたいと思います。まずはセックスワーカーと障害者の関係についてですが、たしかに夜の世界で働く人のなかには、発達障害や精神障害を抱えている女性がいます。本来であれば福祉の支援を受けるべきなのでしょうが、彼女たちは何の支援も受けずに働いているケースが多く見られる。そして、そういう女の子たちが、たとえばAVのハードな撮影に出演していることが頻繁にあるように思います。

ハードな撮影によって怪我を負う子もいれば、病気になってしまう子もいる。でも最初にお話した女の子のように、それでもアイドルになることを夢見ているんです。わたしも初めは冗談だと思っていたのですが、彼女たちはどうやら本気のようです。そういう世界があることを知っていただけると幸いです。

次に、支援団体の先行事例とわたしたちの活動内容との比較についてお話します。今までの支援団体の多くは、性病の危険性や予防などの情報発信に留まっていました。わたしたちの活動は、性病にかぎらず、いろいろな情報を発信しています。

たとえば、風俗業界も不景気の煽りを受けて、稼げない仕事になっていて、1ヵ月フルで働いても20万円しか稼げない世界になっています。風俗は年を取れば収入が減りますから、稼げるあいだに稼がなくてはいけません。そこで、現役のセックスワーカーに風俗で稼ぐことをテーマにしたコラムを連載していただいています。

他にも、風俗嬢のなかにはどの業界でも立派に活躍できるだろう女の子がいろいろな成り行きでこの世界に従事しています。そこで風俗嬢の転職をテーマにしたコラムも、同じく現役のセックスワーカーに連載をしてもらっています。

わたしたちの活動はなかなか実績が見えにくいものですし、繋がりあって発信するといっても、内輪の繋がりになっているのが正直なところではありますが、そのあたりが先行事例との違いだと思っています。

最後に、社会復帰支援の困難性についてですが、先ほどもお話したように、いろいろな背景の風俗嬢があっていろいろな理由で働いているわけですから、どのような社会復帰のための支援が望ましいか一概には言えません。だからこそ、相互支援・扶助のかたちで、風俗嬢同士が繋がって、さらには行政と繋がっていくことで、何か新しい道が見えてくるのではないかと思っています。

今夏、キャバクラ嬢の私物を販売している会社から、コスメを開発・販売をする会社の設立を持ちかけられ、12月半ばから後半にオープンすることになりました。ガールズケアと連動しながら、新しいかたちでの活動も出来るのではないかと思っていますので、注目いただければと思います。

■一般社団法人GROW AS PEOPLEとは

赤谷 ありがとうございました。では次に、一般社団法人GROW AS PEOPLE代表理事の角間惇一郎さんにお話いただきます。よろしくお願いします。

角間 こんにちは。今日はわたしたちGROW AS PEOPLEがどのような活動をやっているかをお話したいと思います。GROW AS PEOPLEは埼玉県越谷市を拠点に、2010年10月から活動を始めました。現在、正式なスタッフはわたしを含めて3人。活動の際に、話を聞かせてくれる女性が約180名います。

わたしたちが提供するサービスの受益者は「21世紀のマーメイド」です。夜の世界で働く女性たちは足が欲しくて大きなリスクをとってしまった人魚姫のように、生きていくために大きなリスク ―― 夜の世界の仕事を選択せざるを得ず、その結果、自分たちの声を失ってしまい、立場を明かして相談ができなくなっている。わたしたちは彼女たちの声に耳を傾け、相談にのりたいと思って活動をしています。

お店の数と平均在籍人数からざっくり計算した数字となりますが、夜の世界で働いている女性は最低でも29万人以上います。20歳から40歳手前までと設定した場合、100人中2人となる。

しかし、そもそも夜の世界とは何か。たとえば一回だけ働いた女の子は夜の世界で働いていると言えるのでしょうか。また夜の世界の仕事のみで生きている人と、半々で生きている人、どこからどこまでが該当するのか、定義がありません。ですからわたしたちが計算した人数が多いか少ないかは気にしないでください。そのくらいの女性が働いていると思っていただければ結構です。

「夜の世界」という定義がないがゆえに、見えてこない問題がたくさんあります。たとえば、公務員の場合、調査を行えば、世帯人数や収入を調べることができますが、夜の世界で働く女性の場合、アンケートを取りたくても、窓口もなければ、回答を拒まれてしまうことも多い。突然「夜の世界で働いたことがありますか?」と聞かれたら、残念ながら多くの人は失礼だと思ってしまいますし、仮にそうだとしても正直回答してくれるとはかぎりません。

そのため、マクロの視点でみた実態は把握できていません。今日は、少なくともわたしたちが調査した結果をまとめてみて見えてきた問題をお話したいと思います。

GROW AS PEOPLE;http://growaspeople.org/


■「40歳の壁」を飛び越える

現在、GROW AS PEOPLEは「40歳の壁」という問題を設定して活動しています。夜の世界は健康であればつづけることはできますが、40歳を超えると今までと同じペースで働くのがしんどくなってガクンと収入が落ちます。どうしても40歳が定年になってしまう。女性の平均寿命は85歳くらい。人生の半分で、それまで実績をあげてきた仕事ができなくなってしまう。これが「40歳の壁」です。

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