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安倍晋三首相は、「危機突破」政策で、どんな国づくりをするのか、「国家ビジョン」が定かでない

◆戦後、経済・景気を盛り上げるのに成功した吉田茂、池田勇人、中曽根康弘の3人の首相は、それぞれの時代において、日本の国家ビジョンを掲揚して、国民を誘導した。「景気を押し上げる5つの基礎的条件」の3つ目である。

 吉田茂は「国家再建・国土復興」、池田勇人は「所得倍増・高度経済成長」、中曽根康弘は「高度情報社会・超高齢社会の建設」という国家ビジョンをそれぞれ掲揚した。

 しかし、これらの国家ビジョンは、敗戦により廃墟と化した国土を見て、吉田茂が「国家再建・国土復興」を掲揚したのは、当然のことだったとしても、池田勇人は「所得倍増・高度経済成長」、中曽根康弘は「高度情報社会・超高齢社会の建設」という国家ビジョンを掲揚するのは、決して簡単なことだったわけではない。

池田勇人は、大蔵省のなかで、ほとんどの官僚が相手にせず、極めて少数派だった下村治がまとめていた「所得倍増論」に目をつけて、これを引っ提げて、政権を樹立した。つまり、所得倍増などだれも信じなかったところ、池田勇人だけは、「これは凄い」と目をつけたのである。ただの石ころの山のなかに、「金」を見つけるようなものであった。

◆中曽根康弘も同様であった。1082年11月27日、政権を樹立して、それまでの10年続いていた「長い不況のトンネル」から脱出するための政策づくりに取り組み、大平正芳元首相が在任中、24の政策懇談会でまとめさせた報告書を、森田一衆院議員(大平正芳元首相の娘婿)から提供を受けて研究した。だが、いいテーマが見つからなかった。

中曽根康弘政権を樹立して、2年が経ったころ、建設業界と鉄鋼業界が共同して設立していたシンクタンク社団法人 日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)がまとめていた「社会資本整備について」と題する報告書を手に入れた。JAPICは都市再開発、地域開発、交通インフラ整備、水資源開発、環境問題への取り組みなど、豊かでゆとりと活力に満ちた社会を目指すシンクタンクである。中曽根康弘は、この報告書に「都市再開発」という言葉があるのに目を止めた。

同じころ、中曽根康弘は、野村総合研究所(中川幸次所長=中曽根康弘と旧制静岡高校の同級生)が、「都市再開発」というレポートを持っているのを知る。このレポートは、野村総研の研究員が、10年前にまとめて、出番を待っていたのである。

JAPICは、政府の公共事業予算をアテにしていたけれど、何しろ財政ピンチの状況が続いていたので、中曽根康弘は、ダブついていた民間金融資金を使うことを考え、「民間活力の活用」と名付けた。こうして、中曽根康弘の「都市再開発」政策が始動したのである。

この火付け役を担ったのが、大蔵省の西垣昭理財局長が提出した国有地リストのなかに含まれていた東京・新宿西戸山の大蔵省官舎敷地、赤坂の林野庁官舎敷地、六本木の防衛庁の敷地であった。東京・新宿西戸山の大蔵省官舎敷地は、住住友不動産が、赤坂の林野庁官舎敷地は、森ビルが、六本木の防衛庁敷地は、三井不動産が、それぞれ開発することになり、競争入札が行われた。だが、すでに「官製談合」で結果は決まっていた。

そして、1985年から1989年12月末にかけて、金融機関により、土地建物を担保に、貸し出しが盛んに行われ、株価と地価が急騰し続けた。

中曽根康弘の下でこの政策を指導したのが、建設族のドンであった竹下登と金丸信であり、エンジン役を担ったのが、金融・証券。建設・不動産、鉄鋼の各業界であった。

◆安倍晋三首相が、「デフレ脱出」「危機突破」政策に成功すれば、中曽根康弘に続く4人目の成功者となる。
 今回の「国家ビジョン」の1つは「東日本大地震被災地の復興・国土強靱化(防災)」である。だが、これにより、どんな国家を建設しようとしているのかが、まだ、はっきりしていない。

 この政策の主管庁は、国土交通省である。国土交通官僚のうち国土官僚(建設官僚)は、従来「田中派だ」と明言してきたように、いまでも、この意識は続いている。田中派の継承者は、小沢一郎と中村喜四郎だが、中村喜四郎は、汚職で刑を受けており、かつてのパワーはない。安倍晋三首相が、抜擢した太田昭宏国土交通相(公明党)は、あくまで亜流、よそ者、言うなれば「お客さん」であり、この役所を思いのまま動かすことはできない。

従って、安倍晋三首相の「東日本大地震被災地の復興・国土強靱化(防災)」政策は、成功しない。これは、野田佳彦前首相が、小沢一郎元代表を排除したがために、「復旧・復興」が遅々として進まなかったのと同じ構図である。

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