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政治、社会問題を考える上で観るべき最新映画、「レ・ミゼラブル(Les Miserables)」

12月16日の選挙を経て、新しい議員が沢山誕生した。

諸事情で選挙特番を観ることはできなかったが、当日は、テレビ東京の選挙特番が素晴らしかったようで、私もその後YouTubeでいくつかの動画を確認したが、司会の池上彰さんの政治家へのつっこみは、鋭いものがあった。

元々、私は池上彰さんの解説については、事情を単純化し過ぎて解説する傾向があるため、あまり好感をもっていなかったが、今回の司会ぶりを観ると、ジャーナリストとして追及する姿勢はかなり高いものがあるのを感じた。ぜひ、今後も彼が単なる解説に留まらず、積極的に、政治家を「育てる」追及をし、テレビ局がそういった場を提供してほしいと切に願うところである。

政治家を育てるといえば、今回の選挙で当選した議員全員が、政治を語る前に、ぜひ観て、権力を行使する立場に立ったことを自覚し、成長してほしい映画がある。

それは、12月21日公開の「レ・ミゼラブル(Les Miserables)」である。 



映画そのものはまだ観ていないのであるが、ブロードウェイとウエスト・エンドのミュージカルで、5回以上は観ており、そもそも、ミュージカル作品としての完成度が極めて高い(歌に始まり歌に終わるという終始一貫したザ・ミュージカルともいうべき作風や原作のストーリー性の高さなど)ことに十分知っているが、それに加え、ヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)さんとアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)さんという素晴らしい歌声を持つことで有名な俳優と女優が重要な役を演じたというだけで、この映画が「芸術性の高い観て成長できる映画」であることには確信に近い自信がある

なぜこの映画を政治家が観るべきなのかというと、それは、この映画が、「政治を志す者にとって極めて重要な価値は何であるのか」、「自らの行動は権力を持つ者として正しいことなのか」、「何が正義なのか」、「人間は何を求め、どう行動すべきなのか」という深い問いを与えてくれるためである。

私がこの作品と出会ったのは、私がアメリカに留学していた時である。私はアメリカで政治学を勉強していたが、このミュージカルを観て初めて、衝撃を受けると同時に、「エンターテイメントから学ぶ」という新しい感覚を感じたことが記憶に強く残っている。

多くの方は、「レ・ミゼラブル」というよりは、「ああ無情」としてこの作品を認識している人が多いだろう。フランスの作家、ビクトル・ヒューゴの代表作である。恥ずかしながら、ブロードウェイで観るまで、「ああ無情」がこれほども壮大かつ深い作品であることを私は知らなかった。

報道によれば、先の衆議院議員選挙に立候補した人の人数は、1504人であり、現憲法下で最多であったという。理由はどうあれ、政治に関わりたいと思った候補者が一番多かった選挙であることは間違いない。

しかしながら、果たしてこの中にどれほど「レ・ミゼラブル」が問う、「権力を持つ者として何が正しいことなのか」、「何が正義なのか」、「人間は何を求め、どう行動すべきなのか」という一見して単純であるが難しいテーマについて考え、意識していたであろうか。

おそらくそういった候補者はほとんどいなかったであろう。

クリスマス、年末年始の時期に公開されたこの映画はまさに政治家たちへのクリスマスプレゼントやお年玉である。

もちろん、この作品が投げかける「人間として何を求め、何を正義と考え、どう行動すべきか」という極めて深い問いは、政治を志す者でない我々一般人にとっても極めて根本的かつ重要なものである。

また、この作品の素晴らしいところは複数の主人公がおり、キャラクターそれぞれが直面する葛藤が深く描かれており、それぞれの葛藤はまさに人間として生きていれば当然直面しうるものなのである。

例えば、以下のような葛藤が見事に描かれている。

(1)パン一口分の窃盗行為で19年も投獄されたバルジャン(Valjean)に対する世間の冷たさとそれを憎みさらなる犯罪へ手を染めようとし、司教からの信頼を裏切ったことへの葛藤と懺悔

(2)法による犯罪者の厳格な処断こそが正義として疑わなかったジャベール(Javert)捜査官の葛藤

(3)幸せな生活という平凡な夢すら奪われたフォンティーヌ(Fantine)が抱える娘への自己犠牲の愛情と現実の過酷さとの間の葛藤

(4)友人の学生たちと新しい未来のために反乱に参加すべきか、突如芽生えた愛情を追及すべきか、さらには生き残ったことへのマリウス(Marius)の葛藤

(5)貧困の進む現実を目の当たりにし、社会の変革のため運動を形にしたいという強く若い学生たちとそのリーダーであるエンジョラス(Enjolras)の葛藤

(6)愛する人のため、自分は身を引いてでも相手の幸せを願おうとするエポニーヌ(Eponine)の葛藤

(7)不遇の幼少期とその後は自分が自己犠牲の愛情に支えられてきたことを知らなかったコゼット(Cosett)の葛藤

以上、簡単に思いつくもののみを書いたがこれ以外にも登場する様々なキャラクターのそれぞれが抱える感情と葛藤が見事に描かれているのが、「ああ無情」を原作としたミュージカル「レ・ミゼラブル(Les Miserables)」である。

そして、「正義とは何か」、「何を信じ、どう行動すべきなのか」という政治哲学の根本的な問いを観客に投げつけ、人間の儚さと強さを教えてくれる

とりわけ、先の選挙において、権力を行使する立場になった議員には、この映画を観てもらい、この作品が問いかけるこれらの哲学的な問いを常に意識し、自分は立法者、為政者としてどう答えを出していくのかぜひ真摯に考える機会を持ってもらいたい

映画の評価については、未だ映画を観ていないので、なんとも言えないが、私が注目しているのは、ヒュー・ジャックマンさんとアン・ハサウェイさんの歌声と演技はもちろんであるが、Eponine役を演じているサマンサ・バークス(Samantha Barks)さんとMarius役を演じているエディ・レッドメイン(Eddie Redmayn)さん、さらにEnjolras役を演じているアーロン・トヴェイト(Aaron Tveit)さんの歌声と演技力に注目している。

サマンサさんとアーロンさんは、元々ミュージカル出身の俳優・女優であり、その歌声が素晴らしいであろうことは想像できるが、その映画における演技力は見物である。特にサマンサさんは、2010年頃からイギリスでこのEponine役を演じており、25周年コンサートでも同じくEponine役を見事演じているいわば本場のミュージカル女優である。ミュージカルの舞台からスクリーンという違う空間で演じる彼女らの本格的な演技に注目である。

また、エディ・レッドメインさんも、元々舞台俳優であるが、彼は、iPhoneで自分のうたっている映像を撮ってエージェントを通じて、この映画に応募し、見事、この役を勝ち取ったということで、その歌声がどのようなものであるのかぜひ聞いてみたい。

さらに、アン・ハサウェイさんは、映画評論家のジェイク・ハミルトン(Jake Hamilton)氏とのインタビューで、一番演技が難しかった歌のパートを聞かれ、「Now life has killed the dream I dreamed.」だと答え、その理由として、「この部分は後戻りすることがない、いわば、死を示す状態にある、つまり、夢をずっともっていた人がすべてを失って、娼婦をしなければらなない状態になり、彼女の命をつなぎとめているのは娘への愛情のみである。そうした人は世界中にたくさんいるだろうがこの感情を演じるのがとても難しかった」といった趣旨の発言をしている。

そして、親日家としても知られるヒュー・ジャックマンさんは、1996年頃にオーストラリアでのディズニーのミュージカル、「美女と野獣(Beauty and Beast)」において、ガストン役を演じているが、この時のオーディションで、レ・ミゼラブルで、ジャベール捜査官役(Inspector Javert)が歌う、「Stars」を歌い、審査員に、「なぜこの曲を美女と野獣のオーディションに歌ったの。」と聞かれ、「通っていた俳優学校の歌のレッスンでこの歌を練習していたため」と答えたところ、審査員は「そんな歌はいいよ。どうせそんなミュージカルの役なんて一生やらないだろうから」と言われたというエピソードがあったらしいが、その指摘は間違いだったようだ。

ヒュージャックマンさんは、この映画の役をどうしても演じたかったらしく、トム・フーパー(Tom Hooper)監督の名前が挙がった時に、監督として契約する前だったにもかかわらず電話をかけて、この役への熱望を伝えたという。ヒュー・ジャックマンさん本人は「あれはストーカー行為だった」と欧米メディアに対して述べている

映画では、ブロードウェイとイギリスのウェストエンドで、オリジナルキャストを務めたコルム・ウィルキンソン(Colm Wilkinson)さんがバルジャンのその後の人生に大きな影響を与える司教役で登場していることも、元々ミュージカルファンだった者にとっては感慨深い。

映画そのものの評価も高いようで、アメリカでは、25日のクリスマス公開から約1800万ドルの興行収入を得ており、この成績は現在公開されている映画の中で第1位とのことで、さらに私の中の期待も増している。

この映画に関する映画評論家Jake Hamilton氏の素晴らしいインタビュー映像(残念ながら英語のみ)があるので、興味のある方はぜひ映画を観に行く前に観るといいだろう。

経済の問題、原発の問題、震災からの復興、他国からの領域侵害、さらには憲法改正の声が出ているなど日本が今直面する問題は多々あるが、フランス革命を舞台としたこの作品は、それらの問題に対する解決策を考える上で、一番重要な上記問いを投げかけてくれる

私も、この年末にこの映画を観て(できれば複数回観たいが)、アメリカ留学時代に受けた衝撃を思い出し、エンターテイメントから、上記問いについて学び、考えてみたい。

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