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リビア情勢と石油資源争奪等の現実 - 見えない日本の姿 / 益田哲夫

 カダフィ政権の崩壊後、国際石油資本によるリビアの石油資源争奪戦が激しさを増している。国民評議会(TNC)は、カダフィ政権時代の契約がそのまま有効である、との認識を明らかにしているが、果たしてこのことば通りになるかどうかは保証の限りではない。

 今後もしリビアの新政権が各勢力の協力を基盤に、一致団結した政策を打ち出すことができれば、競合する外国資本は三つの条件に従ってそれぞれの役割を与えられるだろう。ひとつは反政府勢力に対する各国政府の支援の度合いである。TNCの幹部によれば、反政府勢力を積極的に支援してきた諸国、すなわち英国、フランス、カタールは再建プロジェクトの受注で有利になるだろうし、そうでなかったロシア、中国、ブラジルなどは苦戦を強いられるだろうとしている。またリビアの石油を生産、輸出、精製などの面で最も短期間で再生できる企業も優遇されるだろう。三番目に重要な条件は、各プロジェクトに必要な資金の手当てと投資ができるかどうかである。

 もしこれらの条件を満たすことができるかどうかが競争での決め手となるのであれば、恐らく最も有利な位置にいるのはフランスのタトル社ではないだろうか。同社は内戦の初期から反政府軍に肩入れしてきたし、TNCをカダフィ政権後の後継政権として初めて認めたのはフランス政府だった。
 
また同社は、内戦前からリビアで様々な石油開発プロジェクトに参加していたため、プロジェクトの再開にも最有力と目されている。タトル社に続くのは英国のブリティッシュ・ペトロリアム(BP)だろう。英国軍はフランス軍に次いでNATO軍での働きが目覚ましかったし、BPもまた内戦勃発よりかなり以前から同国での石油開発プロジェクトに参加していた。イタリアは反政府勢力に対する軍事的支援という点では特筆すべき点はあまりなかったが、同国の国営石油会社エニは内戦前から最大のリビア産原油の生産会社だった。ただ、フランスと英国はかなり早い段階から反政府勢力を情報収集や外交で支援してきており、反政府勢力指導部との人的つながりという点では、イタリアや他の諸国の比ではない。

 もっとも華々しく利権獲得競争を展開しているのはイタリアとフランスだ。特にイタリアのエニは、反政府勢力と軍事面でも近い関係を持つフランスのトタル社がその有利性を利用して、新政権から特別扱いを狙っているとして、対抗策としてロビー活動を積極的に展開している。その効果があったのか、同社がTNC と外国企業としては初めての契約締結に成功している。8月29日に明らかになった同契約によるとエニとTNCは、エニのリビアでの企業活動の全面的再開に最大の努力を払うと同時に、リビアとイタリアを結ぶ重要な天然ガスの輸送手段であるグリーンストリーム・ガスパイプラインの早期の再開を目指すとしている。

 一方米国はNATO軍の一部として軍事的に大きな貢献をしてきたし、カタールも反政府勢力に武器、ユニフォーム、4億ドルに上る資金の提供、さらにアルジャズイーラで反政府勢力側に有利な情報を流させるなど幅広く支援したことはよく知られている。こうした支援の見返りとしてカタールが、リビアの天然ガス開発プロジェクトへの参加を狙っているのは明らかである。

 しかし何度も繰り返すように、反政府勢力指導部内ではかなり意見が割れている。結束を示す、組織だったリーダーシップがまだ見られないし、最終的決定権についてもその所在は明らかではない。アブドル・ジャリル氏の名前がTNC議長とされているが、実際どれだけの政治的影響力を持ち、様々な部族勢力をどこまで把握できているのか、定かではない。従って先に述べた開発プロジェクトを巡る西側政府や企業のせめぎあいが、どこまで具体的な成果に結び付くかは、今後の推移を見てみないとわからないというのが実情なのだ。従ってアブドル・ジャリルとジェブリルの両氏は確かにフランス政府とは緊密な関係にあるものの、それがフランスの企業が石油・ガスプロジェクトで有利な位置を占める直接の保障にはならないということになる。

 中国はNATO軍の介入は支持しなかった。しかし中国は内戦が始まる前からリビアには積極的に投資をしてきており、すでに75社の中国企業が進出し、投資額も石油開発関連のインフラ建設、鉄道建設、通信施設プロジェクトなどを中心に数十億ドルに達している。またリビア国内の50余のプロジェクトで3万 6000人もの中国人労働者が働いているという。外国の介入には基本的には反対という同国独自の外交方針にも関わらず、こうした経済面での実績は今後、リビアでの経済活動に有利となるだろう。さらに中国はプロジェクトに要する資金の準備では欧州各国を上回るものがあり、また復興プロジェクトにも積極的なことも有利に作用しそうだ。

 さらに中国はフランス、英国、イタリアなどと違い、北アフリカを植民地にしたことがないことも評価されそうだ。ちなみにイタリアは1911年から 1943年までリビアを植民地としていたし、英国もトリポリタニアやキレナイカといった歴史的に重要な地域を統治したことがあり、フランスも同じような歴史的に重要な都市フェザーンを1943年からリビアが独立する1952年まで支配していた。リビア以外にもフランスはチュニジア、アルジェリア、モロッコを、また英国はエジプトを植民地としていた。いずれにせよ、新生リビアの指導者たちは、新植民地主義国に国を売ったなどといった非難だけは受けないよう、細心の注意を払うはずだ。

 ロシアは3月、リビアでの軍事介入を決める国連安保理の1973号決議案の採決に棄権した。同決議案に賛成の意を表明したのは、8月にメドベージェフ大統領が特別大統領令に署名したからだった。その間ロシアは模様眺めを決め込んでいたわけだが、もしTNCがそのまま新政権を担うことになれば、このことはロシア企業にとって国際競争上、負い目となるかもしれない。ロシアは安保理決議案を拒否したわけではなく、NATO軍のカダフィ軍攻撃はいずれにせよ実行されたにもかかわらずだ。ガスプロム、ガスプロム・ネフチ、タトネフチなどロシアを代表する大企業はいずれも今後のシリアでの投資競争では苦戦を強いられるだろう。

 仮に新政府が期待されたほどの政治力を発揮できない事態になった場合は、新政府による辺境地域を対象とした開発ライセンスはなんの意味も持たなくなる可能性は十分考えられる。辺境の部族長が中央政府の与えた開発ライセンスを無視したり、イラクで新政権に反対するフセイン大統領時代の与党、バース党員が石油生産施設や石油パイプラインを破壊したりした前例があるからだ。従ってそうした場面に直面した国際資本は、仮に政府のライセンスを得ていたとしても、権益を守るため改めて現地の部族長などと交渉する必要が出てこよう。

 このように世界の主要国が、リビアで熾烈な石油資源獲得争いを開始している中で、日本の動きが見られない。何故であろうか。外交関係も途絶えているのであろうか。首相交代が繰り返されてきた我が国は、国際社会の舞台からも遠い存在に成り下がっているのではないか。まさに危機的な「外交の空洞化」を突かれていることを認識すべきであろう。

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