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漂う「下剋上」の予感。

ここ数年、男子でいえば高橋大輔、小塚崇彦、織田信成、女子でいえば、浅田真央、鈴木明子、といった国際経験豊富な選手たちが安定した成績を残してきた全日本フィギュア。

毎年、ジュニア世代から光を放つ選手が出てきてはいるが、ショートが良くてもフリーの最終グループのプレッシャーに打ち負かされたり、一応入賞レベルの結果まで残しても、翌年の大会では「あれれ・・・」という結果になってしまったりして、最終的には表彰台を同じメンバーで分け合う、という結果になることが多かった。

だが、1971‐1972シーズン以来、久々に北海道・真駒内の地に戻ってきた今年の全日本で、バンクーバー五輪前後から保たれてきた“秩序”がとうとう崩壊しつつある。

プレ五輪シーズンの結果は、必ずしも五輪シーズンに直結しないとはいえ、至るところに垣間見える「世代交代」の萌芽は、来シーズンでの「下剋上」の空気を強く醸し出していた、と言えるだろう。

男子シングル

男子に関しては、グランプリシリーズから好調だった羽生結弦選手が結果を出すことは、ある程度想定内の話だった。

今大会でも、ショートプログラムでいきなり示した存在感は圧倒的なもの。

得点がインフレ気味になりがちな国内大会とはいえ、ジャンプは4回転ジャンプを含めすべて加点付き。スピンも1つを除いてレベル4。

技術要素点53.78点は断トツだし、演技構成点も高橋大輔選手と遜色ない43.90点、となれば、他の選手では到底太刀打ちできない。

フリーでは、羽生選手の滑りに硬さが見えた一方で、先に滑った高橋大輔選手が意地を見せ、2種類の4回転ジャンプを完璧に決めた(ように見えた)上に、得点が増える中盤~終盤にかけても、3回転-2回転‐2回転、3回転‐3回転といった大技を次々と決めて、会場を熱狂の渦に巻き込んでいたから(そしてスコアは192.36点という爆発的な得点)、もしかしたら、貫録の逆転優勝、というストーリーもあるのかなぁ・・・と思ったのであるが、終わってみれば、羽生選手の逃げきりを許す結果に。

高橋選手の2つ目の4回転ジャンプ(4回転‐2回転トゥループのコンビネーション)が回転不足で、基礎点が大きく引き下げられてしまったこともあるが、4回転以外のジャンプで元々持っている大技のレベルが、

高橋選手 

3回転アクセル+2回転トゥループ+2回転ループ 12.21点(1.1倍)

羽生選手

3回転アクセル+3回転トゥループ 13.86点(1.1倍)

と、元々羽生選手の方が一回り高く、その上、加点もコンスタントに2点くらい付く・・・とくれば、技術要素点で羽生選手を上回るのはかなり難しい*1。しかも、演技構成点でも滑らかなスケーティングで90点近いスコアを叩きだし、高橋選手以外の追随を許さないポジションをキープ。

「勢い」で世界フィギュア代表の一角に食い込んだ感があった昨シーズンとは異なり、「完璧な演技」でなくても日本のトップに立てることを示した今年の結果は、「世代交代の完了」を世界に告げるには、十分だったといえるだろう。

後は、来年の世界選手権で、名実ともに“日本のエース”であることを示すだけ、である。

一方、3位以下は思わぬ波乱の展開となった。

エリック・ボンバール杯優勝の勢いそのままに、SP4位から一気に3位に食い込んだのが91年生まれの無良崇人選手なら、GPシーズン後半の不調をそのまま引きずる形でフリー7位、総合5位の大惨敗を喫することになってしまったのが、89年生まれの小塚崇彦選手。

87年生まれ、もはやベテランの域に達した織田信成選手がフリーで4回転トゥーループを完ぺきに決めて3位に食い込む(総合4位)、というちょっとしたサプライズを演出したこともあり、1年後の“本番”まで予断を許さない展開になりつつある。

この3選手のスコアを比べてみると、

無良選手

 SP 84.48点 技術要素45.58点 演技構成38.90点

 FS 158.22点 技術要素74.72点 演技構成83.50点

織田選手

 SP 80.75点 技術要素42.20点 演技構成39.55点

 FS 159.81点 技術要素77.31点 演技構成83.50点

小塚選手

 SP 84.58点 技術要素43.03点 演技構成41.55点

 FS 143.98点 技術要素61.58点 演技構成84.40点

と、演技構成点でこそ、小塚選手が一歩抜けているものの、エレメンツに関しては、「4回転ジャンプの出来不出来」に左右されるところも多く、何度か試合をやれば、おそらくそのたびに順位が入れ替わることになる可能性も高い。

ショートプログラムで4回転-3回転トゥループ(基礎点14.40点)という大技を炸裂させた無良選手が、技術面では一番世界に通用する可能性を感じさせるが、おそらく初めて参加することになる来年の世界選手権という大舞台で、どこまで平常心を保てるか、という点はまだ未知数。

一方、小塚選手は、シーズン後半、ほとんど決まらなかった4回転ジャンプを何とかしないことには、せっかくのスケーティングの才能も生かされない。

小塚選手のように、ついこの前まで、「ホープ」とか、「最若手」だと思われていた選手が、今や後続世代の追撃を受ける立場になってしまっている、というあたりに、時の流れの早さと「五輪に出る」ことの難しさ*2を感じざるを得ないのだが、高橋、羽生のいずれかが故障でもしない限り、「1人しか枠に残れない」というのがこのポジションに立たされている選手たちの宿命だけに、世界選手権に出る人も、出ない人も、年明けから秋までの期間が大事なのだろうなぁ・・・と思うところである*3

女子シングル

さて、ショートプログラムを終わった段階で、宮原知子選手が3位に食い込んでいるのが女子シングル。

いつになくSPでのミスが少なかった鈴木明子選手が首位に立ち、浅田真央選手が2位、という並びだけを見れば、まだまだ「世代交代」とは無縁にも思えるが、スコアをよく分析してみると、

SP 技術要素点

宮原知子 34.63点

本郷理華 33.41点

加藤利緒菜 33.20点

鈴木明子 32.77点

西野友毬 31.97点

新田谷凛 31.97点

浅田真央 29.77点

 ・・・

村上佳菜子 27.70点

と技術要素点で上位を独占しているのは、3回転-3回転ジャンプを難なく飛びこなすジュニア勢。

ループジャンプがすっぽ抜けて1回転になった浅田選手はともかく、鈴木明子選手などは素人目にはほぼ完ぺきに決まった演技に見えたのに、ジュニア勢3人に前に行かれてしまう・・・というのは、何とも、という気がする。

もちろん、鈴木、浅田両選手は、演技構成点でジュニアの選手たちに10点近い差をつけているわけで、その差が一朝一夕に追いつけるようなものだとは思えないのも確かだが、GPファイナルで浅田選手の演技を見たときに感じた、「このまま世界で今のポジションを守れるのかなぁ」という不安は、既に国内にも及んでいるような、そんな気にすらさせられた。

願わくば、フリーで日本を支えてきた二枚看板+村上選手あたりに、不安を払拭できるような技術&演技両面での完璧なプログラムを見せてもらえれば、この先の期待も膨らむのだけれど・・・。

いずれにせよ、例年以上に嫌な胸騒ぎでざわざわする・・・今年の全日本フィギュアはそんな大会である。


<24日追記>

女子フリーの結果は、衝撃的なものとなってしまった。

鈴木明子選手の出来は確かに、今シーズンで一番悪かったし、最初の大技3連続コンビネーションの基礎点が僅か3.60点にとどまってしまっては挽回しようがないのだけど、ショートプログラム1位から、一気に表彰台圏外に転落するとは・・・。

フリーの各選手のエレメンツのスコアはざっと以下のとおり。

宮原知子 64.60点

村上佳菜子 64.57点

本郷理華 64.54点

加藤利緒菜 62.58点

浅田真央 62.51点

松田悠良 60.53点

大庭雅 57.54点

鈴木明子 53.14点

タンゴのリズムに乗って大爆発した村上選手が「シニア」の意地を辛うじて示したものの、ジャンプの細かいミスが目立った*4浅田選手は、ジュニア3選手の後塵を拝する結果に・・・。

採点方式が若干変わった(?)影響もあるのかもしれないが、昨年は宮原選手1人だった60点越えの選手*5が今年は6名(うち、ジュニアのカテゴリーの選手が4名)もいる*6

ジュニアの選手たちは、ジャンプだけでなく、スピンも正確に美しく決めてくるし、ステップやつなぎのスケーティングも、一昔前に比べると格段にレベルが上がっているわけで、このままの勢いで成長を続けたならば、来シーズンの選考争いは一体どうなるのだろう・・・と驚愕せずにはいられない。

もちろん、技術だけでフィギュアの順位が決まるわけではなく、海外に出れば(かつての日本選手たちがそうだったように)演技構成点で若い選手たちは大きく割り引かれることになるだろうけど、技術要素の採点は、ある程度客観化されているものでもあるだけに、1年後の全日本フィギュアは、「選ぶ側」の人々にとっては悩ましいことになるのではないかなぁ・・・という予感に、今から襲われている。

*1:現に今回も、高橋選手はあれだけの演技をしたにもかかわらず、97.36点、と羽生選手の97.85点を上回ることはできなかった。
*2:おそらくバンクーバーの時は、誰もが、「次の五輪は小塚選手に期待しよう」と思ったはず。それなのに・・・。
*3:今、どんなに実績を残していても、シーズンの出だしの新しいプログラムで波に乗れなければ、一気に「日本代表」の枠から遠ざかる、というのが現実だけに(前回大会の村主選手、中野選手しかり)、本当の下剋上はそこから始まるのだけれど・・・。
*4:ルッツのエラーエッジ、フリップの3回転→2回転など、3つのジャンプで減点を食らっている。
*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111225/1324833575参照。
*6:去年、フリーがボロボロだった村上選手(技術点が40点台)ですら、表彰台に残ったことを考えると、去年までのレベルだったら、鈴木選手もここまで順位を大きく下げることはなかっただろう。

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