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紅白からK-POPが消えた

 今年の紅白歌合戦の出演者の中に韓国アーティストの名前はなかった。昨年出場した東方神起、少女時代、KARAは3組とも落選である。NHKによると、世論の支持、今年の活躍ぶり、演出・企画の3点で総合的に判断した結果、韓国アーティストは皆、それぞれの数値が昨年より下がったことが落選理由であって、今夏大騒ぎとなった竹島問題は選考には影響しなかったらしい。

 NHKが特定アーティストの紅白落選理由をいちいち説明するようになったのはいつ頃からだろう。かつては紅白の出演者選定に世間で疑義が生じることは少なかったように思うが、ここ20年くらいは選出基準が多様化・複雑化する中で、毎年「なぜあの人が選ばれるのか(or 選ばれないのか)」といった声が上がることが多くなり、NHK側も選出理由を公表しなければならなくなったということだろうか。別に公表する必要などないと思うのだが、紅白がかつてのような国民的番組ではなくなりつつあることを他ならぬNHKが熟知しているが故に、話題作りをして、紅白への興味を喚起しようとしているようにも見受けられなくもない。

 閑話休題。紅白からK-POPが消えたことに対し、韓国メディアは案の定反発している。確かに昨年出場したK-POP3組は今年もそこそこ売れている一方で、彼らよりもCDセールスやライブの動員が少ない日本人アーティストが選ばれている。しかし、先述のとおり、NHKがCDセールスやライブ動員だけで紅白出場者を決めていないことは日本では周知の事実で、韓国3大紙がK-POP勢落選に異議を唱えても、それは彼らが昨今の紅白の出演者選定を理解していないだけだ。

 韓国側からすれば、NHKに裏切られたという思いがあるのかもしれない。NHKは、韓国メディアから朝日新聞と並んで「日本の良心的メディア」と持ち上げられることが多いし、実際に韓国コンテンツの日本での普及にこれまで随分と力を入れてきた。『冬のソナタ』を放送し、韓国ドラマを広めたのも、K-POPをいち早くニュースや時事番組で取り上げたのもNHKで、民放はその後追いをしたに過ぎない。また、今年8月に竹島問題を巡って日韓関係が悪化する中、民放は早々と韓国ドラマの放送を見直すなどと言い出したが、NHKは特に動じる様子も見られず、それまで通り週数本の韓国ドラマを放送している。

 NHKが公共性を重視して、必ずしも視聴者数は多くないようなものも含めて多様な番組を放送していることは事実だと思う。しかし一方で紅白歌合戦は別格で、他の多くの番組のように特定層の視聴者のためだけに放送しているわけではなく、極論を言えば、日本にいる最大公約数的な視聴者を想定して作っているようなところがある。そして、そのように多様な人が見る番組であるがゆえに、賛否が分かれるものや反対派が多いものを取り上げることには昔から慎重なところがあったように思う。例えば、若い人には圧倒的に支持されるが大人は眉を顰めるような、不良の匂いがするアーティストの出演に紅白は積極的ではなかった。あくまで老若男女みんなで穏やかに見られることが前提になっているのである。

 今年、紅白からK-POPが消えたのは、恐らく本当のところではNHKが日本の世論に配慮した結果だと思う。では、具体的にNHKは日本のどういう世論に配慮したのだろう。竹島をめぐる韓国の言動に端を発する日本人の反韓感情もその1つだろうが、それだけではなくて、「韓流を見たくない」という反韓流感情に応えたのではないかと思う。もちろん今でも韓流には根強い視聴者は一定数いるし、それゆえにNHKも普段は放送している。しかし、紅白となると、韓流を観たくない層にも配慮しなければならないということか。

 韓国コンテンツの日本(厳密には他のアジア諸国も同様だが)での受容を見ていると非常に特徴的なのは、熱狂的な支持者がいる一方で、反発を感じる人が多く存在する点である。ここまで賛否両論が交錯し、好き嫌いが分極化するコンテンツ群は他にあまり類を見ないだろう。ただ、今年の夏まで日本では「韓流が韓国に対して偏見を持っていた日本人の心を開いてくれた」、「韓流は日韓文化交流の象徴」、「韓流がアジアを1つする」といった美談仕立ての言説が溢れる中、韓流を否定する声は差別的で偏狭だと言われ、かき消されていた。

 ところが竹島問題が表面化して以降、対韓感情が悪化する中で、日本の韓流に対する空気が変わってきた。ネットに溢れる韓流を否定する種々の話が、それまで「別に韓流は好きでもないし嫌いでもない」と思っていた層にも伝播した。中でも大きかったのは、韓流アーティストは金儲けのために日本に来て、ファンの前ではいい顔をするが、韓国に帰れば反日を口にするといった類の話だ。少女時代が『独島(竹島)は我が領土』という歌を歌っていた話などはその典型のように捉えられていて、普段は政治や外交に関心がなさそうな大学生の間でもよく知られている。

 このような中で韓流を擁護するため、「政治と大衆文化は別」という声を耳にすることがある。大衆の目線に立って文化を尊重する、良い言葉である。しかしそれを打ち消すかのように、韓流を否定する理由として、「韓流は政治的である」という声も多く聞かれる。よく知られるように、韓国は国家戦略として海外における韓国ブランドの確立・強化や韓国ファンの涵養をめざし、自国のドラマや音楽の海外展開を後押ししてきた。いわば韓流は政治的産物である。しかも、ほぼ全面的に商業ベースで流通するため、大衆文化と言いつつも、韓国国家主導で輸出される製品という性格が強い。

 また、韓国は日本に対しては政治と大衆文化を分けて考え、日韓関係が悪化しても韓流を受け入れることを強いる一方で、自分たちは政治的判断に沿って日本の大衆文化を長年にわたり規制してきた経緯があるし、今でもテレビ番組は実質的に放映禁止だ。つまり、韓流を巡る政冷文化熱(そんな言葉がないか…)は、韓流を支持する人のご都合主義的であり、そのことにうんざりしている日本人は多いのではないだろうか。NHKは紅白歌合戦からK-POPを外すにあたって、このような空気を重視したのだと思う(もちろん、韓流は政治的だけどそれでも好きという人は、それでいいと思う。個人の自由だし)。

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