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地盤=組織、看板=知名度、カバン=資金のない選挙の戦い方 日本政策学校シンポジウムレポート

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シンポジウムの様子(左から 飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長、吉田雄人横須賀市長、金野索一日本政策学校代表理事。樋渡啓祐武雄市長はオンライン参加)
シンポジウムの様子(左から 飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長、吉田雄人横須賀市長、金野索一日本政策学校代表理事。樋渡啓祐武雄市長はオンライン参加) 写真一覧

日本政策学校主催のシンポジウム「政治を可視化・双方化する」の第3弾「三バンのない選挙の戦い方」レポート。公職選挙において当選するために必要と言われる3つの要素「三バン」(地盤=組織、看板=知名度、カバン=資金)。しかしこれは長い間地元に根付いて初めて手に入るもの。では、この3つがないところから始める場合、どのように戦えば良いのだろうか?正に三バンがない政治活動により選挙にのぞんだ飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長、吉田雄人横須賀市長、樋渡啓祐武雄市長が、体験を元に持論を展開。これから政界を目指す受講生が熱心に耳を傾けていた。(取材・撮影:濱田敦子)

まずは愚直に思いを有権者に伝える


金野索一日本政策学校代表理事(以下、金野):今日は「三バンのない選挙の戦い方」をテーマに、政策と言うより実践的にいかに選挙で勝つかを議論したいと思います。今日お迎えした3人は、まさに三バンのない政治活動を体現されてきた方々です。武雄市長の樋渡さんはオンラインでのご参加になります。まずは今日のテーマについて自己紹介を兼ねてお話しください。

飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長(以下、飯田):今年7月の山口県知事選に出馬しました飯田です。私は落選したのでどこまで参考になるかわかりませんが、まさに地盤・看板・カバンのない戦いでしたね。メディアに出ていたので多少は知名度があると思っていたのですが、私のような堅いニュースの人はダメで、事前の調査によると10%程度の知名度からスタートしました。さらに、保守でガチガチな山口で、出馬を決めたのが告示の3週間前という極めて短期間の戦いということもあり、結果は現知事が25万票で当選、私が18万票で落選となりました。しかし、残りの候補も現職の国会議員と県職員という強敵だったにも関わらず、事実上の一騎打ちまで持ち込むことができたので、戦いそのものは非常に良いものだったと思っています。

山口は圧倒的に自民党が強い所で他党の看板を背負うとまず間違いなく負けるため、完全無党派で戦いました。脱原発は非常に大きな争点になりましたが、それだけでは層が薄いため、そこは地方の強みは“地縁血縁”だろうと、私の出身高校の同窓メンバーがフルに動く状況を作ってもらいました。また、第一声は県庁所在地や大都市ではなく、私が生まれ育った中須という総人口300人くらいの村で行ったのですが、これが物語の始まりとなってどこに行っても「中須の出身です」とか、「私の親族が中須の出身です」と、声をかけて頂けたのは良かったです。さらに山口の政治構造の中でネットワークのハブのような役割をしている方と関わりを持ち、お話する中で社会不満を持つ方に支援が広がっていきました。地縁血縁の物語から始まり、今の社会に不満を持つ層に支持を広げていく構図を上手に描けたことが、短期間ながら票を取れたことにつながったと思います。

金野:続いての樋渡市長は、女性と子どもを中心に選挙を行い、30代で現職の市長を破って当選されたとうかがいました。

樋渡啓祐武雄市長(以下、樋渡):最初に国政と県政レベルの話は、分けて考えたほうがいいと言っておきます。僕らの所は人口5万1千人で、投票率が80%を超えるような場所です。そうなると地盤看板より、女性と高齢者票をどれだけ取れるかがポイント。とにかく戸別訪問を繰り返すうちに徐々に風が吹き、最終的にはダブルスコアで圧倒できました。どこをターゲットに絞るかと、対立軸を明らかにして戦うことがポイントだと思いますね。

金野:吉田市長も小泉さんが応援されている現職市長を破り、30代での当選でしたが。

吉田勇人横須賀市長(以下、吉田):私は大学院時代の同期に市議会議員をやっている人がいて、背中を押される形で9年前に市議会議員に立候補しました。立候補したときは、当然、地盤も看板もカバンもない状態。そもそも、横須賀市に家を借りるところから選挙活動が始まりました。でも横須賀の高校に通っていたことから次第に仲間ができ、運にも恵まれてなんとか当選できたのだと思っています。

市長選挙に立候補したのは2期目の途中でしたが、33歳という若さと、自民も公明も、民主党さえも現職を応援。さらには当時の小泉総理も相手につくという状況で、絶対勝てないと言われました。これも当選できたのは、正に時の運です。私は「どうやったら選挙に受かるか」ではなく、「どうしたら必要とされる候補者になれるか」を常に考えています。そのために、有権者の先にある時代を見極め、地域社会を背負って、その中で必要とされる人間になるかがカギです。でも、「自分がやりたいこと」と、「必要とされること」の間には常にギャップがあります。そのギャップを埋める作業は候補者が落とし込まなければならないので、その作業から始めるべきだと思います。

金野:地域社会に必要とされる候補者になるという話ですが、吉田市長は具体的に何をされましたか?

吉田:市議会議員に出馬しようと思った時は、「横須賀の街を1番愛しているのは自分」という気持ちや、「選挙に行きたいと思ってもらえるような政治をやるぞ!」という、中身があったかは別として勢いで立候補しました。だから、それを真剣に愚直に有権者に伝えることから始め、結果としてそれが受け入れられて当選できたのだろうと。それとタイミングですね。当時は、市長選挙の時は官僚出身の市長が36年間も務めていて、その方が市長をやめるごとに借金によって大きな箱物が出来上がり、それが次の世代に繋がっていくという構図に市民が飽き飽きしていた。政党や国政のビックネームが地域や街づくりをするのではなく、市民の1人1人がやらねばとみんなが気付き始めていたタイミングだったのだと思います。

金野:吉田市長の今のお話は、国政、地方自治どちらにも通用するお話ですね。

樋渡:僕が仕掛けたのも吉田市長と基本的に同じです。僕の場合は、情熱が伝わるようにお茶の間で面白く読めるようなチラシを作りました。硬い政策の話より手書きのイラストを入れたりして、家族で話ができるように工夫した。あとは、ミニ集会をとにかく数やろうということで参加者が2人いれば開催というようなことを続け、それがだんだん蓄積されて広がりました。それから2年前の選挙ではfacebookもtwitterもなかったので、チラシの他にブログを活用しました。今だったらSNSも連動させてやると思いますが、田舎の選挙は紙が基本というのは実感としてあります。

金野:飯田さんは山口に必要な人材になるために、どんな事をされましたか?

飯田:7月1日から再生可能エネルギーの固定買い取り制度が開始されたのですが、その法案のたたき台は私が13年前に作って国会に持っていたものでした。だから、「その法案の全てが分かります」と売りにしました。それと、エネルギー維新を掲げたんですね。例えば「山口県なら1世帯あたり1年間の光熱費平均が15万円。それを60万世帯で掛け算すると、山口全体で1千億の光熱費となりますが、そのお金は全て外に流れていきますよ」と。「しかし、エネルギーは山口県内での自給が十分可能で、そうなれば1千億円というお金は県内でまわる。これは山口県内の一次産業の総売上に匹敵する金額で、より付加価値の高い仕事ができるようになりますよ」と。こういう話は相手の「山陰道を6千億で作ります」という政策と一番対照的でわかりやすい対立軸となり、市民にスッと入って行ったようです。

地域雇用は自分たちで形にして生み出していくもので、上から降ってくる原発や公共事業ではないということを伝えたくて、伝えてそこに対立軸を作るところまでは成功したんです。しかし、保守層までは時間が足りずに伝わらず、そこは地道にがんばるしかないと思いました。

選挙は同情を誘った者勝ち?

金野:「三バンがない」がテーマですが、逆に「これはあるぞ」という強みはなんでしょうか?

吉田:仲間に恵まれたこと、運が良かったこと、人の話を聞く耳を持っていたことですね。最初の市会議員選挙では180日間駅立ちをほぼ毎朝やったのですが、そのほとんどを友だちが支えてくれた。そういう仲間がいてくれたのはすごくありがたかったし、同じスタイルで選挙をやっていた人があまりいなくて際立てたという意味では、運にも恵まれました。それから、横須賀が大好きと言いつつも、最初は消防団と消防局の違いもわからないほど、横須賀をあまり知らなかったんです。しかし、人の話を聞くのが得意なので、いろんな人の話を聞く中で学びながら、それを議員活動や市長としての行政運営に反映することができました。

樋渡:僕の場合は、現職って、地盤・看板・カバン全部持っているから、それを持っている奴は悪者だともっていきました。

会場:(笑)。

樋渡:僕は吉田さんほど性格が良くないので、いかに同情してもらうかを考えた。選挙は憐れみなんです。「私が入れないと、この人はどうにも立ちいかない」ともっていくために、徹底的に相手を悪者にしました。出馬した時僕は36、相手は68だったので、ご年配の人には悪いんだけど「これからは若い人たちがやります」とした。それから、今でも中が悪いんですが、なんとか協会だのなんだのの組織が向こうについたら、既得権益についている人たちは私たちの邪魔ですと主張したり。非常に保守層の強い地域なので、このやり方には相当批判もありましたが、その時に学んだのは「批判を抑える」より、いかに成層圏を突き抜けた形で炎上させるかが重要だということ。このおかげで結果的に知名度があがり、最終的には「こいつに託せばなんとかなるぞ」という風にもっていくことができました。そして、最後は泣いてお願いです(笑)。

金野:樋渡市長ならではの実行力ですね(笑)。飯田さんの強みも際立っていると思うんですけど、そのへんはいかがですか。

飯田:エネルギーに関して言うと、全く今新しい第4の革命と呼ばれる変革が起きています。選挙が終わってからの3カ月間は山口県民参加型の事業を計画し、全部実現すれば10億円程動きそうなところまで形にできました。でも、問題はエネルギー分野に関してはできる確信があるけれど、どこの地方も直面している少子高齢化や中山間地の衰退化問題をどう再生するか。これには、大きなビジョンが必要ですが、私は山口の造り酒屋を回るところから始めています。NYやパリで人気の「獺祭(だっさい)」を始め、「東洋美人」など、山口の地酒がどんどん美味しくなっているので、山口を日本のブルゴーニュにしようと。酒は地域の文化の中心となっていて、それが食や農や発酵文化につながり、付加価値を高めていくものなんですね。こういうビジョンが選挙中には間に合わなかったんですが、これから形に落としていこうとしているところです。

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