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自殺は「身勝手な死」ではなく社会の問題~自殺対策支援センターライフリンク副代表・根岸親氏インタビュー~

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撮影:濱田敦子
自殺対策支援センターライフリンクの副代表を務める根岸親氏(撮影:濱田敦子) 写真一覧
BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。

ここ数年、日本の年間自殺者数は3万人を上回った状態で高止まりしています。「3万人」という数字の重さと、取り組むべき施策について、自殺対策に取り組むNPO法人ライフリンクの副代表である根岸親氏に聞きました。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

1日80~90人ぐらいが絶え間なく亡くなりつづけている


―まず「自殺者3万人」という数字は、どれぐらいのスケールなのか教えてください。

根岸親氏(以下、根岸):「3万人」という数字そのものは、報道でかなり知られるようになってきていると思いますが、その数字が大きすぎてイメージしづらくなっている部分もあるのではないでしょうか。我々が地方自治体の研修などでよくお話しするのは、3万人というのは東京マラソンのランナーの数と同じぐらいだということです。スタート地点近くの新宿の靖国通りが人で埋めつくされ、すべてのランナーが走り過ぎるまで、その状態が20分ぐらい続く。それでやっと3万人です。

年間3万人というと1日80~90人。毎日平均80人ぐらいの人が自殺で絶え間なく亡くなりつづけている。それが、この14年間続いており、40万人以上の方が自殺している。

交通事故死者数の6倍。東京都だけでみると、交通事故死者数の実に12倍の人数が自殺で亡くなっている。交通事故の場合、春や秋に行う交通安全キャンペーンや、幼稚園、小学校で行う交通安全教育、危険な交差点に歩道橋をかけるなどの様々な施策を通じて、一時期1万人を越えていた事故死者数を4,000人代にまで減少させていますが、自殺者数は14年前から3万人で高止まりしている状態です。

自殺率(10万人当たりの自殺者数)で見るとアメリカの2倍。イギリスやイタリアとの比較では、少し前まで3倍でしたが、現在では4倍に近い。イギリスの場合、国として積極的に対策に取り組んで、元々日本より高くなかった自殺率をさらに下げています。

―自殺問題を考える時には、ご遺族の問題もあると思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

根岸:私たちが、『自殺実態白書2008年』を作った際に、研究者の方々と平均寿命や家族構成などの統計的なデータを基に推計したところでは、親、子ども、配偶者、兄弟姉妹に限っただけでも、日本で自死遺族は300万人ほどいると推計されました。単純に割ると国民の40人に1人ぐらいの割合です。

私自身も父親を自殺でなくしている遺族の1人です。300万人と言うと、「そんなにたくさんいるのか!」と驚く方が多いのですが、私自身がそうであったように、家族が自殺で亡くなっているということは、なかなか周囲には言えません。私が講演などでお話させていただくと、「いや、私の家族も…」とお話いただくことがあります。

象徴的なのは、そうした話をする際に、ほとんどの方は「実は…」という言葉が最初につくということです。「実は私の家族も…」「実は私の親戚も…」という言葉で話しているという事実が、自殺が周囲に語りづらい問題であることを象徴していると思います。そして、言えないがゆえに、問題があたかも存在しないかのように、放置されていたという面もあるのではないでしょうか。

―諸外国に比べて自殺率が高いことや、自殺者数が高止まりしている現状を考慮すると、日本社会特有の問題があるように思えますが。

根岸:私自身そうした過去を言いづらい時期というのはありましたし、多くの遺族の方にとって振り返るのはしんどいことだとは思います。しかし、自殺者を減らすための対策を練るためには、亡くなった方が、「どんなことで悩んでいたのか」「どんな支援が必要だったのか」「どういう風に追い詰められていったのか」という実態を把握する必要があります。ですので、我々はご遺族の方に参加していただいて聞き取り調査を行いました。つらい体験を振り返り、語るという荷を引き受けて、多くのご遺族が調査に参加してくださったことで、これまで明らかになっていなかった実態が分かってきました。

私自身200人を超えるご遺族に直接お話を聞いています。調査からは同じような形で同じような立場の方が追い詰められて亡くなっているという構図が見えてきます。好不況の波というのは、どの国でもありますから、日本でこれだけ自殺が多いのは、やはり構造的な問題が大きいではないかと思うのです。

例えば、無職の方であれば、失業から生活苦に至り、仕事が見つけられない中で多重債務を抱え、「仕事が見つからない・生活が苦しい・借金の返済期限が迫っている」といういくつもの問題が切羽詰まった状況のなかでうつ病を発症し自殺に追い詰められる。自営業の方であれば、事業不振がきっかけとなるケースが多く見られます。特に中小・零細企業の場合は連帯保証制度を掛け合っていることも多く、迷惑を掛けまいと、自分自身の生命保険の保険金と引き換えに自ら命を絶っている。まったく人柄も地域も違うのに、同じような形で追い詰められていく構図がある。

働いている方も同様です。部署を大きく変わるような異動、特に人員整理などが重なると、過労状態に陥るというパターンが見受けられます。これまでやってきた仕事とはまったく違う分野に変わり、慣れない仕事に時間を要するようになり過労を重ねるようになる。その上、人員整理によりアドバイスをしてくれるはずの周囲の人間もいなくなり、余裕をなくして過労からうつ病になり自殺にまで追い詰められる。直接ご遺族の方と話をして、個人の資質の問題ではなく、多くの方が同じ構造の中で追い詰められて、同じような形で亡くなっていっているという思いを強くしました。

確かに自殺者は、日本の経済不況が本格化していく1998年に急増したのですが、それ以降も毎年の自殺者数は高止まりし、極めて狭い3万~3万3千の範囲で推移をしています。これは、毎年3万人自殺することが織り込み済みのような社会的な構造がある、人を自殺へと追い詰める構造が放置されているともいえるのではないでしょうか?

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