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「障害者の性」問題を通して、新しい「性の公共」を考える 坂爪真吾

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「障害者の性」問題を解決するための非営利組織「ホワイトハンズ」代表の坂爪真吾さん。
障害者への射精介助を中心に、現在は全国18都道府県でケアサービスを展開している。
事業立ち上げのきっかけや今後の活動などについてお話を伺った。
(聞き手:荻上チキ)


■性産業の社会化

荻上 『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』が話題ですね。ホワイトハンズの活動をはじめてから何年目になりますか。

坂爪 2008年からスタートして今年で5年目になります。

荻上 活動内容はどういったことを?

坂爪 「障害者の性に関する尊厳と自立を守る」という理念を掲げて、性的な面でのケアサービスを行っています。自力で射精行為ができない重度の男性身体障害者に対する、射精の介助がメインです。介助方法は、普通の訪問介護と同じ倫理・サービス基準で、スタッフが介護手袋をはめてローションを使って介護します。

荻上 どうして、事業を立ち上げようと考えたのですか?

坂爪 私は元々社会学を勉強していて、大学時代は上野千鶴子ゼミに所属していました。その時の研究テーマが「ジェンダーとセクシュアリティ」。その中で風俗を研究しようと思いついたんですね。

私の出身は新潟県ですが、高校卒業後の浪人時代に、地元のソープで働いている女性と話す機会がありました。「ソープってどんな利用者が来るんですか?」と訊ねたら、70~80歳の年輩の方が多くて、彼らは朝一番に年金を握りしめてやってくるという話を聞いてびっくりしたんです。歳をとっても性欲というのはきちんとあるんだなと。それが風俗に興味をもったきっかけです。

荻上 「性=健常者の若者たちのもの」ではないと認識したきっかけであったと。

坂爪 東京に出てくると、池袋や渋谷などの風俗街で調査をはじめました。研究を進める中で強く疑問に思ったのは、性というのは人間の自尊心の基盤であるにもかかわらず、今の社会の中で、性に関して受けられるサービスは、なぜ風俗しか存在しないのだろうか、ということでした。

性欲と並んで、同じ人間の基本的欲求である「食欲」で例えれば、街中、どこを歩いても、ハンバーガーやコーラだけを売るようなファストフード店しか存在せず、それ以外に食べるものの選択肢が無いので、皆がそれを食べ続けて、心と身体の健康を害している、というような状況です。

「風俗が悪い」という単純な批判的感想ではなく、「風俗以外の選択肢が無いことが悪い」という感想を抱きました。

一般に、「風俗の世界に入ると不幸になる」というイメージがありますが、正確にはそうではなく、「元々、何らかの不幸(借金や心の病、過去の性的トラウマ)を抱えている人が、その不幸を解決する最終手段として風俗の世界に入るものの、結局解決できずに、さらに輪をかけて不幸になってしまう」というのが、実態だと思います。

その意味で、「本来、風俗で働くべきではない人」が、「風俗以外に選択肢が無い」という理由で、悪い意味で簡単に参入できてしまい(参入させられてしまい)、そして、心も身体もボロボロになってしまう、という不毛な構造がある、と感じました。

また、風俗の世界で、プロのサービスであるにもかかわらず、女性の「素人性」や、サービスの「恋人気分」をやたらと売りにする傾向があるのは、「本当は、一般の素人女性と恋愛やセックスをしたい(だけど、それができない)」男性のニーズを満たすためです。

もちろん、風俗の世界の中で、「素人」と称される女性と、いくら「恋人プレイ」をやろうが、利用者の恋愛欲求は、決して根本的に満たされることはありません。
風俗の利用者に関しても、今の社会に「風俗以外の選択肢が無い」がゆえに、「そもそも風俗を利用することでは、決して解決できない問題」を、風俗を利用することで何とか解決しようとしている人が多い、という不毛な構造がある、と感じました。

性産業にまつわる、こうした不毛な構造や、「風俗以外の選択肢の欠如」という社会的な問題点をきちんと可視化した上で、誰も不幸にならないような形で、性産業を社会の表舞台に引っ張り出すことができれば、性産業にかかわっている人たち自身を含め、もっと多くの人たちの役に立つことができるんじゃないかと考えました。

もちろん、ソープやヘルスといった、既存の業態やサービスを、そのままの状態で社会の表舞台に出すことは、倫理的にも法律的にも、逆立ちしても不可能だと思うので、きちんと市民権が得られるような形、そこで働く人や、利用する人が、誰も不幸にならないような形に、理念やサービス内容を再構築する必要があります。私は「性産業の社会化」といっていますが、これをテーマに事業を行えば面白そうだなと思ったんですね。

荻上 性産業のフィールドワークをするとその商業形態の特徴を痛感します。労働者への権利保障など、「アタリマエのこと」をやれていない部分というのは多々あるわけですね。

坂爪 荻上さんが『セックスメディア30年史』で触れていた「情報の非対称性」の話にも通じますね。店側はそれなりの情報を持っているけど、働く側の女性、利用する側の男性客は、ほとんど持っていない。風俗産業自体が、その「情報の非対称性」を利用して、事業者側の短期的な利益を最大化することだけが目的になっている世界、働く女性の人権や労働環境、利用する男性の長期的な満足度を全く考えていない世界である、というのは私も実感としてありました。そのあたりを透明化していければいいのかなと思っています。

■娯楽ではなくケアとしての性

荻上 事業は具体的にどのように進めていきましたか。

坂爪 はじめは「傾聴サービス」を東京で開始しました。これは、キャバクラからヒントを得たものです。キャバクラは、基本的に、若くて綺麗な女の子と、お酒を飲みながら、楽しく会話ができることを売りにしている業態ですが、この、キャバクラの「売り」である、相手の話を親身になってきく=「傾聴」というコアの部分だけを抽出してサービス化し、さらに、今の社会で最も傾聴を必要としているであろう、高齢者向けサービスとして展開すれば、社会性のあるサービスにできるのではないか、と思いついたんです。

つまり、「性産業の社会化」事業を始める前の試作として、「キャバクラの社会化」をやってみよう、と考えたわけです。

実際にやってみると、高齢者の話を聴く側=リスナーをやりたいという人が殺到して、メディアでも取り上げられました。でも3年ぐらいでうまく回らなくなりました。

荻上 その失敗の本質は本にも書かれていましたね。

坂爪 はい、利用者が全く集まらなかったんです。リスナーを応募してくる人自体が、誰かに話を聞いてほしい人だった。つまり、会話をしたい人にとっては、お金を払って自分の話を聞いてもらうより、お金をもらって誰かの話を聞くほうが、会話もでき、お金ももらえて、一石二鳥です。当事者のニーズを掴むのもなかなか難しいんだなと痛感しました。

荻上 そのときはどうやって人を募集したんですか?

坂爪 ウェブサイトに広告ページを作ったり、地域の公民館でチラシを配ってもらったり、雑誌の取材を受けて記事を書いてもらうといったことを主にやっていました。

荻上 利用料はどれくらい?

坂爪 スタッフと利用業者が話し合って決め、仲介料を払うという形式です。

荻上 なるほど。それから、射精介助の事業に至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

坂爪 とにかく障害者の性に関する情報を集めようと思って、まずは、このテーマに関する情報サイト作りをはじめました。「障害者の性」や「性の介護」について、文献を集めて情報をアップし、現場にもぐるためにヘルパー2級の資格も取得。訪問介護の会社で半年間アルバイトして、現場のデータを収集しました。

荻上 そのとき集めたデータで、ニーズは確かにあると。

坂爪 ニーズを確信したというよりは、バイト先では夜の8時から朝の6時まで、おむつ交換をしてまわったので、同じ陰部に対するケアであるおむつ交換を応用してやれば、うまく事業を回すことができるんじゃないかという、システム面での気付きがあったというのが一つ、です。

また、その会社の「高齢者の尊厳と自立を守る」という経営理念からも、性のケアを「障害者の性欲処理」ではなく、「障害者の尊厳と自立の保護」という観点から捉える、という新しい視点を得ることができ、とても参考になりました。

障害者専用の風俗店の調査も行いましたが、所在地や代表者氏名は全て非公開であり、利用者も、実際にいるかどうかわからないところが大半でした。

そして、最も疑問に思ったことは、「障害者専用」と銘打っているにもかかわらず、利用対象となる「障害者」の定義や区分を明確にしていない、つまり「誰のための、何を目的としたサービスなのか」が、完全に曖昧になっていたところです。

当然、身体障害と知的障害では、性に対するニーズも、ケアの方法も異なりますし、同じ身体障害という区分の中でも、先天性の障害と、中途障害では、また別のケアが必要です。にもかかわらず、そういった点を明記しているところは全く無く、ただ「障害者であれば誰でもOK」と宣伝しているだけ。つまり、障害者福祉の現場を全く知らない人が、思いつきでやっているだけ、といった状況でした。

そうした様々な先行事例の研究をしていくうちに、障害者にとって、「性的娯楽や、性欲処理のための支援」ではなく、「ケアとしての性的支援」が大事であることに気付き、ホワイトハンズでは、自力での射精行為が困難である、男性重度身体障害者に対象を絞った「射精介助」に焦点を当てたケアサービスをやろうと決めました。

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