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暗闇で考えたこと

日本でも大きく報道されたハリケーン・サンディは私が住むニュージャージー州を直撃し、大きな被害を出した。日本での報道はニューヨークの被害に関するものが多いが(経済的、政治的インパクトや記者の所在地を考えれば当然だが)、ニュージャージーも沿岸部を中心に大きな被害が出ており、浸水や停電、物資の不足など全域にわたって被害が出ている。

私個人はハリケーンが接近する直前にカリフォルニア州にあるスタンフォード大学での会議に出るため、東海岸を離れており、直接ハリケーンの猛威を目にすることはなかったが、出張中も気が気ではなく、カリフォルニアでは「全く役に立たない」と言われているWeather Channelにくぎ付けであった(カリフォルニアは常に天気が良いので、天気予報が不要)。

ハリケーンが過ぎ去った直後に空港が再開したため、ちょうど帰りの便に間に合い、予定通り東海岸に戻ってきたが、鉄道が止まっていたため、空港から家まではタクシーで帰るしかない状態であった。しかも、主要な幹線道路でも倒木のため通行止めになっている区間が多く、住宅街の中をカーナビを頼りに行ったり来たりしながらの帰り道となった。

家にたどり着いた時には既に家は停電していた。家にいた妻と娘は日曜日の夜から嵐の吹きすさぶ中、停電した家で留守番をしていたのだが、その間、傍にいれなかったのを申し訳なく思うと、「むしろいない方が食糧の減りが少ないから良かった」と、頼もしくも悲しい一言をいただいた。いずれにしても、この嵐と停電の中を切り盛りしてくれた妻には感謝してもしきれない。

さて、出張から帰ったのが水曜日だったが、金曜日の夜まで電気は復旧せず、オール電化の家であるのが災いして、急激に下がる気温の中でも暖を取ることができず、かろうじて蝋燭が明かりと火力と暖房の役割を果たすという状況であった。幸い、近所のスーパーマーケットが自家発電で営業していたため、食料や水の補給の心配はあまりなかったが、凍えるような室内で、蝋燭の火だけを使ってお湯(といってもひと肌より少し暖かい程度)を作り、缶詰の食糧を温め、その明かりだけを頼りに本を読むといった生活が2日続いた。

東日本大震災の被災者の方々を想って


こんな環境の中で真っ先に思いが至ったのは、昨年の東日本大震災で津波の被害にあった人たちのことであった。私も昨年の3月11日には東京に出張しており、帰ることもままならなかったのでホテルの宴会場の床で一晩寝るという経験をしたが、電気も食糧も暖房もある状況だったので、一晩だけの問題で済んだが、津波で家や家族を失った人たちが真っ暗な中、この先どうなるかもわからない状況に置かれて、かろうじて避難している姿をテレビで見たことが、今回の停電でいやでも頭によぎった。

今回のハリケーンは震災と異なり、いつ上陸するのかがある程度わかっており、どの程度の備えをしておけばよいかわかっていただけに、心の準備も物資の準備も出来ていたわけだが、東日本大震災の被災者の方々は、突然襲ってきた地震と津波ですべてを失ってしまったわけだから、その衝撃ははるかに大きいものだろうと思う。また、ハリケーンで家を失った人たちも多くいたが、多くの被災者は停電や物資の不足といった被害でとどまっており、時間が経てば復旧することが見込める被害であっただけに、先の見えない不安という点でも、それほど大きなものではなかった。

とはいえ、停電の中で生活することは不便であると同時に、自力で問題を解決できない苛立ちやいつ復旧するかわからないという不安、さらには「本来ならば○○であるのに、それができない」という不満は募っていくものである。特に暖房が止まっていたことで摂氏で5度を下回る気温になる朝晩は厳しいものであった。

東日本大震災の被災者と比べれば、全く問題にならないほどの被害であっても、これだけ精神的にも負担がかかると考えると、震災の被害者の方々の心中を推し量ることは果てしなく難しいということを強く感じた。それは、軽度であれ被害者の立場になって、被害のない地域(特に日本からの仕事のメールなどもこちらの状況はお構いなしにやってくる)との断絶感のようなものを感じながら、きっと震災の被害者ではないところに立っていた自分は、震災の被災者の方々のことを考えているつもりでも、実感を伴ったものではないのだ、ということを痛感することになった。

大統領選への影響


さて、停電で何もすることがない状態(実際は限られた資源を使って、何とか最低限の情報収集や生活をしなければいけないのでやることは多かったが、頭を使うことはそれほどなく、労働集約的な仕事が多かった)で、色々とアメリカにおける危機管理の問題について考えを巡らしていた。

まず気になったのは大統領選真っただ中にいるオバマ大統領の影が薄く、ニュージャージー州の知事であるクリス・クリスティが前面に出ていたこと。これは災害対策の中心には州知事が座ることになっており、連邦レベルの機関であるFEMA(連邦緊急事態管理庁)は側面の支援をするという形式になっているからなのだが、数年前のハリケーン・カトリーナではブッシュ大統領とFEMAの動きが遅く、被害への対応が出来ていなかったということで強く批判されていただけに、今回のハリケーンでは大統領が前面に出てくるものと想定していた。

しかも、大統領選の直前、いわゆるOctober Surpriseのタイミング(October surpriseについてはブログに書いたのでご参照ください)であり、大統領選自体が極めて僅差の激戦になっているだけに、オバマ大統領はこれを機会に「大統領らしさ(Presidential)」を押し出し、颯爽と事態を裁いていけば指示を高めることができると思っていた。確かにオバマ大統領は選挙キャンペーンを一時中断し、被害の大きかったニュージャージーのアトランティック・シティ(カジノの街として有名)を訪れたし、共和党出身でロムニー支持だったクリスティ知事と協力することで、「大統領らしさ」は多少演出していた。しかし、「FEMAの予算は削る」とか「災害対策は州で十分」と言っていたロムニーを攻撃するには絶好の機会であるにも関わらず、そうした発言は一切なされなかった(民主党寄りのメディアはこぞってロムニー攻撃の材料を見つけてきたが)。

このオバマの対応は第一回の大統領討論会でも感じた、オバマの稚拙さ、ナイーブさ、優等生過ぎる態度につながっているような印象を受けた。一方でオバマの姿勢は紳士的であり、相手のミスに付け込んだり、被災者を政治の道具のように扱うということをしなかった、という評価もできるだろう。しかし、そうした甘さがロムニーのようにコロコロと発言を翻し、しばしば事実でもないことを担ぎ出してオバマを攻撃するという相手の前に、何となくひ弱な印象を与えてしまうような気がする。

こうしたオバマの甘さ、おとなしさはどこから来るのか、と言う話はまたゆっくり考えてみたいが、少なくとも今回のハリケーン災害でオバマは失点もしなかったが得点もしなかったという印象だった。結果として、このハリケーンは大統領選の行方には大きく影響しないだろう。ただ、被災地での投票が困難になったり、電子投票が出来なくなったため、紙の投票用紙が用いられ、その結果、開票が遅れるといった選挙事務上の影響はある。

アメリカにおける危機管理とResilience


今回のハリケーンではアメリカにおける危機管理の一端を垣間見ることができて、その点ではいろいろと考えさせられるところがあった。

まず背景として押さえておかなければいけないのは、昨年にハリケーン・アイリーンがアメリカ北東部に上陸し、大きな被害を出していたということ。ニュージャージーでも3-5日間の停電があったため、すでにハリケーン対策を昨年から始めていたことは大きな違いを生んでいる。アイリーンが直撃した際は、準備が出来ていないところが多く、電源を失って命を失った人や商業施設にも大きな被害が出たが、その教訓から多くの家で自家発電機が準備されており、スーパーなどでも発電設備を備えているところが多かった。

しかし、問題はガソリンスタンドだった。自家発電機の多くはガソリンで動くが(ガスで動くものもある)、タンクを満タンにしていても、一日くらいしか持たない。そのため、ガソリンスタンドには発電機用のガソリンを得るためのタンクを持った人が長蛇の列を作ったが、ガソリンスタンド自体が停電していて、地下のガソリンタンクからポンプでくみ上げることができない、という状態のスタンドが多く見られた。それらのスタンドも自家発電機を用意していたが、それでも不十分という状況であったようだ。

このような対処を見ていると、アメリカにおける危機管理というのは、リスクの発生確率を軽減するというところに向けられているのではなく、被害が起きても、その社会的インパクトを軽減するというところに向けられているように感じた。それは日本における危機管理とは大きく異なるものである。

日本における危機管理は、できるだけ被害が生まれないようにするため、リスクの発生確率を下げることに重点が置かれているように思う。建物の耐震設計やインフラの災害への耐性は、アメリカのそれとは大きく異なる。アメリカのインフラの方が圧倒的に脆弱であり、今回のハリケーンによる停電や変電所の事故、鉄道の運休、地下鉄の浸水防止など、発生確率を下げるための努力がなされていれば防げるものも数多く散見された。しかし、そうしたインフラへの投資が様々な理由で後手に回っており、それだけに災害に対してインフラが大変脆弱であることを身をもって感じた。

もちろん、日本のインフラも災害に対して完璧に対応できているわけではない。その代表例は福島第一原発であろう。津波に対する脆弱性に対する手当をしていなかったために、あれだけの大災害が起きたわけだが、同時に、より震源に近かった女川原発がなんとか事故にならなかったのは、津波の被害に合わない対策が出来ていたのと同時に、地震に対する耐性は高かったことの証明と言えよう。また、インフラの脆弱性といえば、関東地方で雪が降るとすぐに鉄道が止まるというのも、その脆弱性の一端といえるだろう。これは北海道に住まいのある身からすると、考えられないことだが、普段から雪が降る確率が低い地域である関東地方では、降雪対策をするよりは、雪が降った時には電車を止めてしまう方がよい、という考え方である、ということを意味している。

原発の事故と降雪時の鉄道運休を並べて議論するのはいささか問題があるかもしれないが、日本のインフラが常に災害に対して完璧に対応しているわけではない、という例として見ておいてほしい。福島第一原発の場合は、完全な瑕疵による脆弱性の表出であったのに対し、降雪時の運休は意図的に脆弱性を維持している状態であり、この両者が全く違うことも改めて指摘しておく。

さて、このようにある程度の脆弱性を抱えながらも、主として事故が起こることを未然に防ぐことにエネルギーを注ぐ日本では、逆に想定を超えた災害に直面した時の備えが決定的に欠けるという悪い面がある。その一つの例が津波に対する10メートルの防潮堤を二つも持っていたがゆえに、避難が遅れ、大きな被害が出た宮古市の田老地区であろう。津波による事故を防ぐために巨大な防潮堤を作ったことで、被害が出ないということを想定してしまったため、想定を超えた災害の場合の備えが欠けており、その結果、大きな被害がでた。同じことは福島第一原発のケースでもいえるだろう。「安全神話」の下、原発事故は起こらない、と想定してしまったことで、実際に事故が起きた際の対応が滅茶苦茶な状況になってしまったのである。

それに比べると、アメリカは最初からインフラが脆弱と言うことが想定されており、被害が出ることはある程度織り込んだうえで、いかに事故に対応していくのか、ということを常に考えているという点で、日本における危機管理とは考え方が大きく異なるという印象を受けた。つまり、発生確率を下げるための投資をするよりも、実際に被害が生じた際に、その被害を耐え、早急に復旧するということに全力を注ぐという考え方である。もちろん、アメリカも可能な限り、事故の発生確率を下げようという努力はしている。しかし、電線網の地中化のように巨大な投資が必要とされるような案件については、それだけの投資をするよりも、何年に一回か生じる被害に対処する方が合理的という判断なのかもしれない。いずれにしても、アメリカの場合、発生確率を下げるということ自体に重点が置かれていないことが多くの人に理解されているため、その事故や災害が起こっても何とか生き延び、そして復旧するというところに重点が置かれているのだと理解している。

その対処として発達しているのが保険である。アメリカにいると生命保険、医療保険の他、損害保険の広告などを多数見かけるが、様々なリスクに対する保険が充実しており、様々な事故や災害が起こるという前提で保険をかける人が多い。特に今回被害が多く出たニュージャージー州の沿岸部の住宅ではほとんどの人が洪水や浸水の保険をかけていたようである。

また、上記でも述べた自家発電機が多くの家庭や商業施設、公共施設に備えられているというのも、被害を限定するための備えと言えるだろう。昨年のアイリーンの時にはそうした備えが十分ではなかった(停電が想定よりも長かった)という意味では、アメリカでも災害の発生確率が高いということが十分認識されていなかったということになるが、それでも昨年の教訓から、今年はしっかり自家発電機を備えている家庭が多いというのは、災害に対する対処が学習によって向上したということになるだろう。

こうした、災害や事故に対する対処から回復するしていくことを英語でResilienceという。日本語にすれば「回復力」という訳になるだろうが、この回復力の強さというのが災害や事故の際には重要になってくる。アメリカの場合、事故や災害の発生確率が高いことが見込まれているため、それに対する備えがあり、そこからのResilienceが強くなる。逆に日本は発生確率を極力低くしようとするため、何かが起きたときのResilienceが弱い、という言い方ができるだろう。

しかし、Resilienceというのは、単なる物質的な備えというだけではない。災害や事故が起きても、それに耐えられるだけのメンタルというか、精神力も大きなポイントになる。実際、東日本大震災で被害にあった方々が、上記で述べたように、我々が想像できないほどの辛さと精神的な負担を背負いながらも、助け合い、整然と、そして厳粛に避難所での生活に耐え、復興に向かっていくというエネルギーに変えていくだけの精神力を発揮したことは、まさに日本のResilienceと言えるだろう。

さらに、Resilienceは個々人のレベルの問題ではなく、社会全体、政治の問題ともいえるだろう。アメリカのハリケーンの被害は大きかったが、かなり被害が大きかった電力網も順次復旧していったし、高潮と高波のせいで線路にヨットや多くのがれきが覆いかぶさっていた鉄道の路線も一週間もたたずに復旧し、水没したニューヨークの地下鉄も部分的ながら復旧している。こうした復旧に向けての資源の動員や人材の投入といったことができるかどうか、というのは社会全体のResilienceと言えるだろう。

それを考えると、東日本大震災の後のがれき撤去までは良くても、その後の復興庁の設置からがれき処分の問題、そして最近問題になっている復興予算の使い道まで含め、日本のResilienceには疑問の残るところが多い。確かに、個々人のレベルでは素晴らしいResilienceを見せた日本の人々が、いざ復興という段階に入るに当たり、そのResilienceを発揮できないのは、外国から見ると不可思議なものに見えるように思う。それだけ日本の政治行政の問題があるということなのだろう。

最後に


今回のハリケーン被害で一番役に立ったのはラジオとソーシャルネットワーク(SNS)であった。渡米する際、すぐに家具や家財道具が揃わないことを前提に、非常用の手回し充電式のラジオと懐中電灯が一体となったものを妻が荷物に入れて持ってきていたのが、こんな時にものすごい役に立った。東日本大震災の時にも確認されたことだが、停電している中でテレビを見ることもできず、唯一の情報源はラジオだった。やはり被災者の立場になるとローカルな情報を提供するラジオは不可欠なアイテムと言えよう。

また、携帯電話(スマホ)でツイッターやフェイスブックを通じて地元の情報を提供するアカウントをフォローしていたことで、ミクロレベルの情報(どこに電気が来ているとか、避難所がどこにある、どのお店が開いているなど)を逐一得ることができた。また、より広い範囲でのハリケーン情報も得られることができ、災害時のSNSの有効性を強く認識した。

日本でも報道されていたが、確かにSNSにはデマやガセ情報も流れていたが、これも東日本大震災の時と同様、すぐに否定されるようなデマやガセであり、緊急時の情報の信頼性を保とうとするSNS自体の自浄作用が働いていたように思う。

また、物資の点でいうと蝋燭の威力を改めて認識することになった。既に述べたように明かりとしても、火力としても、暖房としても機能した蝋燭だが、さすがに自宅周辺ではすぐに売り切れてしまっていたため、私が出張先で買い込んできた蝋燭が役に立った(その意味では出張していたことがまんざら悪いわけでもなかった)。しかし、大量に蝋燭をカバンに入れたまま飛行機に乗ろうとしたため、保安検査場では不信に思われ、念入りに荷物が検査されたことは言うまでもない。

また、手に入る蝋燭がいわゆる蝋の白いものばかりではなく、どうしても香りのついた、いわゆるアロマキャンドルが半分近くになったため、停電中は猛烈なアロマの中で生活する羽目となった。今後もシナモンアップルの香りをかぐたびに、あの停電を思い出すことになるだろう。

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