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最大の原発防災計画は「廃炉計画」 - 拡散予測が証明したもの -

SPEEDI検証シリーズ (11)

原子力規制委員会は24日、東京電力福島第1原発のような事故が全国の16原発で起きた場合の放射性物質の拡散予測を公表した。

原発事故から1年半以上が経過し、グリーンピースが全原発におけるシビアアクシデント時の放射性物質拡散予測公表を求めてからも約1年が経過するなど、遅すぎる感は否めない。再稼働議論への影響を考えて、恣意的に拡散予測を公表してこなかったのだろう。

実際、このような拡散予測も防災計画もなしに、大飯原発は再稼働されている。

参考: 「SPEEDI」をリスクコミュニケーションに使う (2011年11月30日事務局長ブログ)

今回の、規制委による拡散予測そのものにも問題が多い。その点もこのブログに書くが、その前に「そもそも論」からはじめたい。

気づくべきは「原発防災の限界」

規制委は、原発から30キロ圏内にある自治体に防災計画の策定を求めるという。

しかし、東海第二原発の30キロ圏内には93万人以上が生活を営んでいる。30キロ圏内の人口が最も少ない東通原発でも7万人以上だ。しかも汚染は30キロ圏に収まってくれるわけではない。

今朝の新聞各紙で、自治体の首長や担当者の困惑するコメントが紹介されているが、現実的で実効性のある避難計画の策定は極めて難しいだろう。事故が起これば、複合的な理由で想定外な事象が起こることこそ予測しておかなければいけない。それが東電福島第一原発事故での教訓でもある。

しかも、30キロ圏内に含まれるほとんどの自治体は電力会社との安全協定すら結べていない。そのような自治体は、原発の稼働について意見を言えないにも関わらず、事故時の防災計画の策定だけは義務付けられるという不平等さを抱えることになる。しかし電力会社は安全協定を拡大することに後ろ向きだ。

このようなことを考えれば、今回の放射線拡散予測から私たちが気づくべきは、「原発防災」の限界であって、「どうやって実効性が疑わしい防災計画を作るか」ではない。

最大の原発防災計画は廃炉計画

「原発の防災計画の策定に頭を悩ませている」という記事を見ると、その自治体担当者への同情とともに違和感を覚える。それは、原発防災計画が地震や津波などの自然災害への防災計画とは根本的に異なるというところから来ているのだろう。

原発事故は「人災」だということを忘れてはいないだろうか。「自然災害」と違って「人災」は、そもそも原因を人の力で取り除くことができる。原発をやめるという選択だ。

現実的かつ効果的な原発防災計画は、「廃炉計画」に基づくものでしかない。廃炉計画を策定し、その作業期間中に万が一の事故があったときの防災計画を策定するという方法だ。

現在、大飯原発の2基をのぞいた原発すべてが稼働していない。大飯原発も、電力不足で稼働したことになっているが、結局電力は不足しなかったので稼働しておく理由は電力会社の財政上の問題以外に何もない。

この現状を冷静に考えれば、動いていない原発をムリな防災計画策定で動かすことより、そのまま「廃炉計画」を導入していく方が現実的ではないか。

それは「少なくとも国民の過半が原発ゼロを望んでいる」という政府が結論付けた世論にも応えることになる。

不十分で政治的な意図を優先している拡散予測

今回の拡散予測は広く報道された。よって広域に放射性物質が拡散するというイメージは伝わったかもしれない。

しかし、今回の拡散予測は問題点だらけだ。MACCS2と呼ばれる手法を採用したというが、地形をまったく考慮にいれずに拡散予測をしている。

規制庁が発表した資料にも「年間の気象パターンや風向きなどのデータから、放射性物質の拡散の傾向を計算するもの。SPEEDIを用いた解析では地形情報・風向分布等の様々なパラメータを用いるため、年間を通じた全サイトの解析を行うには膨大な時間が必要」と注意書きがある。要するに、莫大な税金を投じて開発したSPEEDIを「莫大な時間が必要」として使用しなかったことになる。

今回の拡散予測の問題点については、民間で拡散予測システムを独自に開発し公表している(株)環境総合研究所の青山貞一氏・鷹取敦氏のブログに詳しいので、ぜひご一読を。

地形考慮なき稚拙な原子力規制委拡散シミュレーションの問題点 ― 環境総合研究所 Super AIR/3DDと対比して-」 青山貞一氏・鷹取敦氏 環境総合研究所

規制委は原発事故時の避難区域をこれまでの8~10キロ圏から30キロ圏に広げる方針で、その根拠とすべくこの拡散予測を公表した。防災計画を30キロ圏内におさえたいという政治的な意図が優先されて、科学的なシミュレーションができないという構図ではないか。SPEEDIの過小評価が問題となった、福島第一原発事故の教訓がここでも活かされていない。

予防原則を導入すべき

「社会環境の破壊など不可逆的な(元に戻すことが現実的に不可能な)影響があることについては、リスクをコントロールするのではなく、そもそも行わない」「より危険の少ない方法がある場合には、それに移行する」という「予防原則」の考えは、さまざまな分野で広がっている。

原発問題・エネルギー問題にもそろそろ「予防原則」を導入すべきだ。

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