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「キャリア官僚だって人間」―30歳元キャリア官僚の語る霞ヶ関の実態

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メディアに登場する元官僚は霞ヶ関では「芸人枠」


—官僚というと、メディア的には悪役になることが多いと思います。経済産業省というと、今原発問題の黒幕のような書かれ方をしますし、財務省の勝栄二郎前次官といえば消費税増税を推し進める大悪党といった取り上げ方がされていました。こうしたメディアにおける官僚悪玉論について、霞ヶ関内部の人間は、どのように感じているのでしょうか?

宇佐美:あくまで私個人の見方ですが、大手メディアの官僚批判については“ビジネスなんだからしょうがない”と割り切っています。わかりやすい敵・悪い奴がいたほうが、出版物も売りやすいということなんでしょう。それに何となくマスコミが官僚を褒め称えるよりも、批判した方が世の中として健全だと思いますしね。

その意味では、私はマスコミの方々がしばしば「自分たちは社会の公器である」という風に主張することには強い違和感を感じています。大切なのは報道の自由であって、大手新聞社やテレビ局自体が大事なわけではまったくない。新聞もテレビも株式会社であり儲かるために記事や番組を作っているに過ぎないんじゃないでしょうか。だったら法律を犯していない以上、儲ける為に彼らが何をしようが彼らの勝手だと思っています。

ただマスコミに限らず官僚に関する報道一般に対して疑問を感じる点は確かにあります。本音を言えば、組織としての取材はともかく、人に対する取材においては官僚についても一般企業と同じ基準でして欲しいんですよ。新聞が一般企業を取り上げる場合、普通成功した人に焦点を当てますよね。例えば、躍進している企業の経営者や画期的な製品開発をした人などです。逆に変な報道をしたら名誉毀損で訴えられます。

それが官庁の場合、極論やトンチンカンな主張をして組織を飛び出した人がヒーローに仕立て上げられてしまう。典型的なのは古賀茂明さんで、あの人は官僚社会で決して大きな成果を上げたわけではないんですよ。「自分の理想に溺れて公務員制度改革に失敗したドン・キホーテ」。それが官僚社会における古賀さんの現実です。彼がその後やったことは非常に政治的で民主主義社会における官僚の役割をはるかに超えたものです。失敗者に焦点を当てると、悪い例をいい例と世の中の人は見なしてしまいますから、それだけはやめてほしいと思います。

—古賀茂明氏、高橋洋一氏といった元官僚の方は霞ヶ関を批判することが多いですよね。

宇佐美:彼らはそれが生活の糧ですからね。霞ヶ関がまともなことをしたら困っちゃうわけですよ。彼らが日々の収入を得る為には霞ヶ関は悪の権化でなければならないわけです。本来取り上げられるべきなのはそういったトリックスターたちではなくて、こつこつと官僚機構内で立派に成果を上げている人なのではないでしょうか。

例えば経済産業省でレアメタルの対策をしていた人たちです。彼らは平成17年の時点で、いつか必ずレアメタル危機がくると予測していました。そこで民間企業や関係省庁を集めて、レアメタルの使用状況を細かく分析してリスク評価をしています。そして、リデュース・リユース・リサイクルという枠組みで戦略を策定して、5年間に渡って準備を進めていました。そういう対策をしてきたからこそ、レアメタル危機であれだけ中国が強気にきても、それほど大きな問題にならなかった

こうしたレアメタル対策を仕切ってきた担当者は古賀さんとほぼ同じ年次ですが、その人はまったくメディアに取り上げられない。ちょっとおかしいんじゃないかと思わざるを得ないですよね。本当は、普通の人には見えない努力の成果を発掘して伝えることも報道機関の役割だと思うんですが、残念ながら今の報道機関の多くはそういった隠れた成果を発掘する努力をしませんよね。

—官僚も当然人間ですから、批判ばかりだとモチベーションも低下してしまうと。

宇佐美:おっしゃる通りです。全体としての官僚機構を批判することで権力の監視をしつつ、成果を上げた個々人は正当に評価する、というのが本来の報道のあり方だと思うんですよ。今は、全体を批判して、失敗した個人を褒めるという状況になっている。その上「○○省が〜という悪企みをしている」なんていう陰謀論がまことしやかに世間にながされるので、真面目に仕事すれば、メディア的には悪い奴の一員です。

給与も下がる、批判も受ける、組織から去った人がヒーロー扱いされている、官僚も人間ですからそういう状況ではモチベーションが保てませんよね。メディアに取り上げられて陰謀論を流している人は、基本的に官僚としての能力・実力がなかった人たちなんですよね。繰り返しになりますが、そういう人たちを有識者としてフィーチャーして、本質的な論点を伝える努力を怠るのは報道の本来の姿なのかということは、常々疑問に思っていました。

—「官僚としての」能力ですね。

宇佐美:そうですね。少し回りくどいですが、官僚が立案すべき政策というもののあり方について説明します。

物事に対して政治家が戦略レベルで一定の方針を決めたとします。これを政見と呼びますが、その政見を具体的なアクションに落とし込む戦術レベルの政策を立案するのが官僚の役割です。ただどんな政策を展開するにあたっても、必ず障害が生じます。

例えば、よく古賀さんが、「農業を再編するためには農家を保護せずに、もっと潰れるべき農家は潰すべし」と主張しています。しかし当然農家を潰したら失業者がたくさん生まれる。そうした失業者たち、例えば30〜40年間農業一筋でやってきた50代、60代の人達に対して、「あなたは明日から成長産業に移ってください」と言ってもそれは無理でしょう。残念ながら成長産業側が、「なぜ数十年間農業をやってきた人を我々が雇わなきゃならないのか」とお断りしてしまいます。

仮に古賀さんが「農家はもっと潰すべき」という主張をするなら、その結果路頭に迷う人の救済が円滑に進むような仕組みを併せて提案することを政策というんです。そうした仕組みを自分で考えつかないから、「それができないのは農水省が利権を手放さないからだ」といって陰謀論を唱える。そういう陰謀論者をメディアで取り上げるのは、本当はいいことではないと思うんですよ。

私は、古賀さんや高橋さんは、自分たちが体験した政策決定過程を世間にしらしめた点においては、大変価値があると思います。何故なら政策の決定過程というものを国民は知る権利があるし、それは民主主義が健全に機能する為にはとても重要なことだと思うんです。ただそれ以上のことを言うのは、おかしいと思うんですよ。政策提案能力が低いから官僚を辞めたんですから。「あなたたちはドロップアウトしたんでしょ?そんな人がテレビに出て何を偉そうなこと言ってるの??」と思います。彼らは有識者ではなく芸人の枠で捉えてほしい。芸人としてはアドリブも効くし視聴者を楽しませるし一流だと思います。

—それはある程度、霞が関の共通認識なんでしょうか。「彼らは所詮ドロップアウトした芸人枠だから」のように、どこか冷ややかに見ているんですか。

宇佐美:非常に冷ややかですね。なんでも強引に陰謀論や天下り批判に持ち込んで、そんな悪いことをしている官庁から脱した俺たちは正義の味方、という論法を毎回繰り返すので私も官僚時代はテレビの前で「また天下りか!」とツッコんでいました(笑)。

—政局報道では、「霞が関関係者」といった形で官僚のコメントが出てくることがありますよね。例えば、「あの政治家は馬鹿だから我々は…」みたいな。

宇佐美:「霞が関ではこんなことが言われている」という類の記事は、誇張はありますが7割くらいは本当だと思います。残念ながら実際に大臣としての資質が伴わない人もいますから、そういう記事が上がってきた時はむしろありがたいですよね。変な人が大臣で居続けるのは国民にとって不幸ですから。

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