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抗議活動はご自由に - オランダで驚きの判決

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オランダ裁判所の画期的判決

10月6日、時事通信社が「抗議活動、どうぞ自由に=石油大手の訴え棄却-オランダ裁判所」という記事を配信した。

小難しい話になるかもしれないが、このブログでも紹介してきた非暴力・不服従の活動を行う市民やNGO活動にはとても重要な判決のため、抗議活動の背景と解説を書いておきたい。

 

 

白熊がガソリンスタンドを封鎖!?

まずは裁判で争われることになった抗議活動のビデオを見てほしい。

 

 

背景を説明すると、英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル社(以下、シェル社)をはじめとする大手石油メジャーは、気候変動の影響で夏場に氷が急激に減少する北極圏で、石油の採掘を開始しようとしている。

北極圏での石油採掘はリスクが大きく、もしメキシコ湾の事故のような原油の流出事故が起これば、厳しい環境下での復旧作業はほぼ不可能となる。それゆえに生態系への影響は甚大と予測されている。最近では、同じく石油メジャーの一社である仏トタル社のクリストフ・ドマージュリー最高経営責任者も北極海の石油採掘には手を出すべきではないと発言したくらいだ。

北極海の公海域を南極大陸と同じように保護区にしようと活動を始めたのがグリーンピース。ポール・マッカートニーなど世界中のセレブも賛同して始まったこのキャンペーンには、現在世界中から200万人以上の署名が集まっている。

しかし、シェル社は、北極圏での採掘を強行しようとしていた。

十分な議論が行われていないと考えたグリーンピースは、世界中でシェル社に対する抗議活動を展開。オランダやイギリスなどでは、白熊の着ぐるみでシェル社のガソリンスタンドを封鎖して、給油に来た客には他のガソリンスタンドに行ってもらうように伝えるとともに、シェル社の北極圏での石油採掘開始について情報を提供した。

オランダのシェル本社には、大きな「STOP SHELL, SAVE THE ARCTIC(シェル社を止めて、北極圏の保護を)」との垂れ幕もぶら下げた。

 

日本人には驚きの判決内容

このブログを読んでいるあなたは、この抗議活動を見てどう思われただろうか?

「ガソリンスタンドを使えなくするのは、シェル社に対する威力業務妨害だ」という人もいるかもしれない。実際、この抗議活動を受けて、シェル社はすぐにこのような抗議をやめるようグリーンピース・オランダを相手に差し止め裁判を起こした。

ところが、裁判の判決は「抗議活動はご自由に」となり、シェル社側の訴えが棄却されたのだ。

シェル社にとってみれば、止めさせてほしかった抗議活動を、逆に裁判所が認めるなど予想していなかっただろう。

判決では具体的に「ガソリンスタンドを使用不能にさせるような行為も1時間以内であれば許可される」という記述まである。

 

「北極の開発」は地球規模の重大事項、だから抗議は当たり前

なぜそのような判決を下したのかは、判決文を見るとよくわかる。

「北極圏の開発」という地球規模の重大事項を始める時には、異なる意見が存在するのは当たり前だとした上で、反対の意見はしっかりと企業に伝えられ社会的な議論が喚起されなくてはいけないとしている。そして議論喚起のためには、ある程度の抗議は許容範囲とみなされるべきとしたのだ。

"A company like Shell, that is taking actions or plans to take actions that are controversial in society and which many people will object to, can and should expect that actions will be taken to try to change its mind. Such actions - in order to be effective - will have to be of disadvantage to Shell. " (判決文より。原文オランダ語)

<シェル社のように、多くの市民が異なる意見を有する社会的に物議を醸しだすような行為を行う企業は、その方針を変えようとするような(抗議)行動が起こることを予想できる、もしくはすべきである。またそのような(抗議)行動は、効果的であるためにシェル社に損失をもたらすものでなければいけない>

 

抗議する側にも義務が生じる

裁判所も、あらゆる抗議活動がOKであるとしたわけではない。権利を主張する限り、抗議活動をする側にも義務が生じる。

そのカギとなる言葉が判決文にも示されている「Objective(目的)」「Subsidiarity(補完性)」「Proportionality(均衡性)」の3つだ。

「Objective」とは「目的」という意味で、抗議の目的が「公共の利益」に寄与するかが問われている。つまり、抗議が個人的な逆恨みだったり、ライバル企業を陥れるためだったりする場合には、目的が公共の利益のためではないとされ、抗議活動を正当化する基準はクリアできない。

今回のグリーンピースの行為は、「北極圏の開発」という地球規模に関連する分野の議論を喚起することだったということで「公共の利益」として認められた。

「Subsidiarity」とは、直訳すると「補完性」という意味だが、相手に損害が生じる可能性のある抗議活動については、考えられる他の手段が実行された後に行われなければいけないということを意味している。

グリーンピースは、シェル社に以前から、署名や直接的な交渉など、様々な訴えを行ってきていたのでこの条件も満たしていた。

次に「Proportionality」だ。直訳すると「均衡性」と訳されるが、抗議対象の行為が及ぼす影響の大きさに、抗議活動の方法が見合っているかということだ。

今回の件は、「北極圏の開発」という地球規模で市民が影響を受ける可能性のある行為に対しての抗議活動だったので、ガソリンスタンドを数時間平和的に封鎖するなどの抗議活動であれば、均衡性のあるものとみなされた。

ここまで読めば、むしろ抗議活動がシェル社に与える影響が、北極での原油流出事故の可能性の大きさよりも圧倒的に小さい問題だと感じてくれる読者もいるだろう。

もちろん、抗議活動において、たとえば、ガソリンスタンドの店員に暴力をふるうなどがあれば、この均衡性は崩れて抗議活動が違法になるだろう。

 

以上を考慮して、オランダ・アムステルダム裁判所は、基準をみたすような抗議活動であれば民主主義社会においてむしろ尊重されるべきだとし、抗議活動を認めたというわけだ。

 

民主主義社会への「萎縮効果」

北極海で原油流出事故が起きてしまったら取り返しがつかない。

さらに、北極海の開発に疑問の声を上げる人たちを司法が罰してしまえば、次に問題を指摘する人や報道が「萎縮」してしまう。

福島第一原発事故でも、その「萎縮」効果は存在した。問題を指摘する人の声を聴かない社会が出来上がっていたからだ。このような問題を指摘する人の声を聴く重要性は、大事故の教訓としてぜひ活かしたい。

多様性を尊重し、社会的な議論が喚起されるべきという民主主義の基本を維持するという裁判所の本来の目的を考えれば、抗議に参加する市民を罰するべきか、シェル社にしっかりと反対の声を伝えるべきか、どちらが正しい判決か理解できるだろう。

これを「海外の裁判所の例だから」と例外視するのではなく、日本においても司法の役割は、「政府や大企業を守ること」よりも、「市民社会、そして民主主義を守る」ためにあるのだという基本原則を振り返る機会にしたい。

そういう観点から、今回の判決はオランダのようなNGO・市民社会先進国と日本の現状とのギャップを示す良い例だと思う。

最後に、もう一度シェル社に対する抗議活動のビデオを見てみてほしい。もしかしたら見方が変わっているかもしれない。

 

これらの抗議活動が効果的だったのか、シェル社は今年の北極圏での石油採掘を断念している。

 

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