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『ケイクス』に見る有料コンテンツの現在地

 『スタバではグランデを買え!』『もしドラ』など、ダイヤモンド社で数々のベストセラーを手がけた加藤貞顕氏が立ち上げた『cakes(ケイクス)』が9月11日についにオープンした。
 『ケイクス』は週150円でコンテンツが読み放題になるという有料配信プラットフォーム。個人の有料メルマガではなく、サイト自体を有料課金にして多くの書き手の記事が読めるというモデルは、これまでありそうでなかった。そこに目をつけたあたり、単純にスゴイなぁと思う。
 
 執筆陣は、下記の通り。

 
青木理音、青山裕企、安全ちゃん、飯田和敏、家入一真、いしたにまさき、磯崎哲也、伊藤聡、宇都宮徹壱、海猫沢めろん、大崎善生、大槻ケンヂ、大山くまお、岡田育、岡田斗司夫、久保内信行、小田嶋隆、陰山英男、加藤レイズナ、金子平民、川上慎市郎、黒田勇樹、古賀史健、ココロ社、近藤正高、西條剛央、坂上秋成、坂口孝則、坂之上洋子、真実一郎、橘玲、田端信太郎、塚越健司、津田大介、ツレヅレハナコ、仲田晃司、西内啓、二村ヒトシ、古川健介、能町みね子、馬田草織、ハマザキカク、速水健朗、美少女図鑑、pha、finalvent、フェルディナント・ヤマグチ、深町秋生、藤沢数希、藤田大輔、藤野英人、本田透、枡野浩一、真魚八重子、三田紀房、峰なゆか、May_Roma、茂木健一郎、山形浩生、山本一郎、yomoyomo


 ざっと見たところ、加藤氏が編集者として携わっていた書き手プラス、2005〜2007年くらいにはてなダイアリーを中心としたブロゴスフィアで活躍していた書き手が多い、という印象。ジャンルやカラーは多岐に渡ることは容易に想像がつくし、「文化系トークラジオLife」を欠かさず聴く層や日経ビジネスオンラインを毎日読んでいますという層ならば、週150円/月600円なら払って読む価値があるだろう。
 なかでも唸ったのは川上慎市郎氏の名前があったこと。もう忘れちゃっている方もいるかもしれないけれど、彼はブログ『R30』の中のひと。ビジネス・マーケティング・メディアに関する鋭い論考と見も蓋もないぶっちゃけ内容で一世を風靡した彼は、グロービスでマーケティングを中心に教鞭を取っている。(参照
 しばらくネットとは距離を置いていた『R30』様がどんな記事を送り出すのか。個人的にはこれだけでも150円出して読みたいと思わせる方だ。
 ほかにも、素敵な写真とエッセイをお書きになる『平民新聞』の金子平民氏やサラリーマン本・マンガ評やアイドル評に鋭い『インサイター』の真実一郎氏、海外ウェブの先端に詳しく大手小町のヘビーウォッチャーでもあるyomoyomo氏など、決してメジャーではないかもしれないけれど、実力もありファンも着いている書き手が揃っている。「これは!」と思わせる書き手をこれだけ揃えたあたりが、メディアプランナーとしての加藤氏の力技だろう。

 そんなわけで。先述したように2005〜2007年前後にブロゴスフィアにいて、はてなダイアリーあたりで書いていたひとにもフォーカスされているわけで、彼らのブログをRSSに入れていたという相当数の読者は『ケイクス』に付いてくるだろう。なので、成功は確実というか、まぁ失敗はないよね、という手堅いビジネスをしているあたりも、加藤氏が編集者としてだけでなくメディアプロデューサーとしても鬼才たるゆえんだな、というのが個人的な感想になる。
 サイトのUIはhtml5を駆使してタブレット端末で見られることを想定されていて、ぱっと見新しいようだけどやっぱり押さえるべきところは押さえていて、緻密に考えられたデザインで、こちらも定石は外していない。
 さらに、各提携メディアの記事掲載などで、『ケイクス』ブランドで書き手を送り出すことが出来れば、単なるプラットホームとしてだけでなく、編集プロダクション的な振る舞いも出来る。
 見れば見るほど、加藤氏の凄腕ぶりに唸るしかない。

 だけど。全体として、手堅い故に面白みはないなぁ、とも思ってしまうんだよなぁ。

 何度もいうけれど、『ケイクス』が失敗する可能性はほとんどない。読者層が明確に想定されているからだ。もっというと、ネットリテラシーのある20代後半から40代男性がメインターゲット。仮に5万人有料購読者を獲得したら、単純計算で月三千万円。5万という数字は、コンビニエンスストアに入る雑誌の最低発行部数に近く、バリューとしてはそれほど難しいラインではないのではないだろうか。
 とはいえ。それまでホームラン級のベストセラーを連発していた編集者だった彼にしては、急にセーフティーバントでのヒットを狙ってきたようで、ちょっと小粒な印象を受けてしまう。
 この面白みのなさを簡単に言うと、おじさんのメディアになってしまう可能性が非常に高いこと、なんじゃないかなぁと思う。10代から20代前半の読者がつくイメージが沸かないというか。そもそもオンライン決済はクレジットカード所持が前提になっているので、若い子は読むに読めない。インタビューで加藤氏は「田舎の中学でイジけていた自分」が想定読者とおしゃっているけれど(参照)、現状の『ケイクス』が<彼>に魅力的に見えるのだろうか?
 ある意味、『ケイクス』はブロゴスフィアの書き手にちゃんとした対価を払えるモデルを作ろうという、書き手側の方を向いたモデル。それはとても大事だし応援したいのだけれど、同時に読み手側を見たモデルではないよな、と思わざるをえない。

 実のところ、有料メルマガや最近オープンしたニコニコ動画の『ブロマガ』にしても、若い読者を想定していない、というのがコンテンツビジネス最大の問題だということを浮き彫りにしていると思う。書き手はおっさんばかりだし、ネタは週刊誌っぽいし。そして、先述したようにそもそもとしてクレカ持ってないと読めないという時点で高校生以下はほぼオミットされてしまう。
 単純な話、テキストなんて暇でもてない男性諸君が最大のバリューゾーン。そこを狙えないメディアは、読者の年齢が上がるとともに先細りするだけだ。
 そして、今10代や20代前半はコンテンツの受け手としてだけでなく、ニコ生やpixivなどで送り手としても活躍している。その上で自分が何かを出す、という快楽は求めても、「お金をもらう」ということを必ずしも求めていない、というあたりがポイントなのではないか。
 ここのあたり、コンテンツビジネスの現状の難しさと、今後の可能性が潜んでいるように、個人的には感じているのだけど。話が逸れすぎたので別の機会に考えることにする。
 
 そんなわけで、『ケイクス』はまぁ成功は確実だし、有料課金コンテンツのビジネスモデルとして一つの形が出来ることによって今後の展望が開けるかもしれないと期待はしたいのだけど、もうちょっと大きなラインを狙ってほしかったなぁ、というのが個人的な感想になる。

 とはいえ、加藤氏が現状で満足しているとはとても思えない。彼のさらなる一手を注視していきたい。
 その一手が、Parsleyを書き手もしくは編集側として入れてくれる、というのだといいのですけれどね(笑)。

 

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