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双葉病院「患者置き去り」誤報を福島県が認めて謝罪、メディアは反省せず

8月31日、毎日新聞でこの記事が発表された。

当ブログではこの件について発表された直後に、関係者のツイート等をまとめて、報道内容が誤報であると伝えてきた。今回、福島県が誤りを認め、謝罪を行なったことになる。ただし、福島県の発表をそのまま裏取りもなく垂れ流したメディア各社は、福島県のせいにして謝罪を行なっていない。

以下、当ブログでの扱いを振り返ってみる(一部、第十二回文学フリマで頒布した『東日本大震災でわたしも考えた』=残部僅少=に書いた文も収録)。

双葉病院「患者置き去り」誤報事件の経緯

事件そのもののタイムラインは以下のブログ記事にまとめている。また、関係者によるツイートをまとめたのが以下のTogetterまとめである。

経緯を簡単にまとめると、以下のとおり。

「自衛隊が来るが、寝たきりや車いすの患者が搬送できず、一旦戻る」
→「2度目の救援が来ない」
→「一緒に残っていた警察の指示で職員が川内村に避難」
→「自衛隊と一緒に病院に戻ろうとする」
→「避難地域なので一緒に行けない」
→「自衛隊だけが救援に」
→「2・3回目の搬送の際、病院関係者は誰も現場に居なかった」(当たり前)
→「職員が患者置き去りで逃げたと福島県が発表」
→「報道各社が福島県発表に基づいてそのまま独自取材せず報道」

このような経緯によって、双葉病院の院長が「患者を見捨てて逃げるという、人道的に許し難い医師」として非難された。

有田芳生氏の「逃げるな!」発言

たとえば、有田芳生氏は報道をそのまま受け入れて以下のように感情的非難を行なった。

最後のツイートでリンクされているのはわたしのブログ記事(がBLOGOSに転載されたもの)だ。

もちろん、搬送中と搬送後合わせて多くの患者さんが亡くなったのは非常に悲しいことである。しかし、それを双葉病院の医師たちが最終段階で患者から離れていたからという理由付けをして双葉病院関係者を叩くのは絶対に間違っている。

地震発生からまる三日経った十四日に自衛隊の最初の救援があった。この時点まで病院関係者四人はその場にいたが、精神的な障害を抱えた患者を多数含む約百人の患者をまる三日間、少ない人数の職員が必死で支えてきたのである。設備や物資も万全ではない中、そこから搬送される途中や搬送後に亡くなる患者さんが出たのは、もはや誰にもどうしようのないことだったはずだ。特に食料や、輸液等の不足があったのではないかとも推測できる。実際、他の避難所でも、避難後に亡くなっている方は少なくない。

院長含むスタッフは、いったんは警察官の指示で避難したが、また自衛隊と一緒に現場に戻ろうとしてそれを阻まれた。最善を尽くしてなおあまりある行動を取っている。それを「患者を放置して逃げた、許せない」と非難するのは、人間として間違っていると私は強く思う。

双葉病院院長は取材に答えて、患者を残して避難したのは事実、と述べているが、それは医療関係者としての誠実さから、自省的に述べたものであると判断する。医療従事者として最後まで付き添えなかった無念さを述べているのである。そのように語ること自体、医療従事者としての誠意であると信じる。したがって、その言葉尻を捉えて「やっぱり逃げたんじゃないか」と責めるようなことは、人として決して行なうべきではない非人道的発言にほかならない。

福島「県」の「医療敵視」問題

今回の誤報騒動は、福島県の担当者が「事実なら許せない」という趣旨の発言をしたことがきっかけである。これに対して「また福島か」という声が(特に医療関係者を中心に)上がっていた。

今回の舞台となった双葉病院は、福島県双葉郡大熊町にある(双葉町の「双葉厚生病院」とは別の病院である)。大熊町――それは奇しくも医療の世界で大問題となった「福島県立大野病院事件」の舞台でもあった。

二〇〇四年十二月十七日、大熊町の福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡した。これに関して福島県調査委員会が「医療側に過失あり」と報告した結果、手術を執刀した産婦人科の医師一人が業務上過失致死と医師法違反の容疑で二〇〇六年二月十八日に逮捕された。

医療の世界において、この逮捕は激しく批判された。人を救うために努力している医療従事者であるが、どうしても医療上救えない事態が発生することは仕方のないことである。医師が最善を尽くした上での手術の失敗を「業務上過失致死罪」に問うことは、根本的に誤っている。もしこれが「罪」ならば、このようなリスクのある手術を引き受ける医師はいなくなるだろう。実際、この大野病院事件での逮捕後、産婦人科医減少に拍車がかかり、二〇〇五年から二〇〇八年までに一五パーセント以上も産科医療機関が減少したという事実がある。つまり、これは「医療崩壊」を促進したことで悪名高い事件なのである。

二〇〇八年八月、福島地方裁判所は医師を無罪とした。当然の判決であったといえよう。一方で、患者遺族の言動が「モンスターペイシェント」的であったというような批判も展開されている。

大野病院事件の直接的な原因となったのは、福島県による調査委員会だった。そして、今回の双葉病院「置き去り」報道においても、福島県の担当者による「もし高齢者だけを置いて避難したとしたら許せない」発言が批判的な報道を招いた。

「また福島か」――そのつぶやきはこれ以上繰り返されないでほしい。

不充分なメディアの反省

もちろん、マスコミは一枚岩の集団ではない。双葉病院に関する誤報については森功氏が当ブログとは別に取材を行ない、『なぜ院長は『逃亡犯』にされたのか』(講談社)を書いている(原発事故直後、「患者を捨てて逃げた」と報じられた院長たち。誤報道はなぜ起きたのか 双葉病院(福島・大熊町)の奮闘を 「逃亡犯」に変えた新聞・テレビ  | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]参照)。

しかし、今回の誤報についての名誉回復は、新聞各社の報道を見る限り、非常に物足りないものであった。

東京電力福島第1原発事故直後に、双葉病院(福島県大熊町)が入院患者を置き去りにしたかのような報道発表をした福島県が今年7月、県医師会に「病院側に事実確認しないで公表したことは適切でなくおわびする」などと、ミスを認め謝罪する文書を出していたことが分かった。

一か月以上経ってからの報道である。「医師会は県に対し文書で今年2月、誤発表で医療への不信感を招いたなどとして事実確認の公表を求めていた」というから、県自体が5か月も経ってから回答していたわけだが、県医師会が抗議しなければ医療不信を煽る発表についての謝罪はまったく行なわれなかった可能性がある。

県は「病院関係者は一人もいなかった」と誤った発表をし、病院関係者は「患者を置き去りにした」と非難された。

この毎日記事では福島県が悪いようなことを書いているが、毎日新聞も「東日本大震災:福島・避難の高齢者14人死亡 救助時、患者のみ82人--入院の病院 - 毎日jp(毎日新聞)」(現在記事はウェブ上に残っていない)において「医師、職員らは不在」と報じている。決して県の責任として押しつけることはできない。

それでもまだ、毎日は良心的である。読売と朝日はどちらも福島県による謝罪をオンライン記事として公開していない。

読売の場合、「福島・双葉病院、患者だけ残される : 医療ニュース : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞) 」記事は早々に削除されたが、YOMIURI ONLINEで双葉病院を検索すると、2011年3月・4月の記事(置き去りとは言っていない記事)が検索できる。ところが、今回の福島県による謝罪報道は、紙の新聞では報じられたが、YOMIURI ONLINEでは読むことができないのだ。

(報道自体があったことは、博文会ブログ  「双葉病院が患者置き去り」福島県誤発表認めるー8月31日読売新聞に新聞記事のキャプチャが載っていることからわかる)

また、朝日新聞では「朝日新聞デジタル:サイト内検索結果 - 無料記事で「双葉病院」として検索すると、2012年7月の「住民が置き去りにされた」検証記事と並んで、事故直後の二つの記事がそのまま残っているにもかかわらず、「福島県が謝罪」についての記事は検索できない。

いずれにしても、この誤報に関する新聞各社の態度は、まさに「誤報をそのまま置き去り」にするものであり、反省の色が見えないと言わざるを得ない。

「もし事実だったら許せない」

わたしたちは「もし○○が事実だったら××を許せない」という発言を根絶する必要がある。このように仮定の上で批判することは、事実かどうか確認しないで相手を叩く行為である。しかも「断定はしていない」という言い訳が可能である一方で、その言葉を聞いた人は「××さんが○○という許せない悪事を行なった」という印象を持つ。人を悪者にしておきながら責任逃れのできる、まことに卑劣な言い方であるといえる。

どうして「もし事実だったら」と言う前に、「××さんが○○というのは本当なのだろうか?」という疑問を示せないのだろうか。そして、本当かどうか確かめた上で「これは事実だと思う。それは許せない」と言ったとしても遅くはない。

「もし事実だったら許せない」という言い方は、その事実確認を飛ばす意識が生んだものである。つまり、事実か否かよりも「許せない!」と叩きたいという気持ちが先走っているのだ。だから、わたしたちはこの言い方を絶対に認めないことが必要である。

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