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【佐藤優の眼光紙背】尖閣問題をめぐり国際世論を日本に引き寄せる外交戦略を政治主導で構築せよ

野田首相と温家宝首相。(5月、AP/アフロ) 写真一覧
佐藤優の眼光紙背:第137回
 8月15日、尖閣諸島に香港の活動家等が上陸した。沖縄県警と海上保安庁が、日本国の出入国管理法に違反した容疑で14人を逮捕した。朝日新聞の報道を引用しておく。

尖閣、香港活動家ら14人逮捕 不法上陸容疑などで
 15日午後5時半ごろ、尖閣諸島の魚釣島に、香港の抗議船に乗ってきた活動家ら7人が上陸し、沖縄県警は同日、このうち5人を出入国管理法違反(不法上陸)の疑いで現行犯逮捕した。残る2人は抗議船に戻ったが、海上保安庁の巡視船が領海内で捕捉し、2人と船の同乗者7人の計9人を同法違反(不法入国)の疑いで逮捕した。外国人の尖閣上陸は2004年3月以来。
 県警や海保によると、14人はいずれも男で国籍は不明。尖閣諸島の領有権を主張する香港の活動家団体「香港保釣行動委員会」の抗議船「啓豊2号」で接岸した。「わずかな土地でも失うことはできない」などと書いた横断幕を掲げていた。
 抗議船は12日に香港を出港、15日午後3時51分ごろに日本の領海内に入った。同5時半ごろ魚釣島につき、はしごをおろして7人が上陸した。事前情報に基づいて島にあらかじめ上陸していた沖縄県警の警察官が退去するよう再三警告。警告に応じなかった5人を逮捕したという。
 5人は上陸後、岩場に中国国旗と台湾の旗を掲げていたのが確認された。逮捕時にも国旗や「保釣連合」と書かれたのぼりなどを持っていた。逮捕される時も特に抵抗はせず、武器は所持していなかったという。
 海保関係者によると、海保や警察庁、外務省などは抗議船の香港出港後から対応を協議し、事故でけが人が出るような事態を回避する方針を確認。抗議船が領海に入った後も、海保の巡視船は放水や横からの接触などの対応にとどめ、針路を遮るなどの強制的な措置は見合わせていた。
 5人を乗せた海保の巡視船は16日朝にも那覇市に着く予定。04年3月に中国人が尖閣諸島に上陸した事件では、県警が7人を逮捕。入国管理局に引き渡され、強制送還された。
 沖縄県警の比嘉善雄警備部長は今回の5人の身柄についていったんは「沖縄本島に到着後、送検する」と話したが、県警広報は「送検するかどうかも含めて検討中」と訂正した。
 新華社電によると、中国外務省は15日、尖閣諸島に上陸した活動家らが逮捕されたことについて日本側に申し入れを行った。(8月15日、朝日新聞デジタル)

 尖閣諸島は、日本が実効支配するわが国の固有の領土である。日本の出入国管理法に違反した外国人(国籍不明者を含む)を警察と海上保安庁が逮捕するのは当然のことだ。朝日新聞は、<沖縄県警の比嘉善雄警備部長は今回の5人の身柄についていったんは「沖縄本島に到着後、送検する」と話したが、県警広報は「送検するかどうかも含めて検討中」と訂正した。>と報じているが、法令違反が、不法入国、不法上陸だけで公務執行妨害や器物損壊などが加わっていないならば、先例に照らして逮捕された外国人を日本国外に強制退去させるということなのであろう。ここで重要なのは、送検の有無ではない。日本国の法令が適正に適用されることだ。沖縄県警、海上保安庁はきちんと職務を遂行している。

 問題は外務省だ。このような事態が生じないように、在中国大使館、在香港総領事館に勤務する日本の外交官・領事官は、中国当局に働きかけ、実効性のある措置を取らせるべきだった。もっともそれができないというのが、現下外務官僚の実力なので、強力な政治主導で、尖閣に対する日本の主権を維持する方策を考え、実施しなくてはならない。

 現下の情況で念頭に置かなくてはならないのが、尖閣問題と竹島問題のリンケージだ。

 竹島はわが国固有の領土であるにもかかわらず、韓国によって不法占拠された状態にある。韓国は、「独島」(竹島に対する韓国側の呼称)は歴史的にも国際法的にも韓国領なので、日本との間に領土問題は存在しないという姿勢を示している。そして、韓国は竹島問題をめぐる日本との交渉に一切応じていない。このような現状を切り崩すために、日本は以下の論理を用いている。

 領土問題に関して、

 1.双方が領土問題が存在していないとする場合、領土問題は存在しない、

 2.双方が領土問題が存在するとしている場合、領土問題は存在する(北方領土に関しては、日露両国が領土問題の存在を認めている)

 3.一方が領土問題は存在するとし、他方が領土問題は存在しないとする場合、客観的に見て領土問題は存在する。


という3つのケースが存在する。竹島問題に関しては3.に該当する。日本は領土問題が存在すると主張し、韓国は領土問題が存在しないと主張している現状を、第三者が客観的に見る場合、領土問題が存在することになる。それだから、ICJ(国際司法裁判所)への提訴を含む外交交渉を日韓両国が行うべきである。

 このような日本の主張は、国際的に説得力を持つ。

 尖閣問題に関し、日本は領土問題が存在しないと主張し、中国と台湾は領土問題が存在すると主張している。客観的に見れば、3.のケースに相当する。国際社会から、日本が竹島問題と尖閣問題でダブルスタンダード(二重基準)を用いていると認識され、日本の誠実さが疑われる危険が存在する。この危険を回避するための外交戦略を外務省が考えているとは思えない。

 結果として、尖閣の主権を維持し、竹島の主権回復を図る外交戦略を政治主導で構築する必要がある。中国が、尖閣諸島の領有権を主張してきた場合、日本は恐れることなく交渉に応じるという方針に転換すべきだ。そして外交交渉の場で日本が中国に対して、「歴史的にも国際法的にも尖閣諸島が日本領である」と毅然と主張し、これを国際社会に対して発表すべきだ。尖閣を巡っては、逃げ腰の姿勢ではなく、外交交渉の場で日本の立場を理路整然かつ毅然と主張することがわが国益に適う。(2012年8月15日脱稿)

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プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「功利主義者の読書術 (新潮文庫)」がある。

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