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【佐藤優の眼光紙背】李明博韓国大統領が『光復節』の演説で竹島に言及しなかったことの真意を見誤ってはならない。竹島返還国会決議と『竹島の日』の全国化で反撃せよ

「光復節」で演説する李明博大統領。(15日、ソウル、AP/アフロ) 写真一覧
佐藤優の眼光紙背:第136回
 8月15日、韓国の李明博大統領が「光復節」の演説を行った。「光復節」とは、1945年8月15日の日本の敗戦を韓国では日本帝国主義による植民地支配が終焉し、独立を回復したことを記念する祝日である。本日の演説で、李明博大統領は竹島問題に言及しなかった。このことをもって一部に李明博大統領が対日姿勢を軟化させたという見方があるが、筆者はそのような見方には与しない。むしろ竹島問題については必要かつ十分な発言を済ませたので、別の点から日本を包囲することを李明博大統領は意図していると筆者は見ている。

 特に慰安婦問題に関して、日韓の問題としてだけでなく、戦時の人権問題であるという認識を示し、日本の責任を追及するという枠組みを作ろうとしている。警戒心を高めなくてはならない。ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)と慰安婦問題を同一視し、国際的に日本を包囲していくという動きだ。

 8月10日に李明博大統領が竹島に上陸したことで、日韓関係は構造的に変化した。「光復節」演説で、日本が過去の歴史の遺産を清算しないことが、北東アジア地域の足並みを乱しているという指摘も、尖閣問題、北方領土問題を念頭において、「日本が軍国主義的過去を清算しないので地域情勢が混乱している」という論理に基づいている。李明博大統領は、国際世論を味方につけ、対日包囲網を形成するためには、公式の場で、世界から注目されている「光復節」演説の場では、竹島問題に言及しない方がよいという戦術的配慮をしたと見るのが妥当であろう。今後も李明博政権の対日強硬姿勢は変化せず、竹島をめぐっても対日攻勢を強めると冷徹に認識しておく必要がある。

 李明博大統領の反日的動静を看過してはならない。日本国家が一体となって、迅速に目に見える形での反撃を行わなくてはならない。ここで重要なのは国権の最高機関である国会の動きだ。衆議院、参議院がただちに「竹島返還に関する国会決議」を採択することが効果的だ。去る8月10日、韓国の李明博大統領が竹島に上陸した。竹島は島根県に属するわが国固有の領土である。韓国政府は以前から「独島(竹島に対する韓国側の呼称)は、歴史的にも国際法的にも韓国領である。独島を韓国が実効支配しているので、日本との間に領土問題は存在しない」という立場を取っている。しかし、韓国が領土問題は存在しないと主張しても、日本は存在していると主張しているのだから、客観的に見て見て竹島をめぐる領土紛争が日韓間に存在する。歴代の韓国大統領は、対日配慮から竹島上陸を差し控えていた。しかし、今回、李明博大統領は、最後の一線を踏み越えるという決断をした。李明博大統領の反日演説も、竹島をめぐる韓国の態度硬化と同じ文脈の出来事である。

 日本も韓国に対して、相互主義の原則で対応すべきだ。日本外務省は、その存在を強調しないが、1965年6月22日、日本と韓国の外務大臣間で交換された「紛争の解決に関する交換公文」という名の重要な外交文書がある。椎名悦三郎外相と韓国の李東元外務部長官の間で、「両国政府は、別段の合意がある場合を除くほか、両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとし、これにより解決することができなかつた場合は、両国政府が合意する手続に従い、調停によつて解決を図るものとする。」という合意がなされた。衆参両院が「竹島返還に関する決議」を採択し、政府に対して日韓間の紛争である竹島問題の外交交渉による早期解決を要請すべきだ。

 それとともに島根県の条例(2005年3月25日島根県条例第36号)により定められた2月22日の「竹島の日」を全国規模に拡大する決定を政府は至急行うべきだ。日本政府は、1905年(明治38年)1月28日に竹島を島根県に編入することを閣議決定し、同年2月22日に島根県知事が所属所管を明らかにする告示を行った。2005年に島根県議会は、この年が竹島に関する閣議決定と島根県告示から100周年にあたることを記念して、同年3月16日、2月22日を「竹島の日」とする「竹島の日を定める条例」を制定した。「竹島の日」を全国化することで、竹島の領土権の早期確立を目指した運動を推進し、竹島問題についての国民世論の啓発を図る姿勢を、日本の政府、国会と国民が一体になって示すことが重要だ。

 もちろん韓国は、日本が竹島返還国会決議と「竹島の日」を全国化すれば、激しく反発するであろう。韓国が反発すれば、反発するほど、国際社会において「竹島の帰属をめぐる日韓の紛争が存在する」という認識が強まる。そうなると韓国は「独島をめぐる領土紛争は存在しない」という立場を堅持することができなくなり、竹島問題に関する日本との外交交渉を余儀なくされる。韓国を袋小路に追い込む外交戦略を構築することが重要だ。(2012年8月15日脱稿)

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プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「功利主義者の読書術 (新潮文庫)」がある。

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