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【佐藤優の眼光紙背】李明博韓国大統領の暴言を封じ込める現実的方策を外務省は考えよ

天皇皇后両陛下を訪問する李明博大統領。(2008年、AP/アフロ) 写真一覧
佐藤優の眼光紙背:第135回
 8月14日、韓国の李明博大統領が、日本に対して天皇陛下の訪韓条件として謝罪を求めた事実があるという情報を韓国大統領府が流布した。不愉快きわまりない話だ。朝日新聞の報道を引用しておく。

「天皇訪韓、謝罪するなら来なさい」 韓国の李大統領

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は14日、「(天皇は)韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさいと(日本側に)言った」と述べた。大統領府によると、現職の大統領が公の場で天皇の訪韓条件として謝罪を求めるのは初めて。

 李大統領は10日に韓国大統領として初めて、日韓がともに領有権を主張する竹島(韓国名・独島=トクト)を訪問し、その後も対日批判発言を続けている。だが、天皇の謝罪にまで言及したことで、日本側の反発は一層強まるのは必至だ。

 大統領府によると、忠清北道・清原で開かれた教員を対象としたセミナーで、出席者から竹島訪問の所感を尋ねられ、語った。

 李大統領は、1990年に当時の盧泰愚大統領が来日した際、天皇が述べた「わが国によってもたらされたこの不幸な時期に、貴国の人々が味わわれた苦しみを思い、私は痛惜の念を禁じえません」との「お言葉」にも触れ、「『痛惜の念』なんて言葉一つ持って来るなら(韓国に)来る必要はない」と語った。

 竹島への上陸や一連の日本批判を続ける理由について「日本が加害者と被害者の立場をよく理解できていないから、わかるようにする」と語った。

 また、竹島訪問は「2、3年前から考えていた。即興的ではなく、深く配慮し、副作用があることも(検討した)」と述べ、日本との関係悪化を覚悟した上での言動であることを明らかにした。(ソウル=箱田哲也)(8月14日付、朝日新聞デジタル)

 日本政府が韓国政府にお願いしてまで、天皇陛下の訪韓を実施する必要はない。天皇陛下は日本国家と日本国民を統合する象徴だ。李明博大統領の「『痛惜の念』なんて言葉一つ持って来るなら(韓国に)来る必要はない」という発言が事実ならば、日本国家と日本国民に対する侮辱だ。断じて受け入れることができない。李明博大統領は、8月10日の竹島上陸、14日の天皇陛下に対する暴言、さらに本15日に行うであろう反日演説で、日本との関係を決定的に悪化させた。李明博大統領は、もはや現実的に対日外交を行うという発想を捨てている。日本に対し厳しい態度を貫いた反日民族主義者として、韓国の歴史に名前を残すことが李明博大統領の目的なのであろう。

 李明博政権下の韓国とは、日本国家の名誉と尊厳を賭して、対決を辞さないという基本方針を外務省は組み立てるべきだ。しかし、以下の朝日新聞の報道を見る限り、外務官僚が玄葉光一郎外相を真剣に支えているとは思えない。

玄葉光一郎外相は14日、韓国の李明博大統領の発言について「報道は承知しているが、私は(報告を)一切聞いていない」と述べるにとどめた。

 外務省幹部は「個人的な思いを言ってしまったのではないか」と不快感を示し、大統領の竹島上陸で一気に悪化した日韓関係への影響を懸念。首相周辺は「日韓で天皇陛下の訪韓についてやりとりしたことがないので唐突な感じだ。非難の応酬にはしたくない」と戸惑いをみせた。(8月14日付、朝日新聞デジタル)

 玄葉外相が述べた「報道は承知しているが、私は(報告を)一切聞いていない」という内容が事実ならば、外務省の情報収集能力に深刻な欠陥があるということだ。玄葉外相は、過去の日韓首脳会談の記録を読んでいるはずだ。筆者が、日韓首脳会談の内容を知る立場にいる政府高官から聴取したところでは、李明博大統領が野田佳彦首相に対して「(天皇は)韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさいと(日本側に)言った」という事実はないということだ。なぜ外務官僚は、玄葉外相に対して、「われわれはマスメディアを通じた外交はしない。しかし、日韓首脳会談で李明博大統領が報道されたような内容の要請を行った事実はない。一般論として、事実無根の話しをする人と外交交渉はできない」という反論をすべきだとアドバイスしないのか。理解に苦しむ。

 外務官僚は、9月、ロシアのウラジオストクで行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合の際に予定されていた日韓首脳会談を延期することを考えているようだが、大きな間違いだ。日韓首脳会談の席で、野田佳彦首相が李明博大統領に対し、竹島が日本の領土であるというわが国の立場、並びに李明博大統領の一連の反日発言が、一方的な歴史観に基づく侮辱的なトーンで日本として受け入れることはできないと毅然と伝えるべきだ。また、両首脳の合同記者会見を行い、その席で、野田首相が李明博大統領に対して「竹島は日韓の紛争になっているので、外交交渉によって解決しよう」と呼びかければよい。そうすれば、国際社会に竹島を巡る紛争が日韓に存在するという印象を強く植え付けることができる。

 嫌な大統領に指導されていても韓国は隣国だ。お互いに引っ越すことはできない。外務官僚は、日韓首脳会談を延期し、逃げるという姿勢を改め、李明博大統領の暴言を封じ込める現実的方策を考えるべきだ。筆者の考えでは、「李明博大統領の感情的発言の結果、国際的に独島(竹島に対する韓国側の呼称)問題が領土問題と認識されてしまった。その結果、韓国は日本との交渉を余儀なくされた。李明博大統領は、独島問題で日本にとってつけ込む隙を与え、韓国の国益を毀損した」という状況を、9月のウラジオストクAPECサミットでつくり出すことが、李明博大統領と韓国外交に対する最大の打撃になる。(2012年8月15日脱稿)

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プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「功利主義者の読書術 (新潮文庫)」がある。

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