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音楽プロデューサー・佐久間正英氏が語る「音楽業界の危機的状況」

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今のうちに何とかしないと手遅れになる

—これから音楽に触れることになるような子どもたちにとっては、いい時代なんでしょうか。そうではないのでしょうか。

佐久間氏:いや、音楽を始めるには、どの時代も、いい時代も悪い時代もないと思いますね。ただ、僕の若い頃に比べて、今は情報が簡単に入る分ラッキーですが、その分、勘違いしやすいという面ではアンラッキー。でもそれは、情報を整理して、どう自分のものにしていくか、それも含めて個人の力量だから、それでダメならどうやってもダメなわけで。同じ時代を同じところで生きていても伸びる子はすごくなるわけです。

総じて良くなることなんてあり得なくて、抜きん出た子も抜きん出方がどうかっていう。今は抜きん出方のピークが小さいなと。相対的にレベルをあげるなんて言うのは無理ですね。

—たしかに、情報量が多すぎて、どれを聴いていていいのか分からないっていうのがあるのかもしれないですね。

佐久間氏:例えば、インディーズの音源をダウンロードできるサイトにいっても、たくさんありすぎて、片っ端から聴いて好きなのを探せと言われても、探しようもない。じゃあ、いいや、買わないや、ってなっちゃうんです。

そういう意味で、A&R(編集部注:アーティストや、アーティストに合った楽曲の発掘や育成、契約を行う職種。)の役割は今までよりも、さらに重要になってきていると思うんです。レコード会社でそういうノウハウを持っていた人が、レコード会社がだめになったからってやめちゃわないで、そのせっかくのノウハウをそういうところにどんどん活かすことができるシステムができていくといいなとは思うんです。

—逆に、大ヒット、ミリオンセラーが出なくなったという話があります。

佐久間氏:ミリオンなんて出なくなるに決まっているんですよ。僕の考えを言えば、ミリオンが出るような時代っていうのは、みんなが共通の情報を持ちたい時ですよね。あの子が聴いているから私も、みたいな。そういう時期なだけで、それが個に向かった時代には絶対ミリオンは存在しない。100万枚売れるアーティストが1組出るより、1万枚売れるアーティストが100組出たほうが文化的には正しいと思う。

—好みが細分化されているというということは、それぞれのジャンルで、チャンスがあるということも言えますよね。

佐久間氏:そうだと思う。ただ、いつの間にか気付いたら1万枚売れるのが100組ではなくて、100枚しか売れないアーティストが1万組になっちゃったっていうのが今の状況ですよね。

—“表現”と”娯楽”の両立が難しくなっているということはありますか?

佐久間氏:実際には、ちゃんと表現できていればそれがエンターテインメントになる。半端だからエンターテインメントにはならないっていうだけだと思うんですけど。

—以前、坂本龍一さんが、CDが売れない現状について、これからはパッケージされたアウトプットより、ライブパフォーマンスにも注力したほうがいいんじゃないかという主旨の発言をされたことがありました。

佐久間氏:収入のバランスをとるには、今ビジュアル系の人たちがやっているような形が一番いいとは思います。ライブとグッズで。CDはおまけに近いようなスタイル。それでリクープすればいいっていう考えがある気がします。

でも僕はそうではないだろうなって思うんですよ。ライブを見られるのは僅かな人々と少しの時間です。実際には多くの人はヘッドホンで音楽を聴き、家で音楽を流し、ということをやっている。もし新しい録音物が作れなくなってしまったら、みんな昔のものしか聴けなくなってしまう。

—最近では、握手券目的で大量のAKB48のCDが購入され、そして捨てられている、ということについての議論がありました。CDの中に入っている、音楽を作っている人々からしたら、どういう思いなんでしょうか。

佐久間氏:あれは、捨てられようが何をされようが、あの”パッケージ”が売れることが目的なので、CDを捨てるなんて、みたいな気持ちは全然無いですね。あの場合、そこではCDは”包装の一部”だと思うので。他のものが欲しくて、おまけでCDがついてきているということです。例えば、本を買っておまけでCDがついてきたとして、CDに興味が無い人は捨てますよ。それと同じことであって、商売としてずるいも何もないとぼくは思うんです。

—リスナーが今後考えていかなければならないことは。

佐久間氏:音楽を作る人間が真摯な態度で、それと同時に、届ける人間もちゃんとしたいい音楽を手がけていけば、どうもしなくていいと思うんですよ。

それを聴いていればもちろん人も変わってくるわけで。大衆が音楽をダメにするわけでもないし、音楽をダメにしているとしたら、それはやはり音楽家、あるいは音楽を出す人たちなんじゃないかなと思うんです。

—そうした危機感を踏まえて、廃れようとしているノウハウをなんとかとしなければならないと問題提起されたと。

佐久間氏:今のうちに何とかしないと手遅れになっちゃうぞと。それは業界を守るためでも、ビジネスのためでもなくて、音楽を守るため。それは僕だけではなくて、僕の周りの友達のプロデューサーと話をしていても、「音楽を諦める時」だっていう雰囲気がするんですね。やめちゃおうかなって。

僕は音楽はやめないけど、このまま関わっていくのは悲しいなっていう。そこまでしてやりたくないし、ほかのバイトをしてもいいやみたいな。そのくらいどうしようもない危機的な状況にある。僕がああやって書きましたけど、僕自身が音楽を一切やめる気なんか無くて、ただ、職業としての関わり方はだんだんバカらしくなってきてしまって。もちろん頑張らないといけないんですけど。夢の様な時代が来るまでは(笑)。

—AKB48のCDの話も、佐久間さんのエントリをめぐる論争も含め、みんな音楽が好きで、だからこそ熱く議論になるのだと思いました。

佐久間氏:それは明るい兆しというか、そんなに悲観的になることではないじゃんっていうことだとも言えるかもしれませんね。

—そんな中で佐久間さんがあえて声を上げられたからこその、今回の大きな反響だと思います。このインタビューにも、きっと色々なコメントがつくと思うのですけど(笑)。

佐久間氏:いい意味でも悪い意味でも(笑)。今回の記事もいろんな捉え方されちゃうだろうしね(笑)。

—今日はありがとうございました。(6月22日、佐久間氏の事務所にて)【編集部 大谷広太・田野幸伸】

プロフィール

佐久間正英(さくま まさひで)
1952年東京生。四人囃子・PLASTICSを始めNiNa, The d.e.p. などのバンドの主要メンバー。また、プロデューサーとしては1979年、P-MODELのプロデュースで活動を開始。以後SKIN, BOOWY, The Street Sliders, Up Beat, The Blue Hearts, 筋肉少女帯, Jun Sky Walkers, 氷室京介, JUDY AND MARY, GLAY, Hysteric Blue, 175R 等々その仕事数は140アーティストにのぼる。また、映画音楽、TV-CM等の音楽、作曲家・アレンジャーとしての仕事も幅広く手掛けている。

Vitamin Publishing Inc.
佐久間 正英 - Facebook
@masahidesakuma - twitter
Masahide Sakuma - ブログ

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