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音楽業界に辞めてもらいたい、いくつかの売り方

ダウンロード違法化などの問題で音楽産業・音楽業界のあり方が逆に問われる状況になっているが、今回は個人的に「こういう売り方はやめてほしい」と常々思っていることをいくつか挙げてみたい。これは、周辺的にではあるがアーティストの公式ファンクラブに関わった経験とそのとき観察したことに基づいての思いである。特にここ10年足らずの「CDが売れなくなってきた」時代においてレコード会社としてはやむなく選んだ戦略について、それがまたファンを離れさせる原因にもなっていると感じている。

以下、特に大手レコード会社の方向性としてよく見られるものである。もちろん、「いい音楽をリスナーに届けたい」という思いはすべての業界人に共通しているだろう。ただ、マネタイズの方法に難があるということは伝えたい。

ベスト盤を頻発しすぎ

シングル盤とLPアルバムが完全に別のものだったアナログレコードの時代には、アルバムはコンセプトを持った新曲集でシングル曲は入らず、たまにシングルのみを集めたアルバムが出る、ということが多かった。そんな時代であれば「シングルベスト盤アルバム」には大いに意味がある。

しかし、いまや8cmシングルCDもなくなり、マキシシングルとして2曲+そのカラオケを入れるのが普通になっている。そうするとフルアルバムとの見かけ上の差はほとんどない。ただ違うのは曲数と値段である。

そんな状況の中、CDが売れないことからの資金不足によって、大手であってもレコード会社は制作費をかけられなくなってきている。作曲家に新曲を依頼するだけの体力が失われてきているのである。しかし、定期的にCDを出さなければファンは離れていく(という強迫観念がある)。そこで結局、全新曲のオリジナルアルバムはほとんど作られず、ベスト盤ばかりが増えることになる――新曲を1、2曲入れることで、今までのCDを買った人もベスト盤を買い直さねばならないように仕向けて。もちろん、ベスト盤は過去に売れ行きのよかったシングル曲などを収録することで、販売側としては「従来のファンにも、これから入ってくる新規客にも」売ることができる、という皮算用がある。

だが、ファンの声としては「またベスト盤かよ」という声が高まってきてしまう。既存のファンにとっては「新曲一曲のためにすでに持っている曲を抱き合わせ販売されている」という気にもなってしまうのだ。その不満を解消する方法が「別アレンジ」ならまだしも、「デジタルリマスタリング」で済まされてしまうと腑に落ちない。

新規ファンを開拓するための「全部既存の曲」のベスト盤の方がまだすっきりしている。しかし、下手に新曲を一、二曲入れたベスト盤を頻発することによって、「二兎を追う者は一兎をも得ず」の結果に終わっている。

(ここでは移籍に伴うベスト盤については触れない)

カバーに頼りすぎ

ベスト盤と同様の理由で生み出されているのが「カバーアルバム/カバー曲の頻発」である。アーティスト自身が作詞作曲をするにしろ、作曲者に依頼するにしろ、アルバムの全曲で一から新曲を依頼することは難しい――ということはベスト盤の事情でも述べたとおりだ。そこで「自分自身の過去の曲を再収録」と違う方法を採ろうとすれば、当然「ほかのアーティストの過去の曲をカバーして収録」ということになる。こうして、全部他のアーティストの楽曲による「カバーアルバム」が出たり、あるいはカバー曲を増やしたりする企画が出てくることになる。

カバー曲には大きなメリットがある。カバーするくらいだから、原曲はもちろんいい曲である。それにすでに知っている人も多い。つまり、曲自体のハズレはなく、無難に一定レベルを担保されているのである。

もちろん、カバー自体が悪いわけではないが、あまりにもそれに頼りすぎるようになると「そのアーティストの持ち歌」が増えないことになる。そして、ファンも「またカバーか」と思うようになってしまう。

最悪なのは、「アルバムコンセプトを無視して、そのとき流行りの曲を強引にカバーで入れてしまう」ことである。そうでもしなければ売れない、という焦りが、「アルバム全体の流れを一曲でぶちこわし」という結果を生んでしまう。その結果、ファンが離れていく。

ぶつ切りCM

音楽の消費のされ方も変わってきた。一曲単位でダウンロード購入できる。その音楽データを「シャッフル」してランダムな順序で聴く――iPod Shuffleはその典型的な形だろう。このような音楽消費スタイルは、従来の「一つのコンセプトを持ったアルバムを一曲目から順を追って聴く」というスタイルとまったく異なるものである。その結果、アルバムからはコンセプトが失われ、ベスト盤やカバーアルバムの跋扈を許す結果となったともいえる。

もちろん、「アルバム単位ではなく個々の楽曲が売り」というだけならそれはそれで自然な変化である。だが、「個別の楽曲が売り」なのに「アルバム」というパッケージで売らねばならないことからいろいろな矛盾が生じている。

その典型例が、わたしの生理的に受け付けない「ぶつ切りCM」である。15秒または30秒の間に、一つのアルバムに収録された曲を3曲も4曲も流す。それもぶつ切りで曲のつながりも何もない。ただ「みんなの知ってるこの曲も、あの曲も、このCDに入ってるんですよ」と伝えようとしている。もちろん、それはCDとして売り出されたり、テレビ番組等のタイアップ曲・テーマ曲となったものを収録している「完全新曲というわけではないアルバム」だからこそ成り立つわけだ。

このぶつ切りはとにかく生理的に受け付けない。そんなふうに細切れにされた楽曲をぶつ切りで並べられては、せっかくのいい曲も台無しである。ましてや、そのぶつ切りCMを2回連続で流されるともう耐えられない。わたしはそういうCMが流れた途端に買わないことを心に決めてしまう。せめてメドレー的に、もしくはDJ的に、うまくつなぎ合わせてもらいたい。さもなくば、一曲を選んで15秒じっくりとサビを聴かせてもらいたい。

そもそも、コンセプトアルバムであればそういう聴かせ方はしないはずである。

オリコン至上主義の行き詰まり

CDを買うことが発売イベントやミニライブなどでの握手権(一回握手する権利)と引き替えになる。それ自体は以前からある形であるが、その主従が逆転すると問題だ。CDの売上を伸ばすために握手会つきのイベントを多数仕掛けたり、コンサート会場でCDを買った人のみ参加できるライブ終了後の握手会を開いたりする。

もう一つ、ここで絡んでくるのは、同じCDなのに「初回限定盤(CD+DVD)」「通常版(CD+DVD)」「通常版(CDのみ)」というように3種類出し、そのジャケットも少しずつ変えることによって、熱心なファンに(ほぼ)同じものを2点3点と買わせようとする戦略である。もちろん「DVDも要る/耳で聴くだけだから別にDVDは要らない」という好みはあるが、それによってCDだけで安く買いたい層を開拓するというより、今の方法は「熱心なファンに3倍買わせる」戦略となってしまっている。

握手権にしろ複数バージョン同時発売にしろ、熱心なファンに同じものをいくつも買わせようという戦略であるが、これは「多くの人に聴いてもらいたい」という目的がいつの間にか「枚数を多く売らなければならない」にすり替わった結果だ。

それが行きすぎると、CDを買うことによって投票権を買うという「AKB48商法」になる。ここではもはやCDの売上枚数は「それだけ多くの人に聴かれた」ということをまったく意味しないものとなってしまっている。

そこまでしてなぜ「CD」にこだわるのか。なぜ「握手会参加チケット」や「一票」を単体で売り出すことができないのか。答えは一つである。オリコンランキングがCDの売上によって左右されているからだ。

オリコンランキングをつり上げるために、同じCDを何種類も出し、イベントで握手と引き替えにCDを売り、さらにはCD販売枚数を極大化させるために総選挙イベントを開催する。CDはもはや「オリコンランキングを買うための通貨」としかみなされていない。熱心なファンならアーティストを応援する意味もあって費用を惜しまずつぎ込むだろうし、そこに快感があるというのも事実だが(そして秋元康はその蕩尽欲求につけ込む天才である)、その蕩尽に疲れたファンは最小限の投資で済ませようと考え、結果として「無料で聴ける」ものに流れていく。もしくはファンであることをやめていく。

その結果、音楽ファンに対して「CDの中身より数なのかよ」という印象を持たせているのもまた事実である。

熱心なファンに依存する構造

CDあるいはダウンロード販売に対してお金を出さない人も増えた。一方でもちろん、武道館やドーム公演を満杯にするアーティストも多い。コンサート/ライブとCDのどちらで収益を上げるかというのはレコード会社やプロモーターの考え次第だろうが、今、CDで収益を上げるのは難しくなってきており、必然的にライブに頼らざるを得ない。そのライブも入場券だけではまかなえず、結局は会場でのグッズ販売に注力することになる。

公式ファンクラブではさらに深刻な問題がある。再販制度対象のCDに対して割引を行なうことができない以上、ファンクラブの最大の特典は「コンサートチケットの優先割り当て」である。それ以外にファンクラブ特典として作れるのは「ファンクラブ会員限定イベント」や「海外公演への同行ツアー開催」などである。会報やファンクラブ会員限定グッズ、こまめな情報提供も必要だが、これで利益を確保するのは難しい。それどころか、中小規模のファンクラブでは会報だけで赤字かトントンというレベルだったりもする。

結局、ファンクラブ会員限定イベント等で熱心なファンにつぎ込ませないとファンクラブそのものが成り立たない、という結果に終わる。もちろん、熱心なファンは「自分がファンクラブを支えている、ひいてはアーティストを支えている」という「貢献」を最大の喜びとするので取引は成り立っているわけだが、そういった熱心なファンも無尽蔵に資本を投入できるわけではないし、少数の濃いファンが「そんなに金銭的余裕のないファン」からやっかまれたりもするようになって、悪循環に陥りがちである。

かといって、ファンコミュニティをオフィシャルが運営することを手放せば、そのアーティストの盛り上がりを作り出すのは難しい。ソーシャルメディアといえども、公式による運営がなければ「動員」を引き起こすことは困難である。

こうやって書き連ねてくると、今の音楽業界が一生懸命「売る努力」をしていることは間違いない。しかし、その売る努力そのものがファンに無理な購買を強いる結果、疲弊させ、結局は音楽離れを加速させているという皮肉な結果になっているとも思われる。

2000年ごろの中国では「CDは無料で配布して知名度を高めるためのもの、収益はそれでライブに客を集めて回収する」というモデルがあったようだ。そうしろというわけではない。だが、CDの売上がなければオリコンランキングで認められず、売れていると認識されずに埋もれてしまう、だからとにかくCDを売らなければ――というような強迫観念は、そろそろ振り払ってもいい頃合いではないかと思う。

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