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イノベーションというのは、1000の可能性に『ノー』ということ

「イノベーション」と「集中と選択」が経営にとって重要な時代だといわれています。それに関して、アップルのスティーブ・ジョブスがナイキのCEOマーク・パーカーに電話でアドバイスした言葉ですが、「イノベーション」と「集中と選択」の関係を示唆する奥が深い言葉です。

日経の電子版で、Forbsの記事にあったのですが、まだ邦訳されていないスティーブ・ジョブズ、イノベーションの秘密』(The Innovation Secrets of Steve Jobs)の作者カーマイン・ガロが書いた記事です。
ジョブズ氏が言う「つまらないものは捨てろ」の意味  :日本経済新聞 :

イノベーションに関しては、現在は富士通総研理事長に就任されている野中郁次郎先生に代表される考え方があります。イノベーションや戦略は『創発』されてくるもの、つまり現場から自然に生まれてくるものであり、人材と情報のかけ合わせによって『創発』されてくる環境をつくることが大切だというものです。この考え方を全面的に経営に取り入れたのがSONYの会長であった出井さんでした。経営者としてはずいぶん観念的で難しいことをおっしゃると当時は感じたものでした。

この考え方で、よくでてくる比喩はカンブリア紀の爆発です。およそ5億年以上前のカンブリア紀に突如としておびただしい生物の種類が生まれます。実際にはそれよりもさらに過去に生物の多様化は起こり、カンブリア紀は、地層からの化石で確かめられた最も古い時代だということだそうですが、ある時に、地球のなんらかの変化で、遺伝子のかけ合わせと進化が猛烈に起こり、新しい生物が次々に生まれていった様は、まるで現代の情報化社会、ポスト工業化社会のあり方に似ているからでした。

しかし、「創発」という発想は事業の拡散をも意味します。どんどんイノベーションが起こり、事業が広がり、やがて収拾がつかなくなる状況をも生み出します。

今日のように激しい、しかもビジネスの仕組みと仕組み、ブランドとブランド、商品やサービスだけでなく企業力と企業力の競争が起こってきたなかで、どの分野を選び、経営資源を集中させるかという課題が生まれてきたのも当然です。いかに「イノベーション」が起こる環境をつくることと「集中と選択」は一見すると対立するベクトルを持っているようですが、ジョブスは見事に両立させています。
「“集中する”というのは、集中すべきものに『イエス』と言うことだと誰もが思っている。だが本当はまったく違う。それは、それ以外のたくさんの優れたアイデアに『ノー』と言うことだ。選択は慎重にしなければならない。私は、自分がやってきたことと同じぐらい、やらなかったことに誇りを持っている。イノベーションというのは、1000の可能性に『ノー』ということだ」
このジョブスの言葉で気をつけなければならないのは、ジョブスはアイデアが生まれてくることを否定し、制限しているのではなく、たくさん出てきたアイデアをどのように選択するかが経営として重要だといっていることです。

多くのアイデアを生み出す、しかしその選択は慎重に行う、素晴らしいアイデアでも企業が本気でチャレンジしようとしているものでなければ、捨てる。言葉で言うのは簡単ですが、大変な勇気と見極める目が必要です。

この記事にあるように「アップルのイノベーションを支える基本原則は誰でも学ぶことができるが、それを行動に移す勇気を持ち合わせた企業は少ない」のが本当のところでしょう。

同じく日経に、ホンダの子会社の商社がシラスの取引で不正売買を重ね、150億円の損失を生んだことが報じられていますが、なぜホンダがシラスを買い付け売る商社の事業に手を出していたのかに驚かされましたが、なんら強みもなく、必然性もない本業とは無縁な事業を広げることはホンダに限ったことではありません。

そこに感じるのは戦略で経営が決められておらず、損しなければやるという発想です。だから小さな企業のイノベーションもその企業と提携するのではなく、平気で模倣し、その市場を奪うということも少なくありません。

そういった戦略なき事業の拡大はやがて経営の緩みともなってきます。

シラスにはまったホンダ 巨額損失はこう生まれた  :日本経済新聞 :
日本の多くの企業には、横並びの「赤信号みんなで渡れば怖くない」という体質があることは否定できません。

新しい分野を創造する、あるいはトレンドをつくることには不得意です。だからアップル流の自らが考え、もとめる価値づくりに『集中』することは不得意です。しかしトレンドが生まれるとそこに殺到し、イノベーションを競いあうパワーは、凄まじいものがあります。

その意味では、アップル流の自ら市場をつくりだすのではなく、なにかトレンドをつくり、そこに多くの企業が殺到する状況ができたほうが、活力を引き出せるのかもしれません。

自然エネルギー発電事業へ、具体的なエネルギー政策が決まっていないにもかかわらず、そこに大きなビジネスチャンスが生まれることを確信した企業が、つぎつぎと名乗りをあげ、構想を発表し始めました。日本型の経営にとっては絶好の条件が整ったということでしょう。そうなると企業の利益をも犠牲にしてまでもイノベーションを追求し、激しい競争にむかうのが日本の多くの企業であり、実際イノベーションを生んできました。

しかも、異なる業種との連携や、自治体との連携が起こってきたことは、これまでにあまりなかったことであり、面白いことがおこってきそうです。

すくなくとも、トレンドというバスに乗る戦略と、ジョブスが語り実践してきた集中戦略のふたつの道があるのだと視野が広がることは望ましいことかと考えます。

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