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在庫問題の構造を把握するために

先日、中小企業診断士の勉強会で講師に呼ばれて、在庫管理に関する簡単なレクチャーをする機会があった。在庫問題は、製造業にも小売業にも広く共通する悩みといっていい。在庫に頭を悩ませないでいいのは、完全個別受注生産(英語でいうとETO=Engineer to Order)の形態をとる航空機・造船・プラントなど、設計してからモノを買えばいい業種と、あとはホテル・鉄道・医療・金融などの、そもそも商品の作りだめや在庫ができないサービス業だけである。

モノがありすぎる。それなのに、必要なモノが必要なときに限って、手元に無い。これが典型的な在庫問題だ。モノがありすぎればスペースをくう。保管や出し入れに余計な手間も費用もかかる。保管中に破損したり、有効期限を過ぎたり、へたをすれば陳腐化して無用になってしまうリスクもある。それに、お金を無駄に寝かせていることになる(運転資金を固定化してしまっているため、その分、じつは知らぬうちに金利を余計に払っているのである。これを「在庫金利」と呼ぶ)。これが会社の損益や資金繰りを圧迫する。在庫がありすぎていいことはないのである。

それなのに、なぜ在庫が多いのか。一つの理由は、「たくさん買うと安くなる」からだ。いや、「そう信じられているからだ」と言い直そうか。資材購買部門のモチベーションは、“いかに安く買ったか”に集中していることが多い。購買の仕事は、営業の仕事のちょうど対称型になっている(これはサプライチェーンにおける売りと買いの位置を考えてみれば当然のことだ)。営業が売上を目指して走る姿を、ちょうど鏡に映したみたいに、購買は単価低減を手柄に思う(ちなみに、どちらも「文系」の仕事だと思われている点でも似ている)。ここで頼られる原理の一つが、“1ダースなら安くなる”=ボリューム・ディスカウントなのである。だから、つい購入ロットが大きくなる。

しかし、責任は買う側ばかりにはない。作る側だって、“作りすぎ”によって仕掛や製品在庫を積み増している。なぜ作りすぎるのか。それも一つには、「一度にたくさん作った方が安くなる」からだ。たしかに、その局面の作業効率や品質だけを見れば、製造ロットが大きい方が作りやすいのは事実だろう。こうして、購買部門も製造部門も、コストダウンを最優先に置けばおくほど、買いだめ・作りだめに走ることになる。

でも、その結果として在庫が増えれば、収益を圧迫することになる。だったら、部門のコストダウン目標とは矛盾しないのか? --ところが、たいていの場合、本人達にとっては矛盾しないのである。なぜなら、保管費や入出庫工数アップは物流部門の問題だからだ。それに、在庫金利(これが本当は一番深刻なのだが)は、工場長の問題ですらない。本社の財務部門が支払う金利にかくされているからだ。ここに、分業化された機能型組織の問題がある。

もちろん、会社全体としては在庫過剰は課題と認識されだろうるし、在庫削減の号令も、何度となく繰り返して下されてきたはずだ。そのたびごとに、不要品を廃棄したりして、工場側は“対応”してきた。だが、コストダウン目標が取り下げられた訳ではない(そんなことはあり得ない)。コストはいつでも最優先課題である。コストはコスト、在庫は在庫。両者の間に微妙なトレードオフ関係があろうとは、本社の側ではあまり認識されていないようだ。

それでは、どうしたらいいか。出発点は、在庫問題を事実として正確に把握することからはじめるべきだ。最初に書いた在庫理論のセミナーでは、出席された銀行の人から質問があって、「中小企業に指導に行ったとき、在庫問題についてはどう言えばいいか」と問われた。それに対するわたしの答えは、「ツー・ステップあります」であった。

(1)まず、在庫を表に出すこと。どれがいくつあるのか、品目と数量を調べてみることである。在庫量をきちんと把握できていない企業は、案外多い。またこれは、文字通りの意味も含んでいる。つまり、(小企業などでは)倉庫の奥に寝かしてある在庫品を、まず見えるところに出してみるのである。表に出してみると、「こんなものがこんなにあったのか!」と驚くことが、必ず出てくる。それだけでも、かなり学習効果がある。棚卸作業は毎期やっているはずなのだが、工場管理者が人任せにしていて現場を見ないでいると、気づきが起きないからだ。

ちなみに、品目別の数量がわかったら、それを金額ではなく、日数分でカウントさせることが大事だ。「10万円分」ではなく「150日分」と把握させる。そのためには同時に、その部品の平均的な使用量を把握しなければ、日数を計算できないことになる。財務上は、たしかに金額で表示される。しかし、無駄か無駄でないかは、むしろ日数分の方がずっとビビッドにわかる。月平均30個使うなら、150個だと150日分だ。「こんな部品が5ヶ月分もあるのか・・。」 すると、あとは自分たちで考えはじめるようになる。コンサルタントの一番重要な仕事は、クライアントが自分で考えるよう、しむけることにある。

(2)上記が一応できたら、つぎに、在庫量のうち、どれだけが意図した在庫で、どれだけが意図せざる偶発の結果かを考えてもらう。意図在庫とは、文字通り、組織が意思を持ってそこに一定量おいて確保しようと決めた在庫である。これは組織の意思であって、個々の担当者の意思や気まぐれではないから、その量も、当然ながら一定のルールに基づいて決め、組織が定期的に見直す。一方、偶発在庫とは、その意思に反して(あるいは何ら明確な意図がないために)生じたもののことだ。その多くは買いすぎ、作りすぎによる『できちゃった在庫』である。また工程のトラブルで生じる一次的な滞留なども含まれる。

ちなみに、前回「その在庫はストックですか、フローですか?」で述べたように、在庫は下流側消費予定の有無によって「ストック在庫」と「フロー在庫」に分類できる。したがって、在庫は全体として4種に分類できることがわかる。



いうまでもなく、たいていの中小企業にとっては、「意図在庫」などはゼロで(明確な在庫計画の意図がないから)、全部が「偶発在庫」である。そこで、偶発在庫と意図在庫の比率を、なるべく後者が大きくなるようにした上で、Wilsonの経済ロット公式などを教えつつ、さらに意図在庫を適正な量まで削減(ときには増大)させていくのである。

サプライチェーンのリスク・マネジメント」でかつて書いたように、漠然と生じた余計な冗長性は省いて(在庫は冗長性そのものだ)、要所要所に必要最小限の冗長性を意図して追加することは、サプライチェーンの効率性と安定性(レジリエンシー)を同時に確保するための手順でもある。そしてまた、「問題とは、漠然と期待していた状態と現実とのギャップをいい、課題とは、『あるべき姿』と現状とのギャップを指す」ということも、このサイトでは何度も書いた。在庫についても同じである。在庫問題というのは、在庫について漠然としか考えていないときに、生じる。「あるべき意図在庫の量」が明確なら、そこには課題があるだけなのである。

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