記事

学費支援プラットフォーム「studygift」で思う、善意の仕組みと大学の意味

1/2

かつてpaperboy&co.を設立し、現在はいろいろな事業を立ち上げる支援者としての活動を中心としている家入一真さん(というのがわたしの認識である)。氏が率いるteam liverty が立ち上げたサイト「学費支援プラットフォーム studygift」がいろいろと議論を呼ぶこととなった。そして間もなく活動中止・全額返金に至った。

studygift表紙

わたしの感想は、結論からいえば「提示された理念・理想は素晴らしい。が、その方法論ならびに直接的なスタッフの動機は是認しがたい」というものである。

わたし自身が大学生のときには極貧生活を送り、結局その結果として中退に至ったという経緯もあり、決して他人事ではなかった。家入さんがそういう学費支援システムを作りたいと表明したときにはわたしもfacebook経由で大賛成の意を伝えた。だが、その結果は非常に残念なものとなってしまった。できる範囲で最大限に協力したいと思っていたわたしが、実際のサイトを見て寄付をしなかったのだ。

今回の件でのいろいろな議論はあるが、その議論には深く立ち入らず、わたし個人の興味と関心に基づいて、以下の点について述べてみたい。1)わたし自身の大学時代の体験。2)studygiftにわたしが寄付しなかった理由。3)理念と目標と動機と方法を別に考える。4)あまり論じられていないこと:「四年制大学→新卒採用」という枠組みを絶対視することへの根本的疑問。

studygiftに関する今までの流れ

studygift全体

具体的な経緯と問題点について「ねとらぼ」5/25記事では特に以下3点が挙げられている。

  • (1)坂口さんの現状について、正しくサポーターに伝えていなかった。すでに「退学」状態にあることが明確に伝わっていなかった。
  • (2)支援金が集まったとしても、坂口さんが大学に復帰できない可能性があった。授業料未納による退学の場合、再入学させるか否かは大学側が決定するので、お金だけで復学できるわけではなかった。
  • (3)100パーセントを超えて支援金が集まった場合の使途説明が不十分だった。

また、studygiftの最初の対象となった大学生と発案者が恋愛関係にあり(同棲していたとも)、しかも大学生自身がteam libertyのメンバーでもあったことなどが問題視された。

これについての意見として、やまもといちろう氏は主に「学生支援でプライバシーをさらけ出すことになるのは極めて難しい問題があるから慎重にやってほしい」と、いつもの軽妙な口調とは打って変わってまじめなコメントを発表した。一方、佐々木俊尚氏は「社会包摂と個別包摂」という観点から、今回の事例は失敗だったが決して臆することなく、個別包摂の試みは今後も進めるべきだと発言した。

ここまででも、重要点についてはもう充分に論じられていると思う。今回は蛇足というか余談として、自分自身の体験と関心に寄せて少し書いてみたいと思う。

わたし自身の大学時代の体験から

4/6に家入さんが「学費マイクロパトロン」構想をIEIRI.NETで公表したとき、わたしはfacebook経由でこのようにコメントした

高校のときに父親が亡くなったので大学では仕送りゼロで生活費から稼ぐバイトに明け暮れていました。

授業料は全額免除をもらっていたのですが、時給の安いバイトをしていたので生活費を稼ぐために週7日バイトしており、それで月13万程度で辛うじて生活していましたが、授業に出る余力がなくなって、単位が取れず中退しました。(母子家庭用の奨学金は母親が全額生活費に使っていて、自分では一銭も使っていません)

おそらくきちんと卒業できるようにするには、学生の授業料+最低限の生活費を保証した上で、本を買うお金とかをバイトで工面させるのがよいと思います。

家入さんの趣旨には全面賛成です。「自己責任」と突き放す社会より、困っている人がいたら見返りを求めずに助けてあげられる社会の方が絶対にいい。

父親が亡くなったのは高校三年のときである。幸い、保険金が下りたので高校卒業はできた。現役のとき、大学は京大と北大を受けて北大だけ受かり、わたしは中野美代子先生の授業を聞きたくて北大に行きたいと言ったが、遠くに行かせたくない親と「来年もう一度受けさせれば合格大学数を水増しできる」と考えた高校の説得に負け、浪人した。予備校は特待生で一年間無料で行けたが、その間、アルバイトすることもできなかった。

一浪時の受験で京大と阪大に合格し、京大に進むこととなった。この頃から家計は次第に逼迫していた。幸い、授業料全額免除が得られ、母子家庭のための「母子福祉資金貸付金」も貸し付けられることとなった。しかし、他の奨学金はなかった。貸付金は母親の口座に入り、それはすべて一家の生活費として使われた。

大学に入ってアルバイトを始めたが、割のいいバイトはコネのある金持ち学生に全部持って行かれてしまい、大学生が余っている京都では京大生といえども家庭教師のバイトも見つからず、何とか奈良市内の塾講師バイトをやっていた。一年目は自宅から通っていたが、大学まで片道2時間かかり、さすがにこれは成り立たないということで、二年目から同じサークルの先輩と3人で安い長屋を借りて住むことになった。そこから困窮が始まる。本来、わたしの修学費用として受け取ったはずの母子福祉資金貸付金は、母親が全額を自分の生活費に使っていた。仕送りはゼロである(まさに「支援できる近親がいるのに支援を受けられない」状態だ)。

少ない塾講師バイト代だけで食えるわけがない。まもなくして、わたしは1週間、何も食べるものがない、財布には17円しかないという状況に追い込まれた。何かで読んだ戦時中の体験談で「食べるものがないから水をがぶ飲みしてしのいだ」という話を思い出し、水道水で一週間しのいだ。そして1週間目、バイトから帰りに歩いているとき、千本丸太町の居酒屋の「バイト募集まかない付き」の文字を見つけ、思考能力もなくバイトを申し込んだのだった。

その居酒屋バイトの時給は最初630円だった。あまりにも安かったが、とにかく食うためには道はなかった。それからほとんど毎日バイトに入った。夕方5時から12時すぎまで。それでなんとか生活費に追いつくかどうかというところだった。最高で90日間連続で休みなく何らかのバイトをしたこともある。居酒屋なので、最低一日一回は飯が食える。大食いするのでオーナーには睨まれたが、とりあえず飢え死にしなくて済んだ。

仮に自分が女だったら木屋町などで水商売に飛び込んでいただろうな、と当時思っていた。だから、今、キャバ嬢になる女子大学生をわたしは批判できない。

だが、そのバイトのために学校には行けなくなった。バイトで疲れて朝は起きられず、また予習や課題などやる時間はまったくない。きちんと予習もできていないのに授業にだけ出たりできない、という潔癖症でもあった。一般教養の単位はほとんど揃えたが、出席点が重視される英語の単位はことごとく落とした。

ただ、京大には留年制度がなかったので、学年だけは専門に進めだ。バイトのお金だけでは英和の大辞典すら買えなかったし、ゼミの準備などしている時間もなかった。ゼミの先輩が家に電話をかけても、夜は毎日バイトのため留守にしている。いつの間にかゼミの中で「あいつは毎晩遊び回っているんだ」という噂になってしまい、それでさらに研究室に行くのが心理的につらくなった。3年の終わりに「レポートさえ出せば単位をやる」と言われたが、ちゃんとできていないのにそんな形だけ整えて単位をもらうのは失礼だと思ったので、出さなかった。

バイトの時給もなかなか上がらかったが(二年半働いてやめたときで740円だった)、ただ板前さんや他のバイト仲間が気のいい人たちだったので、割のいいバイトを探すという方向にも行かなかった。大学3年から就職活動をするのが当然ということも全然わかっておらず、リクルート社からDMが送られてきていたのも「まだ関係ない話」と放置していたら、4年になって内定が決まったという友人の話を聞いて初めて焦った。

さすがにその状態で母親も危機を感じたのか、「仕送りするからバイトをやめなさい。就職は中退でも雇ってくれるところをコネで探すから」と言ってきた。それで4年の9月に居酒屋バイトをやめたところ、祖父が倒れてその入院費用に金がかかることになり、結局仕送りはなくなった。再び困窮の時期がやってきた。結局、そこで大学を卒業するのは断念せざるを得なくなり、就職の話もどこかに行ってしまった。

そういう経験からすると、今の経済的状況では同じように「お金の問題で大学をやめなければならない」という学生は少なくないだろうと思う。

そこで思うのは、今の議論が「学費支援」となっていることだ。わたしの場合は授業料は全額免除されていた。それでも、大学生活が継続できなかったのだ。大学生活でかかる費用は、少なくともアルバイトしなくても「授業料その他の学費+書籍資料代+生活費」が担保されていなければ、時間的な問題を含めて大学生としての学問はできない。それ以外に趣味や遊びに使いたい分は、週に一、二回や休暇中のバイトで学問に差し障らないように自分で稼ぎなさい――と言うためには、上記の土台はどうしたって必要なのである。

もし「学費支援」ではなく「学生生活を継続できるための支援」というなら、単に学費にとどまらない範囲まで見込んでの支援であってほしい、というのがわたしの経験からの考えである。

studygiftにわたしが寄付しなかった理由

そんな体験をしたのだから、studygiftには期待を寄せていた。同じような苦しみの中で学業を続けたい学生は、少しでも支えたい。

それにわたしはよいと思ったものにはできる範囲で支援したいという理念を持っている。わたしが理想とする経済人は渋沢栄一である。お金は自分のためでなく社会に還元するために稼ぐものである、という理念を当然だと思っている。たとえ穀潰しに無駄遣いされることになろうと、「自分が汗水垂らして働いて稼いだ金を他人に奪われるのは許せない」なんていう考えは絶対に持ちたくないと思っている。むしろ、「いかに多くの穀潰しを養ったか」が社会的成功の基準となるのが(現実からはかなり遠いが)理想だと思っている。

これまでにもワールド・ビジョン・ジャパンやあしなが育英会に寄付してきた。その延長で、こういう試みは大いに応援したいと思っていた。

だが、studygiftの女子学生のページを見た瞬間、わたしは凍った。

「成績が下がったので奨学金がもらえなくなった」とかいう部分ではない。奨学金の成績基準が結構シビアなのはわたしも知っている。たとえそれが写真やSNSで遊んでいたのが理由だとしても、もう一度やり直したいというのならかまわない。ページを見た時点では知らなかった情報だが、たとえ彼女がヨシナガさんと同棲していようと、ヨシナガさんが修学資金を出せないというのならわたしは支援したっていいと思っている(彼女自身がスタッフというのはややひっかかるが、最初のケースというだけなら許容範囲だ)。しかし――

あわせて読みたい

「studygift」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    「安倍晋三記念小学校」嘘と判明

    和田政宗

  2. 2

    麻原彰晃・娘 妹の虐待訴えは嘘

    松本麗華

  3. 3

    よしのり氏 枝野氏の発言は問題

    小林よしのり

  4. 4

    籠池氏の嘘 拡散した朝日は無視?

    和田政宗

  5. 5

    よしのり氏「罠にはまった文春」

    小林よしのり

  6. 6

    山口組の自虐的川柳が傑作ぞろい

    NEWSポストセブン

  7. 7

    前川氏 ネトウヨは教育の失敗

    文春オンライン

  8. 8

    希望維新の合流進めたい安倍首相

    NEWSポストセブン

  9. 9

    詩織さん事件 超党派議連が追及

    田中龍作

  10. 10

    ISを「破門」しないムスリム社会

    SYNODOS

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。