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河本準一氏叩きで見失われる本当の問題

河本準一氏の母親・姉・叔母二人の「生活保護の不正受給」問題が騒がしいが、わたしは河本氏叩きにはまったく賛同できない。不正はなかったにも関わらず、河本氏に謝罪を強要した社会を、わたしは怖いと思う。

わたしの考えをまとめると以下のとおりである。

不正受給ではなかった

生活保護では、「最低生活費」から仕送り等を引いた額が、支給される・されない、あるいは支給される額の基準になっている(生活保護制度|厚生労働省)。記者会見によれば(もっと自分がしっかりしていれば…河本準一さん涙で会見(livedoor) - livedoor ニュース)、以下のような経緯である。

  1. 母は病気のため働けなくなり、自分で生活保護の手続きをしてきた。河本氏に福祉事務所から連絡があったが、当時の年収は100万円を切っており、生活費の援助ができなかった。そこで生活保護受給が始まった。
  2. 数年後(5年ほど前)、全国のテレビ出演ができるようになり、福祉事務所から援助の問い合わせがあったため、援助を開始した。この援助額については福祉事務所に連絡してあり、その分が生活保護から減額されている。
  3. さらに数年後、事務所から援助増額の相談があり、増額した。その分はもちろん生活保護から減額されている。
  4. そしていよいよ生活保護の必要がなくなり、生活保護は打ち切りとなった。

どこに河本氏が批判される要素があるのかまったくわからない。「バラエティー番組で「親に仕送りをしている」と発言していた」というのも、このタイムラインと何の矛盾も来たさない。むしろ「仕送りを差し引いた額が支給されていた」という。

ここに河本氏や母親の問題は一切ない。もしこれが問題なのだとしたら、厳しい審査をしたはずにも関わらず認可した福祉事務所の問題(あるいは親の扶養ができないような給料しか与えない吉本の問題)である。少なくとも河本氏が謝罪したり、返金したりする必要はまったくないといえる。

もちろん、「河本氏が福祉事務所に報告した援助額以上に母親に渡していた」というような事実が今後出てくれば、それは明確な「不正」である。しかし、そのような事実は現時点で報道されていない。仮に叩くとしたらその点だけである。

「生活費を援助する能力がある」と「実際にいくら援助した」は別の問題である。生活費の援助能力があったとしても、実際にする(あるいは受ける)か否か、いくら援助するかはまた別問題である。ちなみに、「能力があるなら養え」というのは道徳的・倫理的発言であって、「不正」という言葉が使われるような法的な問題ではない。さらに、わたしはその道徳・倫理には一切与しない。

収入が不安定な職業である河本氏が、またいつ売れなくなるかという恐怖感を密かに持っていたとしてもわたしはまったく疑問に思わないし、むしろ共感する。B&B島田洋七氏が億単位の収入を得た「MANZAI」ブーム以後、「がばいばあちゃん」のヒットまでいかに不遇な時代を過ごしたかというような話を知っていれば、今ちょっと収入が増えたからといって「さあ養いますよ」と言えるかどうか。チャラ男を装っているが実は親孝行な藤森慎吾ならともかく、鬼畜キャラの河本が「そんなん、いつまた収入なくなるかわからんやん。生活保護をやめて、また俺の人気が落ちたときにちゃんと受給でけるんか?」と懐疑的に思ったとしても、わたしは共感する。

それは生活保護受給審査が必要以上に厳しいという現状も影響しているように思われる。


親の受給は河本氏の問題ではない。

河本氏の母親・姉・叔母二人が今まで合計いくら受給してきた、という週刊誌報道を土台に批判が展開されている。

しかし、少なくとも叔母二人を河本氏が養う義務は何もないし、母親・姉についてもそのすべてが問題となるわけではない。そもそも、親や兄弟姉妹が困窮している際の「扶養義務」はあくまでも努力義務である。もし受給の仕方に問題があったとしても、それは受給された本人の問題であって、河本氏本人の問題ではない。

生活保護は「世帯」単位での認定である。そろそろ「世帯」という概念自体が時代おくれになってきているとわたしは思うのだが、それは別にしても、親世帯が困窮していれば子世帯の収入如何を問わず生活保護を考えて何の問題もない。もちろん、生活保護においては世帯が別でも直系等の親族の経済状況などの調査が行なわれるが、たとえば受給者が親族からの援助を断ることもできるし、親族が実際にいくら援助するかはまた別問題である。

むしろ、現状において福祉事務所が「援助できるだけの収入のある親族がいるにもかかわらず、生活保護を申請する」ことを拒絶するような状態であることの方が問題だとわたしは考える。

「扶養可能か否か」と「実際に援助できるか否か/されたいか否か」は別問題である。


河本氏は父親からは虐待を受けていたようだが、母親とは良好な関係であったとされる。ただし、だからといって「だったら生活保護の必要ないだけの援助をして当然」というのは話の筋が違う。それは道徳・倫理の問題だし、「親孝行」がよしとされるとしても、それを強要するような社会であってほしくはない。

また、「援助能力はあるが援助してくれない」身内を持つ生活困窮者側から見れば、河本氏叩きは恐怖としかいえないだろう。

「親族が金を持っているなら、養ってもらえ」が暴力になる事例

子は親を養うための道具ではない。子は親の所有物ではない。「年老いたとき、自分を養い、自分を介護するために、子供を育てる」というような考えの親は、親になるべきではないとわたしは強く思う。子供は親の所有物ではないし、子育ては自分の介護者育てではない。そういう勘違いで縛ったり縛られたりすることからは解放されていかなければならない。

河本氏を批判する意見では、「子供は親に育ててもらった恩があるのだから、親を扶養して当然」という考え方が背景に見られることが多い。しかし、実際には虐待(DV、放任)、あるいは「子供は大きくなったら親を育てて当然」というような束縛が強すぎるがゆえに、親が困窮したときに扶養するなど考えられない事例も多く見られる。わたしも両親が早くになくなってホッとしている。

親に育ててもらった恩を自然に返したくなるような親に育てられたのだとしたら、それは幸福なことである。ただ、ご自身の幸福に感謝しつつ、そうでない人にその道徳観を押しつけないように願いたい。

河本氏の事例がどうかということは別にして(少なくとも父親との関係は断絶しているようだが)、「子供は親を扶養して当然」という強迫観念が今以上に強制的に扱われるような社会には絶対になってほしくない。

また、制度の問題を指摘するかのようにみえて、実はこのような「孝」の「道徳」に基づいた反感が先行しているように見受けられる。

「道義的責任」は法や制度とは別問題であるし、河本氏の家族の問題に「道義的責任」を突きつけるのは、いくら芸能人だからといっても許されることではない。

少なくとも、「河本氏には親を養う能力ができたのに、これだけしか援助しなかった」という批判をするとすれば、それは「不正の追及」ではなく、「道義的な責任の追及」であるということを自覚すべきである。そして「河本は親不孝だから嫌いだ」と主張するならまだ筋が通っていると思うが(私は賛同しないものの)、親不孝を「不正」と主張するのは筋が通らない。

河本氏批判の結果で恐れること

わたしは河本氏を叩くことで以下のような流れになることを恐れる。

  1. 「援助可能な収入のある親族」が存在するものの、実際には援助を受けられない立場の人たちが、ただ単に「援助可能な人がいる」というだけで生活保護を受けられなくなること。
  2. 不正受給は改善すべきであるが、単純に「不正受給をなくすためには受給条件を厳しくすればよい」という流れになって結局、必要な人に必要な生活保護が認定されないこと。
  3. 不正受給の追及にのみ専念し、生活保護を必要とする人が増えている現状を何も変えようとしないこと。
  4. そもそも、不正受給分が適正に配分されたとしても、生活保護が全然足りていないという現状から目をそらし、「不正受給のせいで必要な人に回らない」という考えで不正受給叩きに専念すること。
  5. 門前払いが厳しすぎたり、一度受給すると生活保護から抜けることが難しくなるという現状の問題点が見逃されること。
  6. 別に不正でも何でもないことを不正だ不正だと騒ぎ立てることに対して疑問を抱いたら「不正受給者を擁護する」と扱われること。
  7. 「自分の払った税金」が他の人に使われることに対する嫌悪感が拡大すること。
  8. 「払えるのに払わなかったのは許せない」という道徳・倫理的な「反感」が、いつの間にか「社会正義」扱いされ、巨大な圧力となって数々の弊害を招くこと。
  9. 「子は親を養って当然(社会に養わさせるな)」が今後の高齢化社会においても強固な信念として抱かれ続け、その結果として自分の親の介護負担が過重なものとなってそこから逃れられなくなること。
  10. 河本氏と無関係な「民族問題」になぜか結びつけられること。

以上のようなことにならないことを強く願う。結論から言えば、河本氏叩きには何の意味もないし、氏が謝罪・返金する必要はまったくなかったと思う。ただ、これをきっかけに生活保護が「困っている人たちにまんべんなく」与えられるようになることを願うものである。そのために増税がどうしても必要なのだったら、甘んじて受け入れよう(それがこの信念に対する筋というものである。ただし、安易な増税はノーサンキューだ)。


個人的なネガキャンが出てきそうなので最後に明記しておくが、わたしも親族も人生において生活保護を受けたことは一度もない。

追記第一点:9792万円デマ

最初に載せておくのを忘れたが、「オレ的ゲーム速報@刃」「はちま起稿」「ハムスタ一速報 週刊新潮」などの「2ちゃんねるまとめサイト」で「河本準一、母親・姉・叔母A・叔母Bが生活保護を需給 総額9792万円 週刊新潮」という記事が公開されている。

これは2ちゃんねるの同じスレッドを元にしているようだが、実際の新潮記事には「姉・叔母二人」が生活保護を受給していたという記載はなく、「一人17万を4人で月々68万、12年受給で総額9792万円」というのも新潮記事にはまったくない捏造であった。このデマ情報は今も削除されておらず、これが世論を誤誘導する一因ともなっている。

デマ情報をもとに非難するというのは、決して許される行為ではない。そして、デマを流された側には一切の責任はない。火のないところに水煙を立てておいて「噂があるのだから潔白ではあるまい」と主張する一部の下劣なネット作法は決して認められない。

追記第二点:最後の一文

本文の最後の一文は、「生活保護を受けたというのはネガティブだから、そう言われたくなくて書いた」のではない。わたしがあたかも「組織的な不正受給」という犯罪的行為に加担しているとか、それを擁護するためにこういう記事を書いたというデマによるネガティブキャンペーンが行なわれることが容易に予測できたので、そこへの予防線である。

そして、実際そういうネガキャンが行なわれた。実際のツイートから一部原文ママで引用しよう。

松永英明 kotono8 ことのは。とかいうツイートが出回って河本準一問題を擁護してるのは、自分たちの収入ナマポを奪われたくないから。在日反日構成員が総出で連動するのも当然。

このような下劣なデマによる人格攻撃(名誉毀損)への対抗措置であることをぜひご理解いただきたい。

純粋に書いている内容について批判を寄せるのであれば、それは言論である。しかし、書いている人間の人格や経歴や所属などについての悪印象を植え付けることが目的となった瞬間、その言葉は暴力と化す。

追記第三点:懸念事項第10項

第10項「河本氏と無関係な「民族問題」になぜか結びつけられること」が理解できないというツイートが散見された。しかし、これは「家族問題」ではない。たとえば、わたしに対して「チョン乙」とツイートしてきた者も現われた。河本氏を「ヘ・ジュンイル」と表記するデマサイトもすでに現われている。第十項はそういうことを指している。

追記第四点:孝心

「わたしも両親が早くになくなってホッとしている」という一文だけをクローズアップして、わたしが非道徳的・反社会的であるかのような印象付けを行なう批判が見られるようである。

確かに誉められたことではなかろう。しかし、その直前の部分、「実際には虐待(DV、放任)、あるいは「子供は大きくなったら親を育てて扶養して当然」(※18:50訂正)というような束縛が強すぎるがゆえに、親が困窮したときに扶養するなど考えられない事例も多く見られる」からのつながりで読んでいただければ、どうしてそう考えるに至ったかは読み取れて当然のはずである。

そして、わたしは「すべての親子関係を断絶せよ」などとは一言も主張していない。むしろ「親に育ててもらった恩を自然に返したくなるような親に育てられたのだとしたら、それは幸福なことである」と述べている。それに続けて「ただ、ご自身の幸福に感謝しつつ、そうでない人にその道徳観を押しつけないように願いたい」という本稿の趣旨を述べている。

すべての人に「孝」道徳を100%押しつけるのが唯一の善で、なんぴともその例外とはなってはならない、とお考えなのであれば、それは意見の相違である。ただ、「孝」心を持つことが苦痛だったり、場合によっては被害を被るような事例もあり、それが特に生活保護と関連するような環境では見逃せない要因となりがちである、という現実から目をそらさないようにしていただきたい。

自然に孝心が湧いてこない環境にあった人にまで孝を強制するような社会は、かえって非モラル的な恐怖社会である。

追記第五点:「生活保護支給引き下げ検討」は最悪

小宮山洋子厚生労働相は25日午後の衆院社会保障と税の一体改革特別委員会で、生活保護費の支給水準引き下げを検討する考えを表明した。生活保護の受給開始後、親族が扶養できると判明した場合は積極的に返還を求める意向も示した。(共同通信5/25)

最悪であると思う。もしこの意向が認められるとしたら、社会のセーフティネットは崩壊する。

「親族が扶養できる」という能力と、実際にそれを受けられるか、扶養を受けたいかは別問題である。DVから逃げてきた妻が「夫は扶養可能」ということで生活保護を切られたり、返還を求められたら、文字どおり死ぬ以外に道はないだろう。

「国民に痛みを強いる改革」が真っ先に弱者への痛みを強いるのであれば、そんな国や政府などない方がマシであろう。

(以上追記5/26 18:50)

さらに追記(6/3 19:40)

ツイッター等で「母親、姉、おばの計4人はわざわざ別世帯として隣同士に居住で、母親が生保受給」ということが何かトリッキーな話とされているようだ。

しかし、2ちゃんねるまとめサイトなどにもよく転載されているFLASH記事によれば、

「じつは河本の姉は持病で働けない。彼女も18歳の長男が今年4月に働きはじめるまで、生活保護でした。さらに、母親には夫と死別した2人の姉がおり、うち1人も生活保護を受けるほど困窮している。河本は将来、嫁と子供に加えて4人の親族の面倒をみないといけないと考えていたんです」(吉本関係者)

つまり、「姉」も「二人の叔母」も既婚者なのである。結婚することを俗に(正確ではないが)「入籍」と言うように、結婚した時点で戸籍も世帯も別になる。河本氏自身も既婚者であるから、「河本氏」「母親」「姉」「叔母A」「叔母B」がそれぞれ別の世帯であることは、まったくもって当たり前すぎる話である。

したがって、4人が別世帯であることをもって「不正」の証拠とするのは不可能である。

決定的追記(6/5 20:00)

黒葛原歩弁護士による河本準一さんの問題を中心とした生活保護についての分析  #生活保護 #不正受給 #ナマポ #吉本興業 #河本準一 #河本 #片山さつき #世耕弘成 - Togetter

できるだけきちんと全文を読んでいただきたいが(「河本=不正受給」と考える人は特に)、黒葛原歩弁護士はこのように結論づけている。

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