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「ソーシャルメディアの活用が、選挙で重要な役割を果たす」時代へ 〜ブラジルの選挙〜

先週、ブラジル現地メディアに「ソーシャルメディアの活用が、次回の選挙で重要な役割を果たすだろう」といった主旨の記事が掲載されました。

というのも、ブラジルは今年が選挙イヤーであり(ブラジルでは、2年に1度の頻度で選挙があります)、10月に市長や市議会議員の選挙を控えています。


既にこのblogでも再三お伝えしてきたように、ブラジルは、
 ・世界2位のfacebookユーザーを誇る国である
 ・facebook上でのシェアやいいね!は万単位に到達するほど社会的影響力は強い
 ・日本では見受けられないようなSNSの活用法も多々存在する
という国です。

そんな「ソーシャルメディア先進国」とも呼べるブラジルにおける選挙となれば、冒頭のような「ソーシャルメディアの活用が、次回の選挙で重要な役割を果たすだろう」といった話が上がってくるのも納得ではないでしょうか。


その一方で、地球の反対側日本に目を向けてみると「ネット選挙運動」が未だに禁止されている状況。既にネット活用が可能なブラジルとは、社会のインターネットに対するスタンスの違いを感じさせられます。

とはいえ、そんな日本においても「来年の夏の衆議院総選挙でネットでの選挙運動を解禁にしよう!」という取り組みがいよいよ盛り上がってきているようです。それがこの「NoVoice → OneVoice」と題したOne voice Campaignです。

※注釈 このOne voice Campaignの取り組みの詳細については「ソーシャルメディアで政治が動くか?〜No VoiceからOne Voiceへ〜」などをご参照頂けたらと思いますが、基本スタンスとしては僕もこのキャンペーンに賛同しています。無論、それだけで日本の政治・選挙に対する課題が全て解決されるとは思ってはいないものの、やはり総合的に考えるとメリットが大きそうであるということと、何もしないよりはこういって何かを仕掛けていった方が少なくとも道は開けてくると思うからです。 そして何よりも「ブラジルでは“最重要ツール”とさえ考えられているネット選挙運動が、日本では禁止されている」というとろは、直感的に違和感を感じざるを得ませんし、そんな話をブラジル人にすると決まって「なぜダメなの?」と聞かれ、歴史的な経緯を伝えたところで「じゃあなぜ早くルールを変えないのか?」となり、スムーズに回答出来ていない自分がいるのも事実ですので。


この「ネット選挙運動」解禁に関するメリット/デメリット等の議論は他に譲るとして、実はこの「ネット選挙運動」に限らず、ここブラジルには日本と違う選挙制度や、日本より優れていると思える仕組みがいくつか見受けられますので、この「ネット選挙運動」の議論を視野に入れつつ、この機会にブラジルの選挙についてご紹介させて頂けたらと思います。


具体的には、例えば下記の3点のような「違い」が、ブラジルと日本の間に存在しています。

①義務投票制ゆえの「投票出来ない言い訳」をさせない仕組み
②世界最先端(!?)をゆく「電子投票システム」
③圧倒的に高い大統領の「支持率」

以下、順にご紹介させて頂きます。


■①義務投票制ゆえの「投票出来ない言い訳」をさせない仕組み

まず大前提の大きな違いとして、ブラジルは義務投票制を採用しており、投票しなければ罰則・罰金が科せられます。また国のトップである大統領は直接選挙によって選ばれます。

このブラジルの格差社会において、スラム街に住む貧困層から、ヘリコプターで通勤する富裕層まで、「全国民」に投票をさせるというのは至難の技。とはいえ、義務である以上、理由はどうあれ「投票出来ない」ことがあってはならず、投票率を上げるため(=「投票出来ない言い訳」をさせないため)の施策があちこちで打たれているように見受けられます。


例えば、投票所に行くまでの交通費を捻出できない貧困層のために、選挙当日は「バスが無料」になります。もはや大盤振る舞いですね。これで「お金がないから投票に行けない」という言い訳は通用しません。(一方で、選挙当日はスラム街から人々が街中に出て来るため、治安が悪化するという声もあるようですが…)

また違う例としては、投票の行為そのものが文字の読み書きが出来ない人たちのために「顔写真を選択する」方式になっています。詳しくは次の②でご紹介しますが「電子投票システム」を採用しており、投票機に「候補者の氏名」のみならず「顔写真」までを表示させることで、文字を書けない人はもちろん、文字を読めない人に対しても、誤ることなく投票してもらおうという配慮です。


投票率の低い日本もブラジル同様に義務投票制にすべきである、とまではもちろん言いませんが、こういったブラジル独自に配慮されたシステムを見ていると、
 ・仮に義務投票制にするとしたら、どんな配慮が必要になるのか?
 ・投票出来ない言い訳をさせないための打ち手には、どんなものがあるのか?
といった視点を持ち込む事で、日本も投票率を上げられるアイデアが出てくるかもしれないとも思いました。

特に投票に行かない理由が「誰に入れても変わらない」「知らないのに選べない」「面倒くさい」などの人には、打つべき手はまだまだあるような気がしますし、このあたりは「ネット選挙運動」によって改善出来る可能性もありそうな気はします。


■②世界最先端(!?)をゆく「電子投票システム」

ブラジルの投票は、日本のように「紙に書いて投票箱に投函する」というアナログなものではなく、「電子投票システム」を採用しています。

こちらがその投票システム(投票機)です。


▼ブラジルの電子投票システム(投票機)
Urna_eletronica
※出典:Wikipediaより


あくまでも「オンライン投票」ではなく、「投票所に行く必要はある」のですが、投票所にこの電子投票システムが準備されており、左側の画面に候補者の顔写真と氏名が出てきて、投票出来る仕組みです。前述の通り、これは字の読み書きが出来ない人でも投票出来るように、という配慮だそうです。


この電子投票システムが確立されているおかげで、日本の22.5倍という広大な国土にも関わらず、全国民が投票する大統領選挙でも、あっという間に選挙結果が出るんだとか。(聞いた話では3時間もかからないようです)

そしておそらく、日本のような紙ベースの手作業と違って、人為的ミスは少なく、また、労力が減ることで選挙にかかる人件費も少なく済んでいるのではないかと想定されます。更に一部では指紋認証まで導入され始めているようで、不正も起きづらい環境を作れているのではないかと思います。(無論、初期コストはかかるわけですが)

なおこのシステムは、1996年に開発されたそうで、今からもう16年も前の話なんですね。ブラジルという国は、たまに(!?)こういった突出した一面を持ち合わせており、そのポテンシャルを感じさせるというか、面白い国だなぁとつくづく感じさせられます。この規模感で古くからこのようなシステムを実用化させているとは、ひょっとして世界最先端をいっているのではないでしょうか?(ただ一方で開発のキッカケは、過去に起きた不正の影響だそうで、そんな経緯を考えると「ほらすごいでしょ?世界も見習った方がいいんじゃないですか?」とは、胸を張ってなかなか言いづらいですが…)


いずれにしても、開票時間・人件費コスト・ミス・不正を減らせる優れたシステムであり、日本も見習う事の出来る部分かと思います。(そして、この延長戦上に「オンライン投票」もあるのかもしれませんが、「ネット選挙運動」を飛び越えてそこまで一気にいくには、ややハードルが高すぎるので、その議論はここでは置いておきます)


■③圧倒的に高い大統領の「支持率」

ブラジルにはこういった日本と異なる制度や仕組みがあるわけですが、その結果として何が起きているかというと、下記のグラフをご覧ください。


▼ジウマ大統領の支持率推移
Aprovacao_dilma


現在のジルマ大統領の支持率推移です。

直近の値で支持が77%。ちなみに、このジルマ大統領に限らず、前任であるルラ前大統領も似たような値を示しており、退任直前には87%という値が出ていることもありました。

こう言ってはなんですが、不支持が過半数で支持率20%台という低空飛行をしている日本の内閣からすると、まさに雲の上の存在のような数値なのではないでしょうか。(約3倍!?)


なぜここまで高い支持率を叩き出せているのか?

理由は様々あるかと思います。

ここで敢えて性善説側に思考を振り切って考えたならば、
 ・候補者は当選後に齟齬が生じないよう、選挙期間中に自分の考えを伝え切れている
 ・全国民は選挙活動期間中に候補者の声を聞いた上で、納得いく候補者を選出できている
 ・政治家は当選後も、国民の意見を反映した政策を実現出来ている
と解釈する事も出来るのではないでしょうか。


もちろん「そんな表面的なきれいごとではなく構造的に大きな問題がある」だとか「プレゼンテーション的な施策がうまいだけ」だとか、その手の話があることは僕も知っていますし、僕自身そう思う面も少なからずあるのも事実です。

ただ、今その点について議論したいわけではなく、重要なのは、
 ・投票率が低く、支持率も低い日本(=意思表示をしないのに批判だけする日本)
 ・投票率が高く、支持率も高いブラジル(=意思表示をした上で支持までするブラジル)
この2カ国間にあるギャップを認識し、日本のそれらを改善すべくやれる限りの最大限の努力することではないか、そんな行為は価値があるのではないかと純粋に思うのです。


そう考えていくと、1つの打ち手として冒頭にご紹介した「ネット選挙運動」というのが果たせる役割も、少なからずあると思えますし、もしかすると大きいのではないかとも思います。

そしてそれによって「意思表示をしないのに批判だけする国」から「意思表示をした上で支持までする国」へと変わっていけたら、日本はもっともっと良くなるような気がします。


■海外から選挙に参加するためにも、ネット選挙運動は必要では!?

ここまでは、ブラジル国内の選挙の内容を紹介させて頂きましたが、そうは言っても僕は日本国籍であり、ブラジルの選挙権は持っていない一方で、ブラジルに住んでいようが今もなお日本の選挙権は所持しています。

そこで調べてみたのですが、在サンパウロ日本国総領事館によると「ブラジルに住んでいてもあなたの大切な一票が日本の国政に生かされます」とのことで、僕のようにブラジルに住んでいる人間も日本の選挙に参加できるようです。


しかしながら、「投票」は出来るものの、当然ながらブラジルに住んでいると、
 ・街頭演説を聴くことは出来ない
 ・TVの政見放送は見れない
 ・街中のポスターすら目にすることもない
という状況です。(わざわざNHKワールドを契約でもすれば話は別かもしれませんが…)

これは難しいですね。どのようにして候補者の声を聞き、政策を深く知り、比較をし、自分の意志を一票に込めて投票したら良いのでしょうか。選挙期間前に更新されたサイトを見る程度しかないのでしょうか。もしかすると海外在住歴のまだ浅い僕が知らないだけで、海外在住者のための情報入手方法があるのかもしれませんが、何かそういった特別な事をせずとも、シンプルに「ネットでリアルタイムに候補者の声を知れたらいいのにな」と素直に思います。


なお、外務省の発表によると2010/10/1現在でブラジルには5.8万人が、そして全世界には114万人の在留邦人がいるそうです。114万人というと政令指定都市1つ分くらいの規模感の人口でしょうか。仮にそれだけの規模の人たちが、情報不足や手間を理由に「投票しない・投票出来ない」状態であったとすると、やはり問題は深刻ですね。今後ますますグローバル化が進み、海外在留日本人が増えることが容易に想定されますが、そんなグローバル社会においても「ネット選挙運動」というのは重要な役割を果たしてくるのかもしれません。


■「ソーシャルメディアの活用が、重要な役割を果たす選挙」が間もなく始まる

さて、「ネット選挙運動」を切り口に、ブラジルに関する選挙をご紹介してきたわけですが、話は冒頭に戻って、今年10月に市長&市議会議員の選挙が実施されます。そして、それに向けた動きが7月頃から始まっていく模様です。

今回は2年前の2010年大統領選挙時に比べて、
 ・ネット普及率&SNS普及率が上がり、SNS経由でリーチ可能な有権者数が増えた
 ・SNSでの知見が蓄積し始めてきており、ブラジル独特の活用法も生まれ始めている
といった要因もあり、今までにない「そんなSNSの活用法があったのか!さすがブラジル人!いいね!」といえる好事例が、たくさん生まれるてくるのでは?と、個人的には期待しています。


きっと近い将来解禁になるであろう日本のネット選挙運動にとっても、参考になる事例がたくさん出てくるかもしれません。面白い取り組み等見つけたら、facebookやこちらのblog等を通じてご紹介させて頂こうと思いますが、ぜひみなさんも今年の「SNSを活用したブラジル選挙」にご注目ください。

こういった新しい時代が来る予兆は、なんだかわくわくしますね。

日本でもそんなわくわく感が生まれると良いなと、個人的には思います。


最後にもう一度改めて、日本の「ネット選挙運動」を支援したいと思われた方のために、リンクを記載しておきます。
▼One voice Campaign
http://onevoice-campaign.jp/


では。
Até mais!

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