記事

日誌をつけよう

新入社員の人たちも、集合研修は一段落し、部署に配属されほぼ一月たって、少しずつ職場の環境に慣れてきた頃だと思う。これから何とか自分のペースをつかみ、できれば自分の能力も磨いていきたいと考えている人も多いだろう。

時間管理術』というのは働く人に共通のスキルだ。その中でも、とくに初心の人たちにすすめる事は何か、ときかれたら、わたしは「日誌をつけよう」といつも答えるようにしている。

昔はよく元旦などに、“よし、今年こそは日記をつけよう!”などと決心をする人がいたようだが、今どきはどれほど存在するかわからない。正月に、“今年こそは家計簿をつけるわ”と思い立つ主婦が大勢いると信じて、昔の婦人雑誌の新年号は分厚い「特別製家計簿」を付録にしていたものだ。今どき日記をつけようと決心する人の数は、おそらく家計簿をかなり下回って、マイナーな趣味に属するかもしれない。

ところが世の中の変化とは不思議なもので、文房具店の日記コーナーや婦人雑誌の豪華付録が消滅していくかわりに、日記をつける人はかえって目立つようになった。ネットの世界でのことだ。自分のBlogやFacebookなどのSNSに、日記代わりの文章をアップしている人の数は、(公式な統計が存在するかどうかは知らないが)今では数十万を下るまい。昔風の、紙に書いて、鍵付きの箱にしまっておく、私的で内密な日記はすたれて、オープンで、ちょっと気取った、他人が読むことを最初から意図した日記は増え続けている。これが現代のトレンドというものらしい。

ところでわたしは、あえて逆の提案をするのである。「公開を目的としない、個人的な記録を毎日つけよう。1日に10分、自分の時間をそれに当てよう」と。そして、それをスケジューリングやプロジェクト・マネジメントの訓練として行なおう、と。

そんな習慣が何の役に立つかって? そう疑問に思う人は、Blog的な、私的な日記を想像するからだろう。しかし、私が提案するのは、個人的な記録、つまり『日誌』なのである。

「日記」は(たとえそれがインターネットで公開されようが)基本的に文学の領域に属する。日本では日記文学の長くて立派な伝統があり、またその姉妹として身辺雑記のエッセイも発達している。だからみな、毎日の記録というと、すぐそうしたものを連想する。

これに対して、「日誌」は客観性の領域に属している。自分の主要な関心事、ふつうは仕事の(学生ならば研究の)ことを記す。だから散文的だ。他人が読んでもつまらないし、日誌はそもそも他人に見せることを意図していない。日誌の想定する読者はたった1人、未来の自分なのだ。

船の船長はみな、「航海日誌」をつけている。わたしは航海日誌もつけないような、だらしない船長の船には乗りたくない。同じように、わたしは「プロジェクト日誌」をつけないような、訓練の足りないプロジェクト・マネージャーの仕事はしたくない、と思う。ところで、あなたの知っているプロマネは、日誌をつけているだろうか? なぜ海運の世界では当たり前のことが、ことホワイトカラーのオフィスの世界ではほとんど行なわれないのだろう?

航海日誌に書くことと言えば、どんなことだろうか。わたしも正確には知らないので想像するだけだが、その日の船の位置、進んだ方向と距離、天候、その日の主要な作業項目や出来事、寄港したならば寄港地名と積み卸しの内容、船員や乗客の動静、発生したトラブルや将来起こるかもしれないリスク、などだろう。長く航海していれば、こうしたことをすべて頭の中だけで記憶しておくのは不可能だ。

航海の途中で、「通信機の調子が落ちている・・このところ荒天が続いて傷んだからかもしれない・・そういえば前にオーバーホールしたのはいつだったろうか?」というようなことを考えるとき、日誌がなければ困ってしまう。また、一つの航海が終わったとき、次の航海の計画を立てる場合にも、過去の航海日誌は役にたつ。つまり日誌は、基本的に書いた人間が自分で読んで利用するものなのだ。ならば、プロジェクト・リーダーを目指すあなたも、日誌を付けない理由が何かあるだろうか?

日誌は、鍵付きの小箱入りのノートではなく、パソコンで記録することをおすすめする。理由は簡単、日誌の主要な目的が「過去の検索」にあるからだ。何も立派なデータベース・ソフトである必要はない。ワープロや、テキスト・ファイル+エディタの組合せで十分だ。なぜなら、日誌に記録すべき項目はしだいに変わって行くからだ。仕事を通じて、自分の役割も、範囲も、関心点もかわっていく。人はそれを『成長』と呼ぶ。へたなシステム分析を行って、自分の「管理項目」を固定してしまわない方がいい。あとで必ず窮屈になって、使うのをやめてしまうだろう。

日誌に割く時間は1日にせいぜい10分か15分。それ以上かかるようなら、書くべき項目を減らした方がいい。さもないと、休日や何かの理由で書けない日が3日続いたとき、間を埋めるだけで1時間近くかかってしまい、だんだんいやになってくる。日誌は継続しなければ、何の意味もない。

あなたも、もしも今つけていないのなら、日誌をはじめよう。今つけているのが文学的「日記」だったら、内容に「日誌」も加えよう。その習慣をだれかれに言う必要はない。自分一人で、心の内に宣言すればいいだけだ。

そしてときどき過去を検索したり、読み返してみよう。3ヶ月続けてみたら、あなたは、何となく、気分的な安定を少しだけ感じているはずだ。それがきっと、「成長」というものの実感なのである。

あわせて読みたい

「ビジネス」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    田中みな実 過激なお蔵入り写真

    NEWSポストセブン

  2. 2

    質問力なし 報道のTBSは死んだ

    和田政宗

  3. 3

    橋下氏 解散批判する野党に苦言

    橋下徹

  4. 4

    総理による解散は課題設定の権力

    三浦瑠麗

  5. 5

    小池氏が知事辞任し選挙出馬の噂

    三浦博史

  6. 6

    自民は本気の小池氏を甘く見るな

    安倍宏行

  7. 7

    北の日本攻撃ありうる歴史的背景

    ヒロ

  8. 8

    斉藤・山尾・今井 不倫の共通点

    NEWSポストセブン

  9. 9

    小池氏会見まるでイキった大学生

    キャリコネニュース

  10. 10

    デリヘルに素人専門が増えた理由

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。