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平均年収260万から”儲かる漁業”への転換を実現せよ―勝川俊雄氏が語る”日本漁業復活の方程式”

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三重大学の准教授を務める勝川俊雄氏(撮影:野原誠治)
三重大学の准教授を務める勝川俊雄氏(撮影:野原誠治) 写真一覧
現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。第5回目は、『漁業という日本の問題』を上梓したばかりの水産資源学の専門家、勝川俊雄氏にインタビューをさせていただきました。衰退を続ける日本の漁業。その問題点と「継続可能な漁業」を実現させるための処方箋を聞きました。【取材・執筆:田野 幸伸、永田 正行(BLOGOS編集部)】

※本シリーズは、毎月第2水曜日にSYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載し、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を第4水曜に掲載するという方式を採用しています。記事へのご意見は、コメントフォームおよび議論ページにお寄せください。締め切りは5月14日(月)正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は23日(水)を予定しております。

放置され続けてきた”焼畑のような”日本漁業の問題点


―まず、日本の漁業の現状について教えてください。

勝川俊雄氏(以下、勝川氏):漁業者の人口はピーク時の100万人から、現在は20万人まで減少しています。また、その半分は60歳以上なんです。漁業の衰退は昨日今日に始まったわけではなく、1970年代からほとんど新規加入ができていない。外部からの参入障壁は高い上に、中では跡継ぎが育たない。縮小再生産すらできずに、産業がどんどん衰退しています。何十年にも渡って、そうした状況が放置されてきた結果が、今日の漁業者の高齢化であり、衰退です。

漁業者が減少した原因は、漁業で生活していくことが困難である、つまり魚を獲って生計を建てていくことが現状だと難しいことが原因です。沿岸漁業の場合、平均年収が260万円程度です。さらに経費である油代などが半分以上掛かっている。たとえば450万円くらい水揚げがあったとしても、経費を引いたら年間50万円ぐらいしか残らない。水産業は、一次産業ですから、一般の産業と比較すると、様々な手当があるにも係わらず、それでも経営が成り立たないのです。これまでの赤字が欠損金として漁協に積み重なって、身動きがとれない状態に陥っている。

日本にも経営の良い漁業もあります。たとえばオホーツクのホタテ漁は、安定して高い利益を出し続けています。そういう漁業には、必ず後継者が帰ってきます。後継者が順番待ちをしているところもあります。普通は、長男が後継者になるのですが、次男以降も希望をすれば漁業に参入できる浜もある。 利益を出している漁業の共通点は、小規模で生産性の高い資源を自分の漁場に占有していることと、その資源をコミュニティがしっかりと管理していることです。漁場を合理的に利用していけば、産業として継続して利益を出すことができる。そうすれば後継者も加入してきて、地域経済も回っていく。残念ながら、こういう良い循環が実現できているところは少ないのが現状です。

―漁業が、「食えない」産業になってしまった原因は何なのでしょうか?

勝川氏:戦後の日本漁業の歴史というのは、どんどん外に新しい漁場を求めて展開していった歴史なのです。戦後の日本漁業のキャッチコピーは「沿岸から沖合へ。沖合から遠洋へ」というものでした。獲れるだけ獲って、魚がいなくなれば、さらに遠くの漁場に足を伸ばす。人間の漁獲能力は、自然の生産量を大きく超えています。非持続的な水準まで拡大した漁獲能力を、海外に輸出することで成長したのです。

これを可能にしたのが公海自由の原則です。その当時は世界中の海で誰が魚を獲ってもよかったのです。沿岸8マイルの領海を除けば、自由に魚を獲ることができた。日本の漁船は、北半球だけでなく南半球のいろんな国の沿岸に行って、自由に操業をしていました。

「魚が減ったら、他の漁場に移れば良い」という考えで、日本の遠洋漁業は急成長したのです。しかし、1970年代にEEZ(排他的経済水域)を沿岸各国が設定し、それが出来なくなった。時を同じくしてオイルショックが発生し、この2つの要因で遠洋漁業が大打撃を受けたのです。この時点で外に広がっていくという選択肢が無くなりました。

世界の漁業生産のほとんどは、どこかの国の200マイルの中です。魚の生産を支えるのが海のプランクトンの光合成です。プランクトンの発生には栄養塩が必要です。海の真ん中では、光が届く範囲にあまり栄養がなく、プランクトンも少ない。そういうところでは魚類の生産も少ないのです。魚の生産が多いのは、ほとんどの場合、沿岸の決まった部分です。EEZによって、世界中の好漁場から、外国船は閉め出されてしまったのです。これは日本の漁業だけが抱えた問題ではなくて、ノルウェーなどの遠洋漁業国は同じ状況になったわけです。

「焼畑のように漁場を食いつぶして、次に移るというスピードを早める」という、日本漁業のお家芸が通用しなくなった。しかし、失ったモノだけではありませんでした。逆に言うと自分の「縄張り」は得たわけです。日本のEEZの広さは、世界第六位です。日本海、東シナ海は、中国、韓国と接していますが、太平洋側は日本だけで排他的に利用できます。しかも、そこは世界屈指の好漁場。200海里、EEZに、日本は一貫して反対して、ほとんど議論に参加しなかった。その割には日本にだいぶ有利な「棚からぼた餅」的な内容になった。しかし、結局やったことというのは、自国の限られた領域での焼畑です。それは先がないという話なのです。

―日本のEEZが六位とのことですが、これは漁業が産業として成立しているノルウェーやニュージーランドといった国よりも環境として恵まれているのでしょうか?

勝川氏:うーん…。「恵まれている」と一つの軸から言い切ることができません。良いところも悪いところもある。ニュージーランドは、領海が他と接していないという面では恵まれています。ただ国内市場が少ないですし、北半球に輸出しようと思うと輸送費が高くなる。そうしたフードマイレージ(食品の輸送距離)を考えると不利な部分もあります。ただそれでも、輸出で高い利益を上げています。

―一概には言えないと

勝川氏:そうです。一方ノルウェーは、ほとんどの重要資源をEUとロシアで共有しています。ですので、ノルウェー一国で努力するには限界がある。全体の資源管理の枠組みは、ICESという国際機関がやっていて、ノルウェーは外交交渉で自国の取り分を得てくるのです。彼らは獲得した取り分を国内で利用することはできるけれど、管理全体の枠組みは自分でコントロールできない。そういう意味で言うと、太平洋側は日本一国でコントロールできる日本は大変恵まれています。

さらに自国に市場があるという面で、日本は恵まれています。ニュージーランド、ノルウェーは、為替が不安定な中で、輸出に頼らざるを得ない。ニュージーランドとノルウェーは国内の水産市場が小さいが故に、輸出産業としての最適化を、国策として進めやすかったという面はあります。一方で日本は国内市場がありますから、消費者としての側面もあって、安定供給などの面もプライオリティとして考慮しなければいけない。そのため、ノルウェー、ニュージーランドのように簡単に舵が切れなかったという側面もあると思います。

―日本の漁業は衰退を続けていて、その原因は焼畑農業的なやり方にあるのではないか、というお話でした。海外では、乱獲を規制することで産業としての継続性を維持している事例もあるとのことですが、このあたりを詳しく教えてください。

勝川氏:日本は伝統的な縄張りシステムを採用しています。沿岸の漁場は沿岸コミュニティが排他的に利用をする。これは海外でも同じような制度があり、様々な研究が進んでいます。このシステムの限界は、定住性の動かない小規模な資源にしか使えないことです。

遊泳性の魚の多くは、日によってかなりの距離を移動します。もし、魚が自分の漁場の外にいったら、自分の漁場に再び戻ってくる保障はありません。よそで、誰かに獲られてしまうかもしれない。だったら、今のうちに獲っておこうと、みんな思いますよね。だから、日本の魚は、どこへ行っても、根こそぎ獲られてしまう。日本の漁師は、「親の仇(かたき)と魚は見たら取れ」と言います。

縄張りを設定するやり方は、現在の漁獲の大半を占める遊泳する魚を管理する方法としては不適切です。この方法が確立された江戸時代には、遊泳性の魚を乱獲するだけの技術がありませんでした。乱獲の心配があるのは、ウニやアワビなどの根付き資源だけ。当時の情勢を考えると、縄張りをきめて、線引きをするというやり方は合理的でした。現在の人間の漁獲能力は、自然の生産力を遥かに超えているので、縄張りで区切るという従来のやり方は機能しません。漁場の奪い合いは抑制できるけれど、魚の奪い合いは抑制できないからです。

過剰な漁獲能力で早捕り競争をした結果、誰も得をしない状況になっている。もうちょっと待てば価値が上がる、とわかっていても、いなくなる前にとりあえず換金しておくしかない。大きくしてから自分が獲れる保証は無いわけですから、それ以外の選択肢がないのです。日本の漁業者は、小さい魚を奪い合って自滅しているのですが、これはモラルではなく、漁業制度の問題です。鯖にしてもクロマグロにしても、未成熟で価値が出る前にほとんど取り尽くしている。大きい魚がいなくなれば、みんな余計に小さいうちから獲ろうとする悪循環に陥る。

限りある海の幸を、安定して獲れるようなシステムにするのが公的機関の役割。その役割をしっかり果たしている国の漁業は、どんどん良い方向に向かっています。そうでないところはどんどんダメになっている。非常に単純な話です。

乱獲を抑制するというのは、公害を垂れ流さない、というのと同じ話です。「漁師が困るから非持続的な乱獲を放置しましょう」というのは、長い目で見れば産業を破壊しているのです。一次産業は保護するのは重要ですが、これまでの政策は、長期的な産業振興という視点を欠いているように思います。

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