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解雇規制を緩和しても、若者の雇用環境は改善されない―労働経済学者、安藤至大氏が語る”今後目指すべき働き方”

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インタビューに応える日本大学大学院准教授の安藤至大氏(撮影:野原誠治)
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現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。第4回目は労働経済学者の安藤至大氏にご登場いただきました。雇用の世代間格差を解決するための手段として、しばしば「解雇規制の緩和」が挙げられることがあります。これは、過剰に守られている正社員を解雇しやすくすることで、現在非正規の若者に雇用がもたらされるという考えに基づく主張と考えられます。「解雇規制の緩和」は本当に若者に福音をもたらすのでしょうか?安藤氏に聞きました。

※本シリーズは、毎月第2水曜日にSYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載し、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を第4水曜に掲載するという方式を採用しています。記事へのご意見は、コメントフォームおよび議論ページにお寄せください。締め切りは4月16日(月)正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は25日(水)を予定しております。

真っ当な会社は「中高年の高給取り」を簡単にクビにしたいとは思わない


―改善傾向が見られるものの、若者の雇用環境は非常に厳しいといわれています。こうした状況を打破するための方策として「解雇規制の緩和」が挙げられることが多いと思うのですが、安藤先生はこれには疑問を呈されていますね。

安藤至大氏(以下、安藤氏):私は1998年に大学を卒業しました。その頃もいわゆる就職氷河期でした。当初は大卒で就職しようとしていて、就職活動も一通り経験したので、若者が「今の雇用環境が厳しい」と感じる気持ちはよくわかります。

確かに、会社の中には一見すると「あまり仕事ができなさそうなおじさん」がいたりします。そういう高齢の男性社員を見て、「あの人たちは高給取りだけど働いていない」「あの人たちがいなければ自分たちがもっと雇われるのに」という幻想を抱いてしまうのも非常に理解できる話です。

しかし、この問題については、会社の立場からも考える必要があります。会社としては、今勤めている年長者たちを本当にクビにしたいと思っているのでしょうか。「クビにしたいと思っているに違いない」というのは、外から見た勝手な思い込みかもしれません。そこを確認せずに議論しても建設的ではないでしょう。

ある程度以上に真っ当で業績も好調な会社であれば、長期雇用で社員を雇った場合、その人がそれなりに頑張っているにもかかわらず簡単にクビにするようなことはしません。理由はいくつかあります。例えば簡単にクビになるようだと、それを見た、現在安い給料で頑張っている若い正社員は、「自分も後々同じようにクビにされるかもしれない」と考えるはずです。そうなれば、若い人たちはその会社でしか役立たない知識を身につけようとはせず、転職しても使える技能の習得ばかりに取り組むでしょう。そうなると会社の業績が低下してしまいますね。

もちろん、なかには会社に上手く適応できなくて途中からお荷物になってしまう人もいるはずです。昔は優秀な社員だったのに、技術の進歩についていけなくて、「パソコンなんて使い方がよくわからん」という人もいるかもしれません。しかし、それを安易にクビにすることには様々な弊害があり、仮に法律的に解雇が容易になったとしても、安易な解雇は望ましくないと会社も考えているのです。

これに対して、業績の悪い企業は、クビにするかもしれません。しかし、その場合は、人手が余っているから解雇するということなので、新たに若者を雇うとは思えません。

―好調な会社で、仕事ができない中高年の代わりに、若者が雇われる可能性についてはいかがでしょうか。

安藤氏:そもそも中高年層と若者では、期待される仕事の内容が違います。若者が必要ならば、「使えない」中高年がいるかどうかに関係なく、企業は若者を雇うでしょう。大学受験の合格者のように定員が決まっている場合には、限られた席の奪い合いが発生するわけですが、企業には定員がありません。必要ならば雇います。

また本当に「使えない」中高年がいたとしても、現時点での陣容で仕事がこなせているのであれば、中高年をクビにした後には誰も雇いません。だって新たに雇ってしまったら人手が余ってしまいますから。

外から見ると、会社には「お荷物な人」がいて、解雇が容易になれば彼らがクビになり、代わりに自分たちが入れるのではないか、と思う気持ちは理解できます。しかし、それはおそらく違うだろうということを知っておく必要があるでしょう。

―「解雇規制の緩和」を考える前に、まずは日本の現在の雇用ルールについて説明してください。

安藤氏:わが国では、企業が人を雇う場合には、原則として「3年まで」の期間を定めるか、そうではない場合には、「期間を決めない」で雇うことになります。期間を決めないというのは、法律的には不正確な表現ですが、実態をわかりやすくいえば、「雇う側は、定年までできるだけ面倒を見ます」ということです。この「面倒を見る」という表現は一方的ですが、その代償として「いろいろなことを犠牲にしてでも仕事をしてください」という滅私奉公的な働き方を求めてきたわけです。

このように、原則3年までか定年までかの2択になっているとき、企業はどちらを選ぶでしょうか。これには一長一短の関係があります。1年や3年といった有期雇用の場合、労働者は、会社全体のことや、先のことを考えた仕事をしてくれません。これに対して、定年までという無期雇用にしてしまうと、途中で労働者の技術が陳腐化したり環境の変化によって、担当してもらう仕事がなくなってしまうことが考えられます。

日本の場合、仕事を限定した形で正社員として雇うことはあまりやっていません。調理師免許をもっている人をコックさんとして雇うことはあるでしょう。あるいは、僕は大学の教員ですが、教員を事務員にしますというのは難しいでしょう。でも、こうしたいわゆるジョブ単位の雇用は、日本では一般的ではないのです。

正社員は、仕事の内容を限定しないで雇うことが多い。雇ってからいろいろな仕事を経験させるわけです。大企業ならば、営業から総務へ移ったり、支店に行ったりと、いろいろなことをする。仕事の中身も変われば、働き方も変わる。働く場所あるいは働く時間帯が変わることもあり得る、というのが現状だと思います。そうして能力に見合った職種と居場所を社内で見つけるわけです。そして中小企業ならば、いろいろな仕事を一人で担当することも多いでしょう。

このようなことを前提とすると、「営業で成果を出せなかったらクビだ」というのは乱暴だと思いませんか。正社員は、基本的には「何でも屋さん」として雇ったのだから、その人に適正のある仕事を見つけて上手に使うことは雇う側の責務だと考えても、それほどおかしなことではないでしょう。

つまり正社員として雇うということは、会社側から見れば、雇用保障がある代わりに自由に使える、そして労働者側から見れば自由に使われる代わりに雇用保障があるという取引だったわけです。人によっては、本当は「内勤の仕事の方がいい」と考えていたとしても、「営業に行け」と言われれば職務命令には従う。そういった事態も想定した上で正社員になるわけです。

まあこれは、いわゆる日本的雇用慣行と言われている、大企業での話ですが。労働に関する法律を理解して、かなりの程度は守っている企業の話です。中小との違いについては後できちんとお話ししましょう。

さて、このような契約であることを理解すると、正社員の「解雇が規制」されてきたことの意味が分かります。「あなたのことを企業側にとって都合良く使いますが、その代わりに定年までは出来る限り雇い続けますよ」という前提で雇っているのであれば、いまやっている仕事で上手くいかなかったからと言って、クビにするのは「契約違反でしょ?」「他の仕事を見つけてあげることも必要でしょ」という意味だったのです。なにしろ解雇というのは、一方的に契約を破棄することですから。しかし、それでも関係を切らなければならない場合というのもあります。

―具体的にはどのようなケースでしょうか?

安藤氏:解雇には以下の3種類があります。一つは整理解雇です。時代の変化や技術進歩などの外生的な理由や経営の失敗等により、労働者にやってもらう仕事がなくなってしまった場合に行われます。今の仕事がなくなってしまい、代わりに任せる新しい仕事もない。そのような状態に陥った時に、このまま労働者を雇い続けると、会社自体が倒れてしまう恐れがある。このとき、全員で沈没するぐらいなら一部の人に泣いてもらう。これが整理解雇です。

また、能力不足や病気など何らかの理由で、仕事ができなくなった場合に、その人にはやめてもらう。これを普通解雇といいます。ただし、これは教育訓練や別の仕事を任せてみるなどの十分な取組みを行った上で、それでも最低限の仕事がこなせないような場合に限定されます。なにしろ「何でも屋さん」として雇ったわけですから。

ちなみに整理解雇の場合には人手が余っているわけですから、人を切った後に後任は雇われませんが、普通解雇の場合には、まだ仕事があるので、誰かがその仕事を引き継ぐことになる。これが整理解雇と普通解雇の見分け方です。

最後は懲戒解雇。就業規則などで事前に定められている懲戒の事由に引っかかった場合です。会社の経費の使い込みが発覚した場合や「会社の名誉や信用を著しく傷つける」行為をした場合、例えば犯罪で捕まった場合などですね。ただし「会社のボールペンを家に持ち帰って使っていたから」とか「軽微な交通違反」などを理由として解雇するのはやりすぎでしょう。あくまで、長期的関係を継続できないと考えられる事態が発生した場合の話です。

―それでは解雇規制について教えてください。

安藤氏:解雇は、ルールに則っていれば、行うことができます。禁止されているわけではありません。つまり「ルールに則って」いるかどうかが大事なわけですね。

正社員を整理解雇する場合、実質的には定年まで雇うことを約束しているにもかかわらず、それを途中で打ち切るわけですし、建前としては労働者側にまったく落ち度はないわけですから、「整理解雇が本当に必要なのか」が問われることになります。

整理解雇法理といわれるルールは、整理解雇を規制していると考えるよりも、整理解雇を偽装した解雇を規制していると考えたほうが分かりやすいでしょう。本当は「嫌いだから」とか「あいつの態度が気に食わない」などの理由でクビにしようとしているのに、整理解雇の振りをするのはダメですよ、ということです。

普通解雇の場合も、「能力不足だといっても、本当に能力不足なのか?」「いくつかある仕事のどれも任せられないほど能力がないのか?」といった点が問題になります。

整理すると、現在の雇用契約は、3年までの有期か定年までの長期という2択しかない。そして定年までの契約をしたのならば、できるだけ守る。しかし長期の契約を結ぶと、その途中で状況が変わることもあるでしょう。人間も変わるし環境も変わる。したがって解雇という手段が必要になることも認めた上で、それが乱用されないようにルールを定めているのです。

ところで解雇というのは、雇っている側から一方的に契約を打ち切ることでした。一方で、労働者の側から離職することは可能です。労働者にとって、正社員になるということは「定年まで働くことを約束します」という契約を結ぶことではないのです。法律的には2週間前、そして実際は就業規則にもよりますが、普通は一ヶ月前までに申し入れをすればいつでも辞められるという構造になっています。

会社側からしたら「こちらは雇用を保障しないといけないのに、労働者はいつでも辞められるなんて、ずいぶんアンフェアじゃないか」と感じるかもしれません。しかし、「定年まで絶対働き続けます」といった契約が可能だとすると、劣悪な労働環境にわずかな賃金で拘束される労働者が出てくる恐れがあるため、いつでも辞められるようになっているのです。

この労働者側からは簡単に辞められるということは是非覚えておいてください。「お前がいなくなったら、ウチの会社は困るので、辞めるなら金を払え。払わなければ損害賠償を請求する」などということはできません。「他にもっと良い仕事が見つかったので辞めます」という社員を引き止めるためには、さらに良い条件を提示するしかないのです。

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