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40歳が「何者かになりたい」と欲求すること

2011年10月01日 09:00

シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

 「きっと何者にもなれない」あなたへ - 琥珀色の戯言

 上記の文章を見て、色々と考えさせられた。

 思春期の若い人にとって、「何者かになりたい*1」と願うことは悪いことではないと思う。というより、とても大切なことだろう。思春期においては、等身大の自分自身より大きな目標に憧れて「自分もああなりたい」と思うことは、技能の模索という意味でも、アイデンティティを確立させる意味でも、自分を引っ張っていく力となる。若いうちは、背伸びした服を着ようとするぐらいでちょうどいい。

 そして、その背伸びが挫折したらしたで、それは「ああ、俺はこういう人間なんだな」と自分自身を知る手助けにもなる。そういう意味では、思春期のアイデンティティ探索(=私はどういう人間なのかを知る)というのは、成功だけではなく挫折によっても進行する、と言える*2。

 しかし、そのような「何者かになりたい」という思いを40歳ぐらいになっても燻らせているというのは、いかがなものだろうか。

 40歳のことを、「不惑」とも言う。

 この年頃になれば「俺はこういう人間なんだ」ということについて、そろそろ分別がついて良い時期、ということだろう。また、E.エリクソンのライフサイクル論的にも、壮年期は思春期よりも落ち着いた時期とみなされる――自分自身のアイデンティティや自己実現だけに汲々とする境地が終わり、後輩や部下や子どもといった、成長していく次世代の世話に関心がシフトしていく時期だ。歳を取ってくると、新しいことを身につけにくくなり、成長の伸びしろがなくなってくることを思えば、関心の中心が自分自身から若い世代に向いていくのは、心理的な適応としても巧いと思う。

 ところが、実際には40歳になっても自分自身に強烈な関心を持ち続けている人・「何者かになりたい」と、等身大より大きな服を求めてやまない人がいるわけだ。

 40歳になっても「何者かになりたい」と願っているということは、その人は、いまだに自分自身のアイデンティティが確立していないということだし、自分で自分の輪郭も身の程も分かっていない(より正確には納得できていない)ということなのだろう。「もっと背伸びした服を身に着けたい」というわけだ。若い世代の育成にも関心がシフトしていない。

 しかし、40歳ともなれば、もう伸びしろは限られているし、体力的にも若い頃のような無理は効かない。結婚し子育てが始まっている人においては、尚更だ。おそらくその挑戦は成功しないし、そもそも挑戦が実行されること自体、少ないだろう。そして、歳を取ってからの挫折は骨身に染みる。だからそのような人にとっての「何者かになりたい」という欲求は、10代や20代の頃のソレとは、ニュアンスがだいぶ異なる。若いころの「何者かになりたい」という欲求は、まだ見ぬ未来に雄飛するための推進力だが、歳を取ってからの「何者かになりたい」という欲求は、狂気の沙汰に近い。妄執というか。

 私は、歳を取ってから花開いた大器晩成型の人をとりわけ凄いと思っている。何者も背負わず、瑞々しい感性と柔軟な頭脳を持っている若い世代とはわけが違うからだ。あるいは加齢を覆すような膨大な蓄積でカヴァーしているのか。いずれにせよ、とんでもないことだと思う。しかし、そういったとんでもない事は殆どの人には無理であり、一人の大器晩成型のスターを見ると、その足元に沢山の失敗者・挫折者を想定せずにはいられない。

 なので、40歳になってもまだ、「何者かになりたい」と欲求するのは苦しいことだと思う。歳を取っても思春期的なメンタリティを持ち続けるというのは、可能性という面では豊かかもしれないが、欲求や野心と現実とのギャップに苦しまずにいられないという意味では、執着と渇望の坩堝でもある。そんな境地に、若さも感性も失ったまま居続けるというというのだから、当人の苦しみはいかばかりだろうか。タフでなければ耐えられない。

 このような人達の場合、問題としてクリティカルなのは「何者かになれるか、なれないか」ではない。「何者かになりたい」という気持ちが、歳相応になくなっていかないということ・関心の軸が自分自身から、より若い世代へと移っていかないということのほうが、よほど問題としては大きいだろう。最近は、「不惑」どころか「還暦」を迎えても、なお、自己実現に奔走する人がいるようだけど、あれにしても、そんな歳になっても自分ばかりに関心が集中し続け、老体を引きずりながらビッグな自分(あるいはちょっとでも価値のある自分・ちょっとでも有名な自分)になりたいと執着し続けることこそが、問題の中心とみるのが適当ではないか。

 どうして、そんな歳になっても「何者かになりたい」気持ちが落ち着かないのか?

 どうして、そんな歳になってもアイデンティティが浮遊したままなのか?

 そういう問い返しが必要な人は既に沢山いるし、これからもっと増えるのだろう、と思う。

 歳を取ってからも思春期的心性って本当にしんどいですね。

オタク精神科医がメディアや社会についての分析を語る

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