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過労状態を前提としない働き方を目指せ―NPO法人POSSE事務局長、川村遼平氏インタビュー

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NPO法人POSSEの事務局長を務める川村氏(撮影:永田 正行)
NPO法人POSSEの事務局長を務める川村氏(撮影:永田 正行) 写真一覧
先日発表された政府の推計によると、大学や専門学校への進学者のうち、卒業・中退後に就職し正社員など安定した仕事に就いている人の割合は48%にとどまるという。無事就職できたとしても、就職先がいわゆる「ブラック企業」というケースもあり、若者の雇用を取り巻く環境は厳しいようだ。最近では、ワタミフードサービスに勤務していた26歳女性の自殺が労災認定され、大きな話題となった。「ブラック企業」で働く若者はどのような状況にあるのか?また、若者の厳しい労働環境を改善するためにはどのようなことが必要なのか?若者の労働相談に取り組んでいるNPO法人POSSEの事務局長、川村遼平氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

“ブラック企業”とわかっていても入社せざる得ない若者たち


―まずPOSSEの活動内容や設立の経緯を教えてください。

川村遼平氏(以下、川村氏):POSSEというNPOの活動は、2006年にスタートしました。私が現在事務局長を務めており、代表の今野、雑誌「POSSE」の編集長をしている坂倉など、基本的には若い人間が中心になって活動している団体です。私自身は2007年からの途中参加ですが、今は労働相談とメディア対応を担当しています。

POSSEを設立する直前の2005、6年というのは、若者のフリーター、ニートといった問題がメディアに取り上げられ始めた時期です。当時は、「若者が怠けている」「定職につかなくなった」という文脈で取り上げられることが多かったと思います。

POSSEの設立メンバーは同年代の若者だったので、「若者は怠けている」という主張に対して「それはちょっとおかしいんじゃないか」と感じていました。そこで、街頭で3000人を対象に調査を行ったのです。NHKでも取り上げられたのですが、この調査では、フリーターあるいは派遣、つまり非正規で働いている人たちのほとんどが、フルタイム勤務だということがわかりました。「ダラダラして定職につかない」というのではなくて、「フルタイムで働いているけれど、従来のような待遇で働けない」人たちが増えてきた。これがその当時起きていた変化なのではないかということが、我々の調査結果でした。時代としては、その後「ロスジェネ」などの言説が出てきた頃です。また、この調査の中で、「若い人たちが将来に対してなかなか展望が抱きづらいような状況にある」ということもわかりました。

さらに、職場の状況についても聞き取りをしているのですが、サービス残業や有給休暇が取得しづらいなど、現在の「ブラック企業」につながる労働法違反も横行していました

こうした調査結果を得て、二つの問題意識を持ちました。一つは、いわゆるフリーター、ニートの問題は「若者論」として語られることが多いのにもかかわらず、当の若者が「若者の実態」を発信していない。もう一つは、働いている若者の間では労働法違反が広がっている上に、なかなか将来への展望が開けないような状況にある。そこで、若者が自分たちの意見を社会に発信していける場と、労働相談を受け付ける場が必要だと考えました。この2つのミッションを実現するためにNPO法人を設立したのです。

現在も基幹事業は、相談事業です。また、受け付けた相談にかかわる調査結果や学者の方の分析を雑誌として年4回発行する事業も行っています。設立以前に行った調査結果を受けて、「こういうことが必要なんじゃないか」と考えたことが、事業の基礎になっているのです。

―現在は月ベースでどれぐらいの件数の相談が寄せられているのでしょうか?

川村氏:だいたい月30件ぐらいです。年配の方からの相談もありますが、20代を中心にした若い人がほとんどです。労働組合に入っている若者は少ないですし、そうなると相談に行く窓口がなかなかないというのが現状です。ですから、そういう若者の受け皿になれればという問題意識を持って取り組んでいます。生活相談も受けているので、奨学金の返済や生活保護にかかわる相談も来るのですが、やはり一番多いのは労働相談です。労働相談を受けて、適正な行政の窓口などをご紹介するというのがメインの活動です。

―具体的には、どういう事例が多いですか?

川村氏:活動開始当初は非正規の方の相談が多かったです。ところが、リーマンショック以降ぐらいから、段々正社員の相談が増えてきました。現在相談の類型として増えているのは、「正社員で入った若者がうつになってやめていく」というケースです。これは辞める直前あるいは辞めた後に相談にくる場合が多い。

最近起こったワタミの事件で過労自殺された方も精神障害をわずらっていたと思うのですが、うつ病を発症させてやめざるを得なくなってしまうという方が非常に増えています

―個人的には「ブラック企業」という言葉が社会的に認知されて久しいと思っています。過去数年と比べて、相談は増えているのでしょうか?

川村氏:感覚的には、やはりリーマンショック以降、正社員の相談が増えてきているという実感があります。また、わからない部分もあるのですが、少し前までは「ブラック企業」といっても、半ばネタ的に使われていた部分もあったと思います。しかし、最近は就活生のお母さんやお父さんから「うちの子どもが入社する企業はブラック企業かもしれない」という相談が来ます。

労働環境の程度が、どれくらいひどくなったのかということはわからないですが、今非常に深刻だなと思っているのは、ブラック企業だとわかった上で入社せざる得ない状況にある若者が増えてきていることです。ブラック企業に入ることが、危ないことだとみんな知っている。POSSEに相談に来るぐらいですから、「自分の会社はブラックかもしれない」と相当不安に思っている。そこで、私が「おそらくブラックだと思いますよ」とアドバイスした上で、どうしますかと話をきくと「そこで働くしかないんで働きます」となってしまっているのです。「うつ病の人多いですよねA社は」みたいな相談がA社に内定をとった就活生の親から来たりすることもあります。しかし、それで入社しないかといったら、そうはいかないというような状況もあります。

―「ブラックではない企業」で働いている人には「ブラック企業」の実態というのはわかりづらいと思います。「ブラック企業」では、どういったことが行われているのか、いくつか事例をお話いただけませんか?

川村氏:これはうちに寄せられた相談ではないのですが、ウェザーニューズという企業にも過労自殺でなくなった方がいます。亡くなった方は、入社半年でした。男性で、気象予報士の夢を持って入社したそうです。大卒で気象予報士の資格をもった優秀な方でした。 

ウェザーニューズは「予選」という制度を社内で設けていました。ある意味一番正直だったんですね、他のところは「予選」なんて表現は使わないですから。就活の時にも学生をふるいにかけますが、採用後に「予選」を行う場合は、非常に長時間働かせながら改めて新卒入社の社員の選抜を行います。彼は、長い時で月200時間ぐらい残業した結果、「予選落ち」を告げられて、その翌日に首をつって自殺してしまいました。

また、POSSEに寄せられた相談では予備校講師の事例があります。これもCMなどをしている大手企業です。この企業では、入社の一ヶ月前の3月から毎日研修を行っていました。土日は休みをとれるものの、それ以外で休みがとれたのは卒業式の日のみ。それ以外はずっとフルタイムで、卒業前から働かせていた。その時の賃金は10時間労働で日給7000円とのことでしたので、最低賃金を下回っていました。研修という名目でフルタイム勤務をさせ、4月には即戦力として機能するようにと命じられていたのです。

相談者の方は、都内の私立大卒で留学経験もある優秀な方でしたが、4月に入るとこの方の残業時間は130~140時間ぐらいになったそうです。この会社は正社員に残業代を払っていませんでしたので、時給換算すると600円ぐらいになってしまう。しかし、彼女は人にものを教えるということが好きで、なんとかこの会社でそういうスキルを身につけたいと思っていたそうです。また、就職難の中、「自分を拾ってくれた」会社のために頑張ろうという思いもあり4月中は頑張って働いていました。

ところが途中で「あなたは講師に向いていない」ということで事務にまわされてしまったのです。この過程で起きたのは、講師の契約を事務に変更することを名目とした一方的な賃下げです。それでも彼女は、「自分に実力がなかったから」と受け入れて事務として頑張ろうと思っていたそうです。

この段階で、その方の母親から私どもに相談が来ました。「うちの娘がどうやら非常に長時間労働をしている。このままでは体を壊しかねない」という相談です。既に体調の不良もでてきているという連絡でした。そこで私が本人と話をして「あなたのところは残業代も出てないし、一方的に不利益変更もしている。会社のしていることはおかしい。しかも過労死ラインをオーバーした長時間労働で体を壊しかねない」と言ったのですが、頑なに「自分はまだ頑張ります」といわれてしまいました。

その1ヵ月後ぐらいに再度電話が掛かってきたので、話を聞くと、5月に入ってより長時間労働になった上に賃金も削られてしまったというのです。自分が生活していくことが不可能になり、困り果てて会社に「辞めたい」と申し出たところ、「こんな短期間で辞めるなんてお前は社会の常識は知らんのか」と叱責をされた挙句、なかなか辞められない状況になってしまった。

しかも、その時の彼女の相談内容は「どうやったら辞められますか?」ということでした。このケースであれば、未払いの残業代を請求することができるでしょう。また、そもそも長時間労働に伴う過労で辞めなければいけないのであれば、生活保障を要求することも考えられます。色々やり方があるにもかかわらず、穏便に辞めるにはどうすればいいかという相談だったのです。彼女には、労働組合を紹介し、労働組合経由で残業代の未払い部分と一定の賃金保証の交渉を行いました。これらを受け取った上で、彼女は退社したのですが、会社と交渉している中でわかってきたのは、最初にいた同期10人のうち1人は事務に回り、別の2人は既に自己都合退職していたという事実でした。

会社側が認めたわけではないですが、このケースで言えば、事務で募集を掛けても人が集まらないため、講師で人を集めておいて、何人かは辞めさせるなり、事務に回すということを最初から考えていたのではないかと思っています。

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