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「私がグーグル、ゴールドマン・サックスを辞めた理由」―大企業を去る優秀な人材たちと問われる企業文化

goldman 「私がグーグル、ゴールドマン・サックスを辞めた理由」―大企業を去る優秀な人材たちと問われる企業文化 Why I left Google Or Goldman Sachs  Why Does Corporate Culture Deteriorate?

『オキュパイ・ウォールストリート(ウォール街を占拠せよ)』という世界中を巻き込んだ抗議活動は、まだ記憶に新しい。そんな中、ウォール街でトップの投資銀行の一つであるゴールドマン・サックスの欧州デリバティブ部門トップ、グレッグ・スミス(Greg Smith)氏が、3月14日付けのニューヨークタイムズ紙に『私がゴールドマン・サックスを去る理由(Why I Am Leaving Goldman Sachs)』と題して手記を発表した。同投資銀行の組織文化がいかに極度の金儲け主義に陥り、顧客の利益を全く顧みないものになっているかを綴った内容に、全米が一日中騒然となった。

グレッグ・スミス氏は、南アフリカ出身で、奨学金により授業料を全額免除してもらいスタンフォード大学へ進学。学部時代にサマー・インターンとしてゴールドマン・サックスで勤務し、卒業後も同行のニューヨーク・オフィスで10年間、そしてロンドン・オフィスで2年間勤務した。

スミス氏は手記の冒頭で、「ここ(ゴールドマン・サックス)の文化、人、アイデンティティーがいかに変化してきたか理解できるくらい、十分長い期間、私は勤務してきた。そしてここの今の環境は、私がこれまで見てきたことがないほど有毒で、破壊的なものとなっている」と綴っている。

投資銀行はそもそもマネー・ビジネス。そこで12年も勤務して今さら何をと思う人も多いだろうが、スミス氏はこうした意見に対して次のように語っている:

「懐疑的な世間一般には驚きに聞こえるかもしれないが、ゴールドマン・サックスの成功にとって、常に不可欠な部分が組織文化だった。それはチームワーク、高潔さ、謙虚さ、そして常にクライアントにとって正しいことをするといったことを中心にしていた。この文化が、ゴールドマン・サックスを偉大な場所にし、クライアントの信頼を143年間、勝ち取ることを可能にしていた秘密のソースだった。金儲けが全てではなかった。金儲けだけでは、これだけ長年にわたって会社を維持することはできない。この文化は、組織に対するプライドと信念とに関係していた。こういうのは悲しいことだが、今日、周りを見回してみて、私がこの銀行で何年間も喜んで勤務する理由だったこうした企業文化は、その微塵も目にすることはない。私は、プライドも信念も失ってしまった」。

グーグルもゴールドマン・サックスと同じ?

偶然にも、前日の3月13日、グーグルの元エンジニアリング・ディレクターであるジェームス・ウィティカー(James Whittaker)氏が、『私がグーグルを去った理由(Why I Left Google)』という投稿を自身のブログで行っている。ゴールドマン・サックスのスミス氏ほど全米では注目を集めていないが、その内容はスミス氏と同様、グーグルという会社の組織文化が変わってしまったことを正直に批判したものとなっている。

google 「私がグーグル、ゴールドマン・サックスを辞めた理由」―大企業を去る優秀な人材たちと問われる企業文化 Why I left Google Or Goldman Sachs  Why Does Corporate Culture Deteriorate?

ウィティカー氏の意見を最も集約した言葉は以下だろう:

「私が大好きだったグーグルは、社員がイノベーションを引き起こすことができるようにするテクノロジー・カンパニーだった。私が去ったグーグルは、企業命令で単一のことに集中してしまっている広告企業だ」。

ウィティカー氏によると、初期からグーグルは広告による売上で運営されている企業だったかもしれないが、それが全面に出ることはなかったという。エリック・シュミット氏がCEOだった時代、既に広告ビジネスが主な収益源であったが、それは背景にあって、グーグルは第一にテクノロジー企業であるとほとんどのエンジニアたちは感じていた。優秀な人材を採用し、彼らのアイディアと才能に資金を投資し、イノベーションを引き起こすという循環が起きていた。しかし、ここ3年で組織文化は変わってしまったという。

また、Google+の開発プロジェクトにも関与していたウィティカー氏は、ソーシャル・ビジネスに乗り遅れたグーグルについて面白い(そして大変分かり易い)比喩で説明している。例えば、「ウサギとカメ」の寓話になぞらえ、「自信があるあまり短い昼寝をしてしまったウサギのように、グーグルはソーシャルについての夢から醒めると、これまで広告事業で先頭を走っていたのが、(フェースブックの)脅威にさらされていることに気が付いた」状態であると言う。

そして、ソーシャル化の遅れを取り戻そうと、検索もソーシャル、Androidもソーシャル、YouTubeもソーシャル、そしてイノベーションもソーシャル一色となった。こうした企業命令の結果、Google+が生まれたが、この経緯について、「グーグルは金持ちの子供のようだ」とウィティカー氏は言う。

「グーグルは金持ちの子だ。パーティーに自分が呼ばれていないのを知って、対抗して自分だけのパーティーを開いた。そしたら、誰もグーグルのパーティーには来てくれなかった・・・」。

つまり、ソーシャル・メディアというブームがフェースブックを中心に巻き起こり、それに取り残されそうになったグーグルは、潤沢な資金を頼りに独自のGoogle+というSNSを構築したが、パーティーの参加者たちがフェースブックからGoogle+に大きく移動することはなかったことをこの比喩でうまく言い表している。

そして、ウィティカー氏は、「真実を言えば、私はこれまで広告にそれほど興味を持ったことがない。広告をクリックすることもない」と告白をしている。さらに、「私がeメール・メッセージに書く内容に基づいてGメールが広告を表示するのは、不気味だ(it creeps me out)」とも書いている。まさに、最近ここここで紹介したように、グーグルの(元)社員ですらグーグルの広告表示について不気味(creepy)と感じると告白している。(但し、ウィティカー氏は、この点に関して基本的にフェースブックもツイッターも「同じ穴のムジナ」である点を指摘している。)

企業文化はなぜ悪化するのか?

組織は巨大化し年を取るほど、硬直化し変化に順応できにくくなると一般に言われる。そのことと、企業文化が変質してしまうことは深く関係しているように思う。イノベーションの多くが、R&D予算が潤沢な大企業ではなくベンチャー企業によってもたらされるという「イノベーションのジレンマ」とも呼応しそうだ。

しかし、「以前はよかった」と語るゴールドマン・サックスのスミス氏とグーグルのウィティカー氏に共感する古株の社員は他にもいるはずである。彼らは自分たちの手で企業文化を元に戻すことはできなかったのだろうか?会社を退職して初めて公に本音を言えるというのは理解できるが、辞める前に彼らができることはなかったのだろうか。

社会学や言語学の分野では、「創始者効果(founder effect)」と呼ばれるが、時間と共に新しい構成メンバーが入ってきて創始者メンバーよりも多数派になったとしても、その組織の創始者メンバーが持っていた文化は引き継がれるという現象を指す。例えば、アメリカでは2000年の国勢調査でドイツ系がイギリス系を抜いて最大多数派の民族グループになっているが、初期の入植者たちが利用していた英語がいまだに公用語として継続して利用されており、これも「創始者効果」の一つである。

ゴールドマン・サックスやグーグルにあった古き良き企業文化、それを惜しんで退社していく元社員たちの手記が発表されることで、「創始者効果」がこれら組織で呼び覚まされることを期待したい。

Source:
Why I Am Leaving Goldman Sachs;
Why I left Google;
As ‘Why I Left’ Letters Reach Meme Proportions, Startups Hope Goldman’s Moral Loss Is Their Gain;
Why Companies Fail

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