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自民党のトンデモ改憲原案はもはや「憲法」とは言えない この国にはまともな政党はないのか

 

 自民党は2012年3月6日、憲法改正推進本部(保利耕輔本部長)の全体会合を党本部で開き、起草委員会が作成した改憲原案を基に意見集約に着手しましたが、修正を求める意見が相次ぎ、結論を持ち越したということです。

 会合には安倍晋三元首相や石破茂前政調会長ら30人超が出席したのだそうですが

 「天皇は国の元首」とした1条改憲案には「天皇は世俗の存在なのか」「元首と書けば他国の元首と同格になってしまう」などの異論が続出。

  3条では国旗・国歌について「国民は尊重しなければならない」と規定しているのに対して「国旗は日の丸、国歌は君が代と明示すべきだ」などの声も出たということです。そんなこと、最高法規である憲法で規定することじゃないの!

 9条については改憲原案が自衛軍とはっきり軍隊を持つと規定したのに対して、さらに「集団的自衛権の行使を明記しなければ意味がない」の声が上がり、さらには「自衛軍ではなく国防軍や防衛軍とすべきだ」との意見が出たんだとか。

 そっちかよ、突っ込む方向は!?この改憲案では軍事法廷まで設立することになっていて、もはや軍国主義。


(憲法学の泰斗 芦部信喜著 憲法第5版





 さて、首相公選制に関して、橋下徹大阪市長は「天皇が元首である事と矛盾しない」とし、小沢一郎民主党元代表は「天皇が元首であることと矛盾する」と言っています。

 しかし、戦後の象徴天皇って政治的な権能がなく、とくに外交権能が形式的なものしかないので、上の本にもあるように、もともと対外的に国を代表することを本質とする元首じゃないから。

 自民党も維新の会も民主党も、もう少し憲法学を勉強してから改憲云々を言ってくださいな。

 だいたい、自民党は、菅前首相が福島第1原発から逃げようとする東電を引き留めるため東電に乗り込んだことや、浜岡原発の停止要請をしたことに関して猛烈に文句を言っていました。

 ところが、95条ではこってこてに緊急事態条項を入れて、内閣と総理大臣の非常大権、国民に対する緊急命令規定を入れるなど、矛盾と危険が一杯の自民党改憲案。

 これまで、維新の会の首相公選制や参議院廃止などの維新八策改憲案が非現実的だと書いてきましたが、長く政権党だった自民党の改憲案のトンデモぶりはさらに輪をかけて、目を覆わんばかりです。

 緊急事態条項や非常大権よりも、下の本にあるように、震災も原発事故も人権保障の基本法たる憲法に立ち戻ってどうすべきかを考えるべきなのです。


(憲法学者と法律実務家などが集結した労作。「3・11と憲法」)





 ですが、自民党改憲案全体の中で、ひどい中でも一番悲惨なのは1条、3条、9条、95条以上に、99条です。

【第10章 最高法規】

 第99条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。

日本国憲法の99条と比べてみましょう。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 ね。憲法を尊重する義務を負う主体が全然違うでしょう?

 日本国憲法では、憲法尊重擁護義務を負うのは公務員たちであって、国民は入っていません。戦前の経験に鑑みて、最も人権侵害の主体となりそうな公務員にこそ憲法を尊重し擁護する義務を課しているのです。

 これは、下の本にもある、憲法がなぜ必要かという立憲主義の理解に関わっています。


(ロースクール生必携 高橋和之著 立憲主義と日本国憲法





 もともと、憲法は人々の人権を守るためにあります。憲法は自由の基礎法と呼ばれるのです。

 そして、例えば、国会は日本国憲法41条で「唯一の立法機関である」と規定されることによって、初めて立法権という権限が授けられます。これは憲法の授権規範性(権限を授ける規範=ルール)といいます。

 43条1項で「全国民の代表」とされる国会だからこそ、国民の人権を制約する可能性のある法律を作ることができると憲法は立法権を授けたわけです。よくできています。

 さて、国家機関は憲法から権限が授けられて初めて権限を得るわけですから、各国家機関は憲法から授けられた権限しか持ち得ません。たとえば、内閣は行政権、裁判所は司法権。これを制限規範性(制限する規範=ルール)といいます。

 憲法が制限規範性を持ち、最も国民の人権を侵害する可能性が高い国家機関の権力を制限することに自由の基礎法たる憲法の本質があるのです。

 法律は国が国民に命じる側面がありますが、一国の法的規範の中で憲法だけは、国民が国家に対して、「自由と人権を侵害するな。そのために国会は立法を、内閣は行政を・・・・」と命じる規範なのです。これを命令規範性(国民が国家機関に命令する規範=ルール)と言います。

 下の二つの図のように、憲法は国民から国家権力に向けられた規範=ルールなのです。






 ですから、このような国民の人権を守る「自由の基礎法」である憲法を尊重する義務は、国民に課されるわけはなくて、国家機関を担う公務員だけに課されるのです。

 このような自由の基礎法、憲法の制限規範性や授権規範性、命令規範性というのは、近代立憲主義における憲法の必要不可欠な要件です。1789年のフランス人権宣言16条が

「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法をもつものではない」

としているのは、このことを意味しています。

 ですから、公務員にではなく、国民だけに憲法尊重擁護義務を課す自民党の憲法改悪原案は、200年以上前の中世・封建時代に先祖返りしてしまっていて、立憲主義に真っ向から反しているのです。

 フランス人権宣言に言わせれば、自民党改憲原案はもはや「憲法ではない」ということになります。

 日本では、立憲主義とは何かも分かっていない政党が長く政権を握り、またも政権に返り咲こうとしており、その際にこんな、世界の人に読んで頂くのが恥ずかしい改憲案をまとめようとしているわけです。

 ニッポンの恥、自民党。

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