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14回目の日中共同世論調査結果をどう読み解くか

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 私たちが、中国と日中共同の世論調査を開始してから実に14年になる。中国で国民の意識を継続的に調査するものは極めて稀有であり、世界でもこの調査しか存在しない。

 この間、日本と中国のお互いに対する感情は悪いままで、それが両国関係に深刻な影響をもたらしていた。私たちの調査は、こうした対立する世論の改善を目的とする民間対話、「東京―北京フォーラム」の取り組みと連動しており、多くの有識者に議論の材料を提供している。

 私たちが、10月11日に公表した14回目の調査結果では、中国国民の日本への印象や日中関係に対する意識がこの一年で大きく改善したことが明らかになっている。しかも、この改善は全面的なもので、これまで日中関係の大きな障害となった中国人の歴史認識も含めてこれまでの対立的な感情は沈静化し、日中関係の今後に楽観的な見方が強まっている。

 ところが、日本人の意識は中国のようには改善せず、対称的な傾向がより鮮明になっている。今回の調査では現状の日中関係に対する日本人の悲観的な見方も大きく減少したが、8割を超える日本人は依然、中国に「悪い」印象を抱いている。

 さらに言えば、この中国人の意識の改善には例外が存在している。日本に軍事的な脅威感を持つ中国人は逆にこの一年で増大し、日本が世界で最も軍事脅威を感じる国となっている。日本人の中でも、中国の行動に脅威を感じる人がこの一年で増えており、安全保障に限って言えば両国民間に緊張が広がっている。

 こうした傾向をどう考えればいいのか、それが今回の調査に求められた課題となる。

中国人の対日印象はなぜ全面的に改善したのか

 日中両国は今年、国交正常化後の条約となる日中平和友好条約締結の40周年を迎え、政府間係の改善や協力に向けた取り組みが本格的に始まろうとしている。

 私たちは10月14日に東京で、日中の民間対話、「東京―北京フォーラム」を行うが、その一週間後には安倍首相が訪中し、習近平氏との会談を予定している。

 北朝鮮の非核化に向けた動きが米国と北朝鮮、韓国の間で始まり、米国の自国第一主義に基づく、米中の貿易戦争も激しさを増している。 

 今回の調査はそうした環境下で行われたということには留意が必要である。

 まず、今回の調査で浮かび上がった第一の最も大きな特徴は、中国人の日本に対する印象が全般的に改善したことにある。

 中国人で日本に対して「良い」印象を持っているのは昨年の31.5%から42.2%に上昇し、「悪い」は56.1%と昨年の66.8%から10ポイントも改善している。

 日本に「良い」印象を持つ中国人が4割を超えるのは過去14回の調査で初めてであり、この傾向が続くと来年の調査では「良い」が「悪い」を上回る可能性がある。

 ところが、日本人の中国に対する印象は今年も改善が進まず、今年も86.3%と9割近くが中国の印象を「悪い」と見ており、昨年(88.3%)と比べてほとんど変化はない。


 この数年、顕著となった中国人の日本の印象の改善は、国民間の直接交流の増加と若者層を主体とした情報源の多様化がその基本にある。

 こうした構造自体は今年も昨年と同じであるが、今回は昨年と状況が異なっている。年代や情報源の違いを超えて、意識の改善は国民各層で全面的に進んでいるからである。

 その背景には、日中関係の改善に向けた両国政府の動きと、中国側の既存のメディアを通じた広範な努力がある。

 まず、中国人の日本への観光客の増加である。2018年も昨年の736万人をさらに上回る勢いにあり、この状況は世論調査でも確認できるが、日本に訪問経験があると回答した人は18.6%(昨年は15.7%)と昨年より増加し、この訪問者の9割は、5年以内に日本を訪問したと回答している。

 この訪問者の実に74.3%もが日本の印象を「良い」と感じており、訪問経験がない人の34.9%を大きく上回っている。


 私たちが次に注目したのは、情報源の多様化である。昨年の調査で私たちが指摘したことは、情報源を携帯電話などの情報アプリに求める傾向が20代未満に広がっていることである。携帯電話を情報源にする層は従来型のメディアよりも対日意識が良くなっており、その傾向が20代未満に突出している。

 この傾向は今回の調査でも20代未満に確認されたが、今年は年代別や情報源別の格差はむしろ小さくなり、改善は全般的なものとなっている。

 今年も、日本の印象を「良い」とする20代未満は63.1%と突出するが、20代でも昨年から増加。30代、40代の層も昨年から一転しそれぞれ40%を超えている。そして、50代では13ポイント、60代では20ポイントも「良い」が昨年から増加している。


 また、従来型のメディアであるテレビや新聞を情報源とする層にも変化が起こった。日本の印象を「良い」とする人は、テレビを情報源とする人は38.9%(昨年25.4%)、新聞が42.2%(同20%)へと増加した。いわば、年代や情報源別を超えて日本に対する意識の改善が、進んだのである。


 こうした傾向は、既存の中国メディアの報道を抜きに判断はできない。

 今年、日中間では政府間や政治家の関係改善に向けた動きが加速したが、中国メディアはこれらを積極的に報道している。今回の調査でも中国人の86.6%と9割近くが、中国メディアが日中関係の改善に「貢献した」と回答しており、昨年の77.8%から9ポイントも増加している。

 これに対して日本メディアが「貢献した」と見る日本人は30.2%しかない。

日本人の意識は、中国人と同じく改善したわけではない

 今年の調査の第二の特徴は日本人の意識が、こうした中国人の意識と対称的な傾向を示していることである。

 いくつかの設問から、日本人が最近の中国の行動に違和感を覚えていることが明らかになっている。日本人の中国への印象が改善しない直接の要因はそこにある。

 今回の調査では、日本人にも中国に「良くない」印象を持つ理由を聞いたが、「中国が日本の領海や領空をたびたび侵犯している」が58.6%(昨年は56.7%)で最も多く、「中国が国際的なルールと異なる行動をする」が48%(同40.2%)で続いている。これらはいずれも昨年を上回っている。

 私たちはこの設問を、日本の有識者約400氏にもメールで尋ねたが、中国への違和感は有識者層でより強いものとなっている。「中国が国際社会でとっている行動が強引で違和感を覚える」が79.9%(昨年68.2%)と8割に迫っており、「共産党の一党支配という政治体制に違和感を覚える」が75.2%(同61.1%)で続いている。しかも、この二つを選ぶ人はこの一年で大幅に増加している。


 もっとも、その背景には日本人の中国を認識するゆがんだ構造がある。中国に訪問経験がある日本人は中国に対する印象が中国人ほどではないが、若干は好転することが確認されている。ところが、日本人で中国訪問の経験がある人はこの調査が始まってからほとんど変化もなく、むしろこの2年間は減少傾向にある。

 その結果、一般の日本人の中国に対する意識は、日本の既存メディア、とりわけ日本のテレビ報道に強く依存をせざるを得ない状況となっている。

両国民はまだ現状の日中関係が「良い」と判断したわけではない

 こうした中国人と日本人の意識の温度差は、多くの項目でも鮮明になっている。

 現在の日中関係の評価に関しても政府間の努力が奏功して両国民の意識に改善傾向がはっきりと浮かび上がる。これも特に中国人にその傾向が堅調である。

 中国人で、現状の日中関係を「悪い」と見ている人は昨年の64.2%から45.1%に20ポイントも改善し、日本人は今年39%と4割を切っている。両国民ともに「悪い」が、半数を下回るのは8年ぶりである。

 ただ、両国民はまだ現状の日中関係が「良い」と判断したわけではない。
特に日本人に厳しい見方が存在する。中国人では現状の日中関係が「良い」と判断する人が30.3%と3割を5年ぶりに回復したが、日本人で7.2%しかいない。

 また、日本人は今後の日中関係を中国人ほどには楽観視していない。 
今後の日中関係を「良くなっていく」と期待する中国人は38.2%と4割に迫っているが、日本人は15.6%にすぎず、むしろ18.3%の「悪くなる」や37.6%の「変わらない」の方が上回っている。


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