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円安が景気回復に役立っていない理由を考える ‐ 塚崎公義 (大学教授)



経済ニュースをご覧になってる方はご存じだと思いますが、現在円安が進んでいます。戦後の日本経済を振り返ると、円高は景気に悪く、円安は景気に良い、と言われ続けてきました。しかし、最近では円安が景気を刺激しているのか否かも定かでは無いようです。本稿では円安は今でも景気にプラスなのか?を考えてみたいと思います。

■かつては円安で輸出数量が増えたのだが……


高度成長期の日本経済は、「品質は今ひとつだが価格が安い日本製品」を大量に輸出して外貨を稼いでいました。当時は固定相場でしたが「円相場が切り上げられたら、価格の安さだけを武器に売っている日本製品は輸出が激減するだろう」と言われていました。

その後、日本製品の品質が向上したことで「値段が高くても、品質が良いから日本製品を買いたい」と言われるようになりました。1985年のプラザ合意により大幅な円高が進みましたが、輸出数量はそれほど落ち込まなかったのです。

その後も日本製品の品質向上は続きましたし、工場の海外進出に伴う「地産地消」も進みました。「円高でも円安でも企業の収益が振れないようにしよう」という企業が増えたからです。それによって、円安でも円高でも輸出入数量にあまり変化が生じないような体質に日本経済は変化して来たのです。

アベノミクスでドル相場が80円あたりから120円あたりまで大幅な円安となりましたが、輸出入数量にはほとんど影響がありませんでした。いくら地産地消等々の理屈はわかるにしても、それでも変化が無さすぎて筆者も大いに驚いたほどです。

円安で輸出数量が増える、あるいは輸入品需要が国産品需要に置き換えられれば国内生産が増え、景気にプラスに働くのですが、そうはなりませんでした。影響が皆無だとは言いませんが、極めて限定的であったわけです。

アベノミクス以降、外国人観光客が増加し、ホテル代や土産代などが国内企業の収入増に繋がりました。その分は景気に貢献していますが、外国人観光客の増加は円安ドル高以外にも多くの要因によってもたらされたものですから、これも「円安が景気に貢献した」とは言い切れないでしょう。

■輸出企業の利益は増えるが、日本全体ではそれほど儲からない


円安だと輸出企業が海外から持ち帰った外貨が高く売れるので、輸出企業の利益が増えます。しかし日本は輸出と輸入が概ね同額なので、輸入企業が外貨を高く買わされる分と相殺すれば、プラスマイナスゼロですね。もしかすると、円建ての輸出契約があるので、差し引きマイナスの影響があるのかも知れません。

さて、輸出企業が外貨を高く売って儲けた分は、多くが輸出企業の利益となり、株主に配当されるか内部留保されるはずです。株主は配当を受け取っても消費を増やすわけではなく、資金を別の投資に振り向けるだけでしょうし、内部留保も借金の返済に回る部分が多く、設備投資などに回る部分は多くなさそうです。

内部留保が増えると、株価にはプラスの影響がありますが、株高によって投資家が消費を増やす影響(資産効果と呼ばれます)も、日本では大きくないと言われています。個人投資家が持っている株が少ないからです。

一方で、輸入企業が外貨を高く買わされた分については、売値に転嫁される部分も多く、消費者物価を上昇させることになるでしょう。消費者は、限られた予算で消費をしますから、消費者物価が上がれば消費数量が減ることになりがちです。それは、企業の売り上げ数量を減らし、生産数量を減らし、景気にマイナスに働くことになるでしょう。

■投資収益等は、景気への影響が小さい


経常収支のベースで言えば、投資収益収支は大幅な黒字ですから、投資家の得る利益は円安で増えます。ところが投資家は利益を得ても再投資するだけでしょうから、その分は景気にはあまり影響しないと考えましょう。

日本は巨額の対外資産を持っています。その多くはドルでしょう。一方で、対外負債の多くは円です。そうなると、対外資産が円建て換算で増えた分だけ投資家たちの資産が増えることになります。しかし、これについても、「外貨投資で儲かったから贅沢をしよう」といった資産効果は小さいでしょうから、、本稿では重視しないことにしましょう。

■理論的には物価の上昇が景気を抑制する可能性もあるが……


理論的には円安が消費者物価を押し上げて、日銀の金融引き締めを招き、景気後退の要因となってしまう可能性もあります。もっとも、金融緩和真っ只中の今の日本では、そうしたことは全く考えられませんが。

さて、上記のように、円安により、景気にプラスに働く力とマイナスに働く力が様々に作用します。トータルの影響はケース・バイ・ケースなのでしょうが、どれも大きな力とは言い難いため、あったとしても小幅なプラスといった所ではないでしょうか。

いずれにしても、かつてのように、円高は景気に悪く、円安は景気に良い、といった明確なものではなさそうです。

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