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最高益"セブン&アイ"に残された深刻課題

■営業利益は「過去最高益」を更新したが……

セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)の業績が好調だ。10月11日に発表した2018年3~8月期の連結決算で、グループ全体の売上高は前年同期比で12%増の3兆3435億円、営業利益は3%増の1996億円で、同期間では過去最高となった。海外のコンビニエンスストア事業の売り上げが大きく伸びた。

2016年5月、わが国にコンビニを根付かせ“流通のカリスマ”の異名をとった鈴木敏文氏が、会長を退任した(現在は名誉顧問)。中興の祖ともいうべき鈴木氏がセブン&アイの経営から手を引いたことで、同社の経営に不安を持つ市場参加者は少なくなかっただろう。

鈴木氏の退任から2年以上が経過したが、この間、現社長の井阪隆一氏は不採算店舗の閉鎖などの構造改革を進めてきた。その努力は足元の好業績という形で実を結びつつある。

2016年にセブン&アイ・ホールディングスの会長を退任し、名誉顧問となった鈴木敏文氏(写真=時事通信フォト)


ただ、人口減少や少子高齢化が進むわが国の経済環境を考えると、小売業界を取り囲む環境は厳しさを増している。そうした状況下、やや気がかりなのはセブン&アイの改革にスピード感が不足していることだ。

IT先端技術の実用化とともに、世界経済の変化は加速化している。特に、中国のアリババや米国のアマゾンは世界各国で先進的な取り組みを進め、小売業界での存在感を高めている。セブン&アイが今後の成長を実現するためにはIT先端技術などを用いて、従来にはない発想で業務を改革できるか否かにかかっているといっても過言ではないだろう。

■鈴木氏に依存した結果、後継者が育たなかった

これまでのセブン&アイの成長は、前会長である鈴木敏文氏の存在を抜きにしては語れない。1973年、鈴木氏は米サウスランド社と提携してヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)を設立した。これは、わが国の小売業界に“革命”を起こした。

それまで、わが国の小売業界では個人商店や総合スーパーの存在感が大きかった。そうした状況を考えると、「米国で流行し始めたコンビニが国内で定着するわけがない」とコンビニ事業への進出を目指す鈴木氏への反対は強かった。ただ、その後の展開を見れば、セブン-イレブンの成功は明らかだ。

逆の見方をすると、セブン&アイは鈴木氏に依存しすぎた。その結果、商品開発から人事まで、組織の隅から隅まで鈴木氏の意向に従う文化が出来上がったと指摘する流通業界の専門家は多い。

最大の問題は後継者が育たなかったことだ。

■カリスマ経営者が去った後を市場は注視してきた

カリスマ経営者と言えども、いつまでも経営トップに居続けることはできない。どこかで経営のバトンを次世代に引き継がなければならない。鈴木氏が汚点を残したのは、当時の社長兼最高執行責任者(COO)であった井阪氏の解任案に創業家や社外取締役、主要株主の賛同を得られなかったことだ。

鈴木氏は井阪氏のリーダーシップを疑問視していたという。退任会見の場で鈴木氏が井阪氏の手腕を批判したこともあり、セブン&アイ中興の祖である鈴木氏の退任は、同社の先行き不安を高めた。

それは株価の動向を見れば一目瞭然だ。鈴木氏がグループの経営から退いた後、セブン&アイの株価は4000円台半ばでもみ合ってきた。そこから示唆されることは、カリスマ経営者が去ったセブン&アイがどのように業績を伸ばすかを慎重に見極めようとする市場参加者が多かったということだ。

株価が大きく下落しなかった背景には、鈴木氏が築いた基盤が強いため当面の収益獲得は何とかなるとの見方もあっただろう。鈴木氏退任後のセブン&アイの経営を、「熟練の船頭を失った船」と言い表すベテランアナリストもいた。

■成長の柱は米国のコンビニエンスストア事業

現社長の井阪氏は、日米のコンビニ事業をグループの成長の柱の一つに位置付けてきた。現状、米国事業は好調だ。背景には、米国経済の好調な推移がある。昨年12月、トランプ政権は連邦レベルでの法人税率を35%から21%に引き下げる税制改革法案を成立させた。この結果、企業業績が拡大し、賃金も緩やかに増加している。トランプ大統領は、もともと好調だった米国の経済を減税によって押し上げたということだ。

その結果、第1四半期、米国事業の商品売り上げは1000万ドル増加した。また、米国でガソリンの小売り価格が上昇したことも増益を支えた。それに加え、買収の効果もあった。今年1月、セブン&アイは米中堅コンビニエンスストアのスノコから1030店舗を買収した。この戦略は堅調な米国の個人消費の取り込みにつながり、営業利益を1500万ドル程度押し上げた。

一方、グループの利益の6割程度を占める国内のコンビニ事業は、人件費の増加から営業利益が増えていない。ここが同社の課題だ。

■国内事業の収益性向上には「省人化」が不可欠

井阪氏の指揮の下、同社は人件費増加に直面する店舗オーナーの負担軽減のために経営指導料(チャージ)を1%減額し、店舗網の拡大につなげようとしているが十分な効果は出ていない。

今後も、人件費の問題はセブン&アイの業績の足を引っ張るだろう。なぜなら、わが国では少子化、高齢化、人口の減少という3つがセットで進んでいるからだ。人手の確保は、どの企業にとっても無視できない問題である。需給が逼迫する中で人手を確保するためには、賃金を上げざるを得ない。

人手不足が深刻化する中で同社が国内事業の収益性を高めるためには、省人化への取り組みが重要だ。それは、店舗従業員一人あたりの付加価値創出額を高める(労働生産性を向上させる)ことである。機械に任せられることは機械に任せ、人にしかできない部分でより多くの付加価値を創出していくことができるか否かがポイントだ。

■セイノーHDとの業務提携に要注目

セブン&アイが省人化を進めるためには、IoT(モノのインターネット化)に関する技術の導入を促進していくとよいだろう。IoTの導入促進は、セブン&アイの構造改革を加速化させるはずだ。国内ではITスタートアップ企業主導で、無線識別機能を持つICタグ(RFID)とクレジットカードを用いた小型店舗の無人運営が進められている。アマゾンのように画像認識技術を用いることでレジの無人化を実現することも考えられる。

省人化を進めることによって、セブン&アイは余った労働力を他の事業に活用できる。2017年4月同社は物流大手のセイノーホールディングスと高齢者向けの見守りと宅配事業で提携した。この取り組みの先行きは実に興味深い。

IoTで省人化を進めつつ、介護の知識を持った店員が宅配や相談に対応してくれるのであれば、一人くらし高齢者の安心感は高まるだろう。それは、セブン&アイが新しい需要を生み出すことを意味する。さらには、物流企業と協働して効率的な仕入れと宅配のネットワークを整備することも考えられる。

■物流大手との協業にさらなるスピード感を持つべき

そうした取り組みを進めることは、セブン&アイが新しい流通革命を目指すことといえる。それはわが国だけでなく、高齢化が進む中国など海外の市場でもセブン&アイのコンビニ事業の競争力を高めるだろう。

同社は収益源の多様化のためにさまざまな企業との提携を進めているが、その中でも物流大手との協業はさらなるスピード感を持って強化されるべきだ。第1四半期の決算説明会の資料にこの点に関する言及がなされていないのは、やや残念だ。

現在のセブン&アイの業績は、鈴木前会長が整備した事業基盤に、井阪現社長の米国事業の強化策などが加わり上向いている。同社がさらなる成長を目指すには、かつてのコンビニ事業のように新しい取り組みを進めることが必要だ。IoTを用いた省人化の取り組みを進めることは、同社の構造改革を加速化させ、より強固な成長基盤の整備につながるだろう。

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真壁昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年、神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。 ----------

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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