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『うつ病九段』は、すべての人に希望を届けてくれる。


多くの著名人が大病を告白し、そのプロセスを語ることも多くなった。難しいこともあるだろうけれども、意味はあると思う。

病は、孤独だ。本人はもちろん、家族にとってもそうだ。見知らぬ人のできごとでも、「そういう人がいるんだ」という事実は、力になる。それは実感としても経験がある。

そして、棋士の先崎学九段が書いた『うつ病九段』は、そうした数ある「闘病記」の中でも、とてもとても価値がある本だと感じた。

自らの経験を「客観的に記述する」ことはそもそも難しく、病であればなおさらだし、うつ病であれば想像もつかない壁があるだろう。

だから、ここには彼の経験のすべてがあると期待したわけではない。それでも、発病から快復に至る過程には静かな感動がある。

それは決して劇的なストーリーではない。ミサのような静かな宗教曲を、ジーッと聞いてるうちに、気づいたら曇り空に陽が射していた――そんな感覚になる一冊だ。

よく言われるが、うつ病になる可能性は誰にでもある。しかし、自分の中にもまだまだ大きな誤解があったんだなと思った。

うつ病は「だいたいいまだに心の病気といわれている。うつ病は完全に脳の病気なのに」と語られる。この話は、終盤になって精神科医である、実兄の言葉だ。

このことは、先崎氏の快復過程を読むとよくわかる。現役九段の棋士が、「棋譜を見ても何が起きているかがわからず」に、なんと簡単な詰将棋すら解けなくなるのだ。

この絶望から立ち直っていく姿は、まさにうつ病が脳の病気であることを、明らかにしているのだろう。棋士が記録を残したことで、いままで知らなかった「うつと脳の働き」がおぼろげながらわかるように感じた。

この辺りを読むと、「心のカゼ」というある種わかりやすいフレーズは、誤解を招いたのかなと思う。

そして、親しい棋士と段々と将棋を指し始めて、またいろいろな言葉をかけてもらいながら、一歩ずつ前に向かう姿はとても沁みてくる。それは、病を経験した人だけではなく、すべての人にとって「希望と快復」の可能性を教えてくれるのだ。

読後に感じたんだけど、「人に優しくする」ってことの本当の意味ってなんなんだろうか?なにか正解があるわけじゃないけど、この話に出てくる家族や棋士仲間は、きっと知らぬうちに優しさをわかち合ってるんだろう。

『うつ病九段』は単なる闘病記ではなく、「人が生きる姿」を描いた、とてもとても貴重な記録だ。

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