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20歳まで子供は"うつ"を言葉にできない

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マンガ家の田中圭一氏が自身をはじめ各界著名人のうつ病体験を記した『うつヌケ』が15万部超のベストセラーを記録した。いまや国民病といわれるうつ病に、どう向き合えばいいか。精神医療の第一人者が、ストレスの多い現役世代にアドバイスを送る。

■生真面目で責任感の強い人は注意

実は「うつ病とは○○である」というはっきりした答えはありません。いまだに病気の本体や原因はよくわかっていないのです。1つの「病」だというより、実際はうつという心の痛みのために起こる辛い状態の総称、と考えたほうがわかりやすいでしょう。

写真=iStock.com/sdominick

ただ、最近の脳科学の発達によってうつ状態のときは脳内神経伝達物質と呼ばれるセロトニンやノルアドレナリンが減少しているのではないかと考えられるようになっています。しかし、単に神経伝達物質の異常だけではなく、神経のネットワークに変化が起こっている可能性も指摘されています。

発症のきっかけは、両親など大切な人を失う喪失体験、転勤や昇進など環境の変化、職場の人間関係、病気や体調の悪化です。

ただ、こうした強いストレスにぶつかったときの気分の上下は、皆さん普段から経験していますね。

うつはある意味で、イヤなことに出合ったとき、いったん退却して精神的な態勢を立て直すための適応的な反応ともいえます。

■男性はアルコール依存症になりやすい

適応的な反応でも、それが行きすぎるととても辛くなります。生活にも支障が出てきます。そうしたときには医学的な治療が役に立つという意味で、病気と呼んでいます。

一般に、生真面目で責任感が強い人はうつ病になりやすいといわれます。しかし、うつ病は誰でもかかるもので、その人にとって苦手な状況におかれたときに発症すると考えたほうがいいでしょう。

人間関係を大切にする人は、仕事の成績よりも職場の人間関係の挫折が重くのしかかりますし、パフォーマンス重視の人は業績が落ちると気分も落ち込みます。たまたま「当たりどころが悪かった」だけで、誰でもうつ病になる可能性があるのです。

また、女性は男性の倍以上、うつ病になりやすいことがわかっています。業績をあげてもなかなか評価されない「ガラスの天井」に象徴される社会的な要因や、月経や妊娠・出産などによるホルモンの変化があることに加え、女性は「思考」を通じてストレスに対処しやすく、ストレスが心の中にたまりやすいという傾向があります。

一方、女性に比べて「行動」でストレスに対処することの多い男性は、そのためにアルコール依存症になりやすいことが知られています。

ただし近年では、女性の社会進出が進むにつれて、こうした男女差は小さくなってきているという国際的な研究結果も報告されています。

誰でもなる「うつ状態」は病気?
1:やる気が出ないときどうするか

日常的な軽い落ち込みから、うつ病と診断されるまでの症状は、地続きで変化しています。ですから「ここからがうつ病」と明確に一線を引くことはできません。たとえば、両親や親友と死別したときに、数カ月間落ち込むことは病気なのでしょうか?

これまで「死別反応」については、眠れない、食べたくない、などうつ病の症状を示していたとしても、少なくとも「後を追いたい」など不穏な言動がない限り、当たり前のこととして周囲がそっと見守ってきました。

精神科医のバイブルともいわれる米国の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」でも、これまで死別にともなう「うつ」については、例外的に病気と診断してはいけない、という除外基準がありました。ところが、2013年に改訂された最新版DSM-5では、死別反応を「うつ病」の範疇に入れ、2週間経っても改善の様子が見られないときは、うつ病と診断できるとし、医療の介入を認めたのです。これに関しては、世界中の精神科医から非難の声が相次いで、病気かどうかは最終的に精神科医が判断する必要があるという但し書きがつきました。

もっとも、病気と診断されようがされまいが、身近な人と死別したときの人間の反応に変わりはありません。ひどく辛くて生活に支障が生じるようだと医学的な治療が役に立ちます。その一方で、回復のためには、時間とともに病的な気分や行動を少しずつ克服していく自分の力も大切です。

■「重さと時間と経過」を見ること

死別のような大きな体験でなくても、私たちは失恋や転勤、昇進などの小さな喪失を日常的に経験しています。うつ病の患者さんでなくても、気分が沈み込むことは日常的にあります。こうした軽い落ち込み、つまり「うつ状態」を、安易に「うつ病」と診断するべきではありません。

一般的には、気分の落ち込みなど典型的な症状が2~3週間続いたら「うつ病」を疑います。ただし、この2週間というのも根拠があってないようなもので、私がよくお話ししているのは「重さと時間と経過」を見ること。

たとえば、仕事上のミスで落ち込むことは誰でも経験しますね。それでも、数日経てばまた頑張ろうと思えてきます。しかし、徐々に抑うつ気分や眠れないなどの症状が悪化し、あるいは全く立ち直る気配がない場合は、医療機関を受診したほうがいいでしょう。

熱があっても、少しずつ下がっているなら様子見ですが、そこからさらに上がるようなら、病院の診療や薬が必要になる――「うつ病未満」と「うつ病」を見分けるのも同じことなのです。

「重さと時間と経過」に注意し、とにかく辛くて何もする気が起きない、仕事や家事、睡眠や食事といった基本的なことに支障が出ているなど、明らかに生活に悪い影響が生じている場合は、医療の手を借りたほうがいいでしょう。

ここまできたら病院の手助けも
2:「うつ病」かもしれないと思ったら

うつ病には、次にあげる9つの典型的な症状があります。

(1)抑うつ気分。憂うつで何の希望もないという気持ちです。いまにも泣き出しそうな表情や、やつれた雰囲気からまわりの人が気づくこともあります。
(2)興味や喜びの喪失。いままで楽しんできた趣味や活動に興味を持てず、性的な関心や欲求も減退します。
(3)食欲の減退、または増加。食欲が低下し、体重が減ることも珍しくはありません。逆に甘い物や、特定の食べ物ばかりを欲しがるケースもあります。
(4)睡眠障害。不眠または過眠のことです。不眠はうつ病の典型的な症状。
食欲と睡眠という人間にとって大切な欲求の障害が2週間以上続くようなら、専門医を受診したほうがいいでしょう。
(5)精神運動の障害。はっきりわかるほど、身体の動きが遅くなり、口数が少なくなります。逆に焦燥感が募って、落ち着きなく動きまわる人もいます。表面的には元気そうに見えるので注意が必要です。
(6)疲れやすさ、気力の減退。
(7)強い罪責感。何の根拠もなく自分を責めたり、過去の出来事を思い出してくよくよ悩むようになります。
(8)思考力や集中力の低下。
(9)死への思い。うつ病が重くなると、気持ちが沈み、辛くて辛くて「死んだほうがまし」という考えが頭から離れなくなります。自責の念から「自分なんかいないほうがいい」と突然、死にたいという衝動に襲われることも。

初期の段階でまわりが気づきやすい症状は、ぼんやりして笑顔が減った、食欲が明らかに落ちている、などでしょう。ビジネスパーソンが朝なんとなく朝刊を読めなくなる「朝刊症候群」や、夜中に目が覚めて、寝床の中で悶々と思い悩む「午前3時症候群」も手がかりになります。

先にあげた(1)か(2)のどちらかを含めて、5つ以上の症状が2週間以上続くようなら専門医を受診しましょう。

明らかに辛そうなのに、本人が「これくらいのことは何でもない」と頑張りすぎていることもあります。そんなときは家族が「重さと時間と経過」を観察して、リングサイドからタオルを投げ入れることも必要です。

▼自分では気づけない! うつ病のはじまり
日常行動:口数が少なくなる/イライラしている
人間関係:付き合いが悪くなる/気弱になる
仕事:仕事が遅くなる/集中力が低下する/ミスが増加する/遅刻・欠勤が増える
身体症状:睡眠障害/食欲低下/全身倦怠感/肩こり
出典:大野 裕『最新版「うつ」を治す』

これをやったら悪化する
3:やっていいこと、悪いこと

心と体を休めるように、という心身からの警告がうつ病です。ですから治療中は「ラク」が一番。働いている人は、上司に相談して仕事を調整するようにしてください。家事や育児も家族の手や業者のサービスを頼んで負担を減らすようにしましょう。

少し疲れが取れてきたら、興味があることや、以前好きだった活動を再開してみてください。やりがいを感じたり、気持ちがラクになる行動を少しずつ増やしていくことは「自分にもできることがあるんだ」という発想の転換につながります。いつものように仕事や家事ができていないのに楽しむようなことをするなんてと罪悪感を抱くかもしれませんが、うつ病の場合は楽しい時間そのものが治療です。

体を動かすことも気分をラクにします。体を動かすと気分が変わるというエビデンス(科学的根拠)もあります。散歩など、簡単なことから始めてみてはどうでしょうか。ただし、歩きながらあれこれ心配事を反芻してしまうと、少しも気持ちがラクになりません。散歩中は風を感じたり、道端の草花に目をやったりするなど、散歩という「いまの行動」に集中しましょう。

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