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人は見たいものしか見えない-だからこそ監査が不可欠

富田林の逃走容疑者が、顔をさらして「道の駅」支配人の記念撮影に応じていた、というニュースに驚いた方も多かったのではないでしょうか(たとえば写真付きの毎日新聞ニュースはこちらです)。色黒く精悍な風貌ではあるものの、新聞を賑わせた犯人写真と比べればすぐに同一人物とわかるはずであり、「なぜわからなかったのか!?」「なぜ大胆にも記念撮影に応じたのか?」などと疑問を抱いた方も多いと思います。

ただ、認知心理学の世界では有名な「ゴリラのバスケット実験」(youtube動画)をご存知の方であれば、道の駅の職員の方々がわからなかったのも無理はないかもしれません。実は私も「ゴリラのバスケット実験」では最初は被験者となり、バスケットチームのパスの回数を必死で数えていることに集中していて、ゴリラの存在にはまったく気づきませんでした。

なるほど「人は視界に入っているものでも、意識して見たいと思ったものしか見ていない(知覚していない)」ということかと思います。彼の生き方に共感した支配人には、もはや彼を「逃走容疑者」と疑う気持ちにすらならなかったはずです。

企業でも、同僚のB氏が「Aさんは昔からよく知っている。きちんと自分の仕事はこなす人」と思ってしまうとA氏の不正を見抜くことはむずかしい。一度「誠実な人」という予断を抱いてしまいますと、そもそも懐疑心など湧くはずもないからです。

この逃走容疑者の場合、おそらく自分でも「樋田淳也」ではなく「櫻井潤弥」に完全に生まれ変わったつもりだったのではないかと(だからこそ、別の道の駅で女性警備員に詰問されたときも、とっさに逃亡することなく櫻井潤弥として事務所へ向かったのではないでしょうか)。知人と一緒に日本一周の旅を続けている姿に共感してしまうと、彼と面識をもった者は、もはや逃走容疑者と疑うことも一切なかったものと思います。

道の駅での逮捕劇は、彼の身元への関心を持たず、ただその行動に疑念を抱いた警備員による不正発見が端緒でした。企業不正の発見にも、対象者の身元への関心を持たず、ただただ不正の疑惑に目を向け、職業的懐疑心を発揮すべき人が必要と思います。

「彼は昔からよく知っている」ということから目が曇りそうになるのは当然です。でも、内部監査や監査役、会計監査人に携わる方々は「上司のためではなく仕事のため」「社長のためではなく会社のため」にこそ職業的懐疑心を抱きながら業務を遂行することが求められます。

「重箱の隅をつついて、小さなミスが出てくると鬼の首を取ったような物言いをする」「内部監査の次は監査役監査って?なんで同じことを何度も説明しなきゃいけないの?」などと監査担当者には批判の声が向けられます。もちろん、監査の効率性を向上させる工夫は必要ですが、監査の目的、役割を広く一般の社員の方々にも理解してもらうことも大切です。警察にとって屈辱的な前代未聞の逃走劇は、道の駅を巡回していた女性警備員の方々によって終止符が打たれたという事実は、多くの教訓を含むように感じました。

なお、最後に私の素朴な疑問ですが、彼が支配人に残した置き手紙の文面から推察するに、逃走した彼は、自分でも「櫻井潤弥」になってしまっていて、支配人のいた道の駅では窃盗行為はしていないのではないでしょうか。逃亡のための「仮面」であればすぐにバレてしまったかもしれませんが、本気で「自転車で日本一周をめざす櫻井潤弥」になっていたからこそ、誰にもバレなかったのかもしれません。これからの捜査の進展次第では「ひょっとしたら映画化されるかも?」などと不謹慎にも期待してしまいそうです。

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