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質か価格か シンガポール和食事情

イメージ図 出典:ACフリー画像

坪井安奈(タレント・編集者・プロモーター)

【まとめ】
・和食はシンガポールでもブームを超え、日常に溶け込んでいる。
・和食が広まった背景には「外食文化」がある。
・安さか、質か。今後、二極化がキーワード

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42106でお読み下さい。】

世界への和食ブームの広がりには目を見張るものがある。今や、sushi(寿司)やsake(酒)はほとんどの外国人に通じ、日本発の世界共通語がたくさん生まれている。

20数年前、私がニューヨークに住んでいた頃は、小学校のお弁当におにぎりを持っていくだけで同級生に変な物を持ってきたとイジられていたのに…。改めて、時代の変化を実感する。

そんな和食ブームは、私が今住んでいるシンガポールでも顕著だ。シンガポールは東京23区ほどの小さな国だが、東南アジアではタイ・バンコクに次いで在留邦人が多く、親日派も多い。街を歩けばラーメン店や和食レストランを至る所で見かけ、スーパーに入れば日本の食材やお菓子が並ぶ。sushiやsakeに留まらず、sashimi(刺身)、edamame(枝豆)、teppanyaki(鉄板焼き)、izakaya(居酒屋)…などなど、あらゆる日本の食に関する言葉を口にする外国人が行き交う。ブームを超えて、もはや日常に溶け込んでいるような印象だ。

実際、シンガポール人やシンガポールに住む外国人に「日本に対してどんなイメージを持っているか?」と質問すると、「アニメ・漫画」に並んで「美味しい食べ物」という回答が圧倒的に多い。タクシーに乗るだけでも、ドライバーに「日本人か?俺は、お好み焼きが大好きだ」などと、食の話題を持ち出されることが多々ある。日本人としては、自国のものを気に入って、好いてくれることは素直に嬉しく思う。

■自炊なし!? 外食文化のシンガポール。

シンガポールで和食がこれほどにまで広がった背景の一つには、「外食文化」が挙げられる。共働きの夫婦も多いシンガポールは、自炊をする習慣があまりない。ホーカーセンターと呼ばれる屋台のようなフードコートへ行くか、家で食べるとしても惣菜を買ってくるか、デリバリーをするのが日常的だ。毎月の平均外食費はS$700を優に超えるというデータも出ている。(編集部注:日本貿易振興機構(ジェトロ) 「シンガポールにおける日本食レストランの出店状況及び日本食材の流通状況調査」)

▲写真 Lavender Food Square, Singapore 出典:Photo by mailer diablo

そんな背景から、飲食店の数は年々増えており、トリップアドバイザー(「食べログ」のような世界的サービス)に登録されているシンガポールの飲食店は今や10000店舗以上に上る。そのうち和食に分類できる店舗(フュージョン料理、なんちゃって和食を含む)はなんと800店舗以上。外食文化のなかで、選択肢として和食が選ばれる機会も多く、徐々に和食が受け入れられていったと考えるのは自然だ。

▲図 シンガポールの月額世帯支出の内訳 出典:日本貿易振興機構(ジェトロ) 「シンガポールにおける日本食レストランの出店状況及び日本食材の流通状況調査」

小売の食品においても、シンガポールは充実している。値は張るものの、シンガポールの伊勢丹や明治屋へ行けば、日本のほとんどの食材が手に入る。日系スーパーに限らず、シンガポールで広く展開されているCold StorageやFairPriceなどのスーパーでも当たり前のように日本の食品コーナーがある。価格だけはネックではあるが、私自身、シンガポールで暮らしていて日本食に困ることはほぼないと感じている。

▲写真 伊勢丹シンガポール店 出典:伊勢丹HP

■安さの魅力。激化する価格競争。

これだけ食に充実しているシンガポールだが、同時に生き残りも厳しくなっているというのが現状だ。飲食店においては、毎月新しい店がオープンする一方で、多くの店が閉店に追い込まれている。特に、価格競争に巻き込まれてしまうと大きな影響が出る。シンガポールは世界一物価が高い国とも言われるだけあり、価格の変動には皆が敏感だ。同じ品質で価格が安いものが出てくると、皆が一斉に安い方へ流れていく。

たとえば、日本でもお馴染みの「ドン・キホーテ」が2017年12月にオープン(オーチャード店)した際には、シンガポールの食品業界に大きな衝撃が走った。日本でも安さをウリにしている同店舗なだけあり、シンガポールでも価格において他店舗と大きな差別化を図ってきたのだ。

▲写真 ドン・キホーテ オーチャードセントラル店 出典:ドン・キホーテHPP

ドン・キホーテは、日本では日用品や雑貨などのイメージが強いかもしれないが、シンガポールでは日本産の生鮮食品(野菜、果物、肉、魚)も幅広く取り扱っており、もはや日系スーパーのような印象が強い。実際、安さに惹かれて多くの日本人が買い出しをするのに明治屋や伊勢丹からドン・キホーテへシフトした。また、日本人だけでなくローカルのお客の利用率も高く、知り合いの外国人が「ドンドンドン、ドンキ〜♩」と店内で流れる歌を口づさんでいたりして笑ってしまう。ドンキのシンガポール進出は好調なスタートを切っており、今年2018年6月には2店舗目(タンジョンパガー店)をオープンした。

価格競争が厳しいのは、飲食店においても同じだ。酒税が高いシンガポールでは、各チェーン店がアルコール飲料の提供価格を競い合い、お客もその差を見逃さない。2017年12月には日本でも広くチェーン展開をする「串カツ田中」がシンガポールにオープン(クラーク・キー店)し、話題を呼んだ。日本の店舗でも提供している、サイコロのゾロ目が出たらハイボールが無料になる独自のサービスはシンガポールでも同様に提供しており、日本人だけでなくローカルの人々の間でも人気が高い。

▲写真 串カツ田中 クラーク・キー店 出典:串カツ田中HP

やはり、安さというのはシンガポールの人々にとって大きな魅力の1つなのだ。

■健康志向、本物志向のニーズも。

ただ、価格を安く設定すればそれだけで上手くいくかというとそうは問屋が卸さない。「熱しやすく冷めやすい」というのがシンガポールのカルチャーで、オープン当初は行列ができていたのに、数ヶ月後には店内がガラガラというのも稀ではない。安さの魅力というのは爆発的な威力を持つものの、なかなか長続きしないという厳しい現実もある。突然のライバルの出現で、より安い価格を強いられ苦しくなっていくという負のスパイラルにはまってしまう可能性があることも否めない。

そんな激しい価格競争のなか、その競争から抜けて、質やブランディングで勝負している店舗もある。たとえば、健康志向や本物志向に寄せている店舗などがそうだ。最近の健康ブームはシンガポールも例外ではなく、しかも富裕層が多く集まるシンガポールでは価格よりも質を重視する人々も一定数は存在する。そういったお客をターゲットに独自のコンセプトを打ち出し、一人S$300、S$400という高単価でありながらも、別の部分で魅力を発揮しながら経営を続けている店舗も少なくない。

安さか、質か。今後、この二極化がキーワードになってくると思われる。ただでさえ、選択肢に溢れている時代だ。どちらかに思い切って振り切ることも大切なのかもしれない。

和食は、世界に打って出られる日本の文化の1つ。アジアのハブであるシンガポールで和食がどのようなポジションを確立していくのか、今後も目が離せない。

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